私はアリ・ビーザーと申します。28歳の写真家兼映像作家で、1冊だけ本を書いたこともあります。この6年間、私は原爆生存者、いわゆる被爆者の証言を記録しました。被爆者は核戦争の最後の目撃者なので、私たちは彼らから多くのことを学べると思います。私の作品はアメリカ政府、日本政府、ナショナルジオグラフィック協会からフルブライト奨学金を得て完成しました。
日米政府の両方が、広島と長崎への原爆投下を行った2つの爆撃機の両方に唯一搭乗していた乗組員であるジェイコブ・ビーザーの1番下の孫である私が、日本に住み、原爆で被爆した人々の物語を記録し、日本とアメリカの学生にお互いの国の考え方を教えることを、許してくれたのです。
私は、オバマ大統領が現職の大統領として初めて、当時のアメリカ大統領が破壊を命じた町を訪れ、歴史をつくる瞬間をこの目で見ました。私は即席の会見場に行き、あなた方2人が核兵器のない世界の緊急の必要性について語っていたのを、畏敬の念を抱きながら見ました。そして首相、私は、かつての日本国首相が破壊を命じた真珠湾と軍事基地へ、今回あなたが歴史的な訪問をしたことを称賛します。
しかし、いくつか疑問があります。
あらかじめお断りしておきますが、私は社会問題や核問題、政治の専門家としてこれを書いているのではありません。世界中で日本だけに存在する、核攻撃からの生存者との、親密で唯一無二の経験を持ち、不安を抱いている地球市民としてこれを書いています。私はこの10年の大半を被爆者から学び、彼らの話、特に何に懸念を持っているのかを聞いてきました。世界は急激に、予測できないほど変化しています。被爆者の話を念頭に、次のことを首相に伺います。
真珠湾と広島の訪問にはどのような意味があるのですか?
あなたは、アメリカの国土で最もひどい攻撃を受けた場所の1つを訪問しました。内閣府は「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという決意を示すため」に訪問すると発表していました。しかし首相が憲法9条を改正し、軍隊を作る権限を持とうとしているのは誰もが知っています。
さらに首相、あなたはオバマ大統領に核兵器の先制不使用政策を採用しないように要請しました。あなたが「核の傘」で国民を守ろうとしているのは明白です。さらに、オバマ大統領は今後30年で1兆ドル(約115兆円)かけてアメリカの保有する核兵器を改良することに署名しました。大統領が広島やプラハで演説した内容と矛盾するように思えます。
5月、私はオバマ大統領の元核兵器アドバイザーであるゲーリー・セイモア博士にインタビューする機会がありました。セイモア氏は「大統領は核なき世界を追及すると言いました。私はその言葉を信じます。でも存命中には実現しないだろうと大統領が言ったことはみんな忘れているようです。核兵器を完全に除外できるような条件は存在しません。まずは地域に安定をもたらし、それを維持しなければなりません」と述べました。
首相、もし憲法9条を改正すれば、あなたの平和主義にあふれた国を戦争に向わせることになるかもしれません。そして周辺国から反感を買い、私たちを核なき世界から遠ざけるかもしれません。
東アジアの国際関係強化への長期投資に力を入れることを示すために、何をしますか?
ドイツの教育者たちは、第2次世界大戦中のナチスの恐ろしさや愛国主義の危険性を継続的に若者に教えています。ドイツは国内やその他の大国と平和を享受しています。日本では近代史が選択科目で、自国の歴史の方により力を入れています。日本の若者は歴史にますます無関心になっています。もう少し関心を持たせることはできませんか? ドイツがアメリカ、EU、イスラエルと関係を改善したように、日本もいつか中国や韓国と親しくなれる日がきますか?
日本とアメリカとの関係は奇跡に近いものです。私たちは憎しみあっていた敵から最も親しい友人になりました。明らかにまったく違う文化ですが、両国の政府はとても協力的です。
しかし、現在東アジアの情勢は友好とは程遠いものです。このような和解の精神を周辺国に対しても示していただけませんか? 首相の真珠湾訪問はアメリカとの和解を示すメッセージとして伝わっています。でも日本が戦時中の残忍な行為を認めないことにまだ怒っている人たちを十分になだめることができなければ、不誠実だという批判も起きるかもしれません。
この和解の精神をトランプ次期大統領と共にどうやって維持するのですか?
あなたは私たちの国の次期大統領を最初に訪問した国家元首でした。孫正義氏は500億ドル(5兆7451万円)をアメリカに投資すると言いました。トランプ氏は消費者の信頼をここ数年で最大に伸ばしましたが、地球規模の政策になると何の変化も示していません。実際、トランプ氏はそうした政策を軽視しています。アメリカが中国と気まずい関係になれば、控えめに言っても地域の安定を図るのは難しいでしょう。関係が悪化していけば、どうなっていくのかは誰にも分かりません。
いつか、私は自分の孫に「僕の祖父は世界でただ1人、2つの場所で原爆を投下した両方の爆撃機に乗っていたんだ。そして君たちの祖父、つまり私は、アメリカの大統領が初めて広島を訪問し、日本の首相が初めて真珠湾を訪問したのを同じ年に見たんだ」と伝えたいです。
私は自分の孫にどのような世界でこれを伝えられるでしょう? 包括的で安全な世界でしょうか? 折り合いをつけ、核兵器のない世界を実現しているでしょうか? それとも、原爆、核兵器による地球規模の飢饉に悩まされ、世界中に新たな被爆者が生まれた、悲惨な未来を生きているでしょうか?
首相は日本国民のことを第1に考えていると信じています。あなたが熱心に平和を追求していると信じていますが、それを反映する政策を歴史的な訪問に続いて実施するべきだとも思います。あなたが「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と言ったように、これからも和解のために尽力してほしいと願っています。