福島県いわき市の老舗鮮魚店「おのざき」は2月21日、未利用魚を使用したココナッツカレー缶「SpiSea Blue(スパイシーブルー)」の販売を開始した。
創業100年のおのざきは、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で大きな被害を受けた福島の水産業を盛り上げるため、新しい挑戦を続けている。
4代目の小野崎雄一さんが同日、東京都渋谷区のカレー店で開かれたお披露目会に参加し、「福島の浜通りは今、日本で最も“アツい”地域。おいしさを世界に発信していきたい」と意気込みを語った。
創業100年「常磐ものをなくしてはならない」
おのざきは1923年、雄一さんの曽祖母にあたるウメさんが10人の子どもを養うために創業し、2代目の英雄さん、3代目の幸雄さんとバトンを繋いできた。
しかし、幸雄さんが3代目に就任した2年後に東日本大震災が発生。おのざきも津波で店舗が被災し、地元の水産業も原発事故で大きな被害を受けた。
誰もが希望を失いそうになる中、幸雄さんはめげなかった。津波被害を免れた唯一の製造ライン「厚揚げソフトかまぼこ」を引っ提げ、首都圏のイベントに何度も足を運んで「安全・安心・美味しい」をPRし続けてきた。
東京で働いていた雄一さんも2019年夏、地元にUターン。幸雄さんから「おのざきの経営危機」について聞き、翌年、おのざきに入社した。
雄一さんは、「おのざきを続けていくため、目の前の課題を一つずつ潰してきた。忙しすぎて当時の記憶はないが、県内最大級の鮮魚店の責任として、福島の『常磐もの』をなくしてはいけないと奔走してきた」と振り返る。
ゼロどころかマイナスから立ち上がってきた
常磐もの。
いわき沖は、親潮と黒潮がぶつかる「潮目の海」で、豊富なプランクトンが生息する。その漁場で魚は脂がのっており、ヒラメなどの常磐ものは東京・築地の市場(当時)などで高く評価されてきた。
しかし、原発事故で福島県沖は自由な漁が10年間制限され、水揚げ量が激減した。2023年の県沖沿岸漁業の水揚げ量(6530トン)は震災後最も多くなったが、震災前と比較すると水揚げ量は25%程度にとどまっている。
雄一さんも「潰れた同業者も多い。今も水揚げ量が増えないので辛い状況は変わらず続いている」と話す。しかし、「福島の水産業はゼロどころかマイナスから立ち上がってきた。自分にできることは、福島を背負ってるという思いで魅力を発信すること」と前を見据えた。
その言葉通り、おのざきでは様々なことにチャレンジしている。浜通り地域を人が集まる街にしたいと、おのざきの旗艦店「鮮魚やっちゃば平店」を大規模改装することに決めた。
今回、ココナッツカレー缶「SpiSea Blue」を販売するのもチャレンジの一つで、雄一さんは「希望の光にしたい」と意気込んでいる。
SpiSea Blueに「カナガシラ」を使用
SpiSea Blueは、「spice」と「sea」を合わせた造語。原材料にカナガシラのすり身を使用している。
カナガシラの成魚は30センチほどで、煮付けや味噌煮、フライなどで食べる人が多い。固い頭を持つことから「丈夫な歯が生えるように」と、お食い初めの縁起物としても利用される。
一方、骨が多いことなどから人気が出ず、取れても廃棄やリリースされる「未利用魚」の一面もあった。ここに目をつけたのが、雄一さんだ。被災地の食産業を支援する「東の食の会」(東京)も、企画・パッケージデザインでサポートした。
試行錯誤して仕上がったSpiSea Blueは、シンプルなスパイスの辛さと爽やかな酸味が特徴の南インド風のココナッツカレー。「肉みたいな食感」が特徴のカナガシラの旨みも十分に引き出されている。
パッケージデザインは、未来に向かって力強く進む福島の輝きと、街を支える海の色をイメージして制作された。3つの缶詰を包むトレーシングペーパーには、雄一さんの次世代への思いがつづられている。
2月21日には、東京都・渋谷のカレー店「KENICK CURRY」でSpiSea Blueのお披露目会が開かれた。
福島の生産者として、雄一さんや大熊町でキウイ栽培を始めた原口拓也さんが参加。同店オーナー兼シェフのケニックさんが、おのざきが提供したカナガシラとアンコウを使った特製カレーを来場者に振舞った。
舌鼓を打つ人たちを見ながら、雄一さんは「今、福島には供給を上回る需要がある。水産業界で連携をとり、福島の魅力を発信し続けていきたい。ぜひ福島に足を運んでもらい、美味しい魚も味わってほしい」と語った。
SpiSea Blueは、3缶セットで2700円(税抜き)。おのざきの店舗や「おのざきオンラインストア」で購入することができる。