京都大の2次試験の日に合わせて毎年キャンパス内に現れるユニークな張りぼての像がある。「折田先生像」だ。
アニメやCMのキャラクターなどがモチーフとなっているが、制作者は謎に包まれている。
今年の作品は、元号が「平成」に変わることを発表した小渕恵三・官房長官。「平成の終わり」を象徴したとあって話題になったが、実はもう1つの像も出現して注目を集めた。
国公立大の2次試験前期日程を数時間後に控えた2月25日未明。数十人の見物人が見守る中、複数の男が1体の像を設置した。
「平成」と毛筆で書かれた色紙を掲げ、縁の太い眼鏡をかけた男性の胸像。
元号が平成に変わることを発表した官房長官当時の小渕氏を模していることは明らかだが、台座には「折田先生像」と書かれていた。
入試日に合わせ、何者かが「折田先生像」を設置することは京大の風物詩になっている。
折田先生とは、京大の前身・旧制第三高の初代校長、折田彦市のことで、「自由な学風」を築いたことで知られる。
元々この場所には第三高の卒業生の寄付で作られた折田の銅像が立っていた。
だが、1990年代に入ると、学生によるとみられる落書きなどのいたずらが相次いだ。
落書きを消してもまた落書きされる「いたちごっこ」に、大学側は業を煮やした。銅像を撤去し、建物の中に保管した。
ところが今度は学生側が対抗手段に打って出た。2000年、張りぼての像を「折田先生像」と称し、勝手に設置し始めたのだ。
その第1号は人気漫画「北斗の拳」のキャラクター、ラオウだった。
それ以降も、ナウシカやゴルゴ13、キョロちゃんなど新たな像が次々と登場した。
もはや像の姿形は折田ではなくなっていたが、折田が伝えようとした「自由」を象徴する出来事として定着。大学側も学生の「遊び心」に理解を示すようになった。
恒例行事に異変
そんな京大の恒例行事に、今年はちょっとした「異変」が起きた。もう1つの像が出現したからだ。
その名も「オルガ団長像」。アニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」の主人公、オルガ・イツカをモチーフにしている。
オルガ団長像の写真はTwitterでも拡散し、本家の折田先生像に負けず劣らず話題となった。
オルガ団長像を制作・設置したのは現役の京大生らだったことがハフポストの取材で明らかになった。制作者の一人とのやりとりは次の通り。
──オルガ団長像を作ろうと思ったのはなぜですか。
最近「鉄血のオルフェンズ」を見て、オルガ・イツカが気に入ったんです。
で、折田とオルガって読み方が似てるじゃないですか。それで折田先生像のように立ててみようかと友人と話して決めました。
──制作は大変でしたか。
最初に下絵を描いて、石粉粘土で作りました。
元々絵を描いたり、立て看板を作ったいるするのは好きなんですが、絵を立体にするのは思いのほか難しいですね。表情や髪の毛。難しかったです。
結局2週間ほどかかって、完成したのは設置当日の朝5時でした。
──設置はどのようにしたんですか。
最初は正門近くのクスノキ前に置いたんですね。そしたら警備員さんから止められて。次に正門の大学の看板横に置いたらそこもだめだと。
とにかく大学の敷地の外に出せと職員に言われまして。仕方なく、別の出入り口の門の外に置くことになりました。
──入試当日とあってたくさんの受験生が大学にやってきたかと思いますが、反応はありましたか。
別の出入り口からもたくさん受験生が入ってきたので、結果的にすごく注目されました。
折田先生像に対抗して「新しい歴史をつくる」などと意気込んでいたので、よかったです。
「自由」が危機?
ただ、この学生は今回の設置をめぐり、不安も覚えたという。
オルガ団長像が敷地内から排除されただけでなく、これまで設置が黙認されてきた折田先生像まで大学側によって撤去されたからだ。学生はこう嘆く。
「これまで大学も折田先生像の設置については微笑ましくみていたと思うんです。それが今年は違った対応になって。折田先生は京大の自由な学風を作った人です。それを撤去するのはどうなんでしょう。京大がここまで変わってしまったのか、と思いましたね」