生理痛・PMS、頭痛などの不調を「我慢」しながら仕事や家事をした経験がある人は多いのでは?そんな不調に対して「我慢する」以外の選択肢を取れる社会を目指して活動を続けるのが、ツムラの#OneMoreChoice プロジェクトだ。2021年から調査や、対話のきっかけづくりなど、多様な活動を積み重ねてきた。
今回、#OneMoreChoice プロジェクトとハフポストは、生理・PMSの不調にまつわるコミュニケーションに注目。生理・PMSの課題に関心のある20代前半の座談会、有識者座談会、ツムラ担当者・ハフポスト泉谷編集長座談会の全3回の記事を配信する。
3回目の本記事では、ツムラの#OneMoreChoice プロジェクト担当者2名とハフポスト泉谷編集長が座談会を実施。1回目の生理・PMSの課題に関心のある20代前半の座談会、2回目の有識者座談会を振り返りながら、生理のつらさを我慢しなくていい社会を目指すためにできることを考えていく。

「生理のつらさを、我慢しなくていい社会」を目指す活動
泉谷:過去2回の座談会を振り返ると、みなさん、ツムラの#OneMoreChoice プロジェクトが「生理のつらさを、我慢しなくていい社会」を目指して活動していることについては賛同していました。一方で、昨年に中止されたイベント「ちょっと生理いま邪魔しないでよプリ」については、「背景にある意図、文脈の伝え方」など、コミュニケーションのあり方のところで齟齬があったのでは、という意見でした。あらためて、#OneMoreChoice プロジェクトやイベントについて教えていただけますか?

大山:#OneMoreChoice プロジェクトは、「生理のつらさを、我慢しなくていい社会」を目指して、ツムラが2021年から続けている活動です。これまで、生理やPMSには多様な症状やつらさがあること、不調の時に我慢に代わる選択肢があることなどを発信し、不調や我慢に関する様々な調査や、企業、学生向けの研修を実施してきました。

新たな取り組みとして2024年に企画したのが、一人ひとり違う生理痛・PMSなどの症状によるつらさを可視化したキャラクターが写りこみ、それにより日常生活に支障が生じる様子を表すプリント写真機の体験型ポップアップイベント「ちょっと生理いま邪魔しないでよプリ」でした。体験者が回答したアンケートに応じて、その人が感じている生理痛・PMSの症状によるつらさを表した「じゃまするず」が撮影画面に現れ、思いがけない動きで撮影を邪魔し、症状によるつらさが日常生活に影響している様子を撮ることができるというものです。イベント告知後、生理痛や PMSに対するご自身の経験をふまえたお声や、厳しいご意見、開催を希望されるご意見など、企画に対して様々なコメント(下記一例)をいただきました。

生理やPMSのつらさを誰かに伝えることも選択肢の一つ
泉谷:どんな背景や狙いで、この企画を立てられたのでしょうか?

宮城:まず、背景をお話しすると、調査結果で得られた知見や、2022年から企業・団体・大学などへ無償提供しているオリジナルの研修で伺ったご意見がもとになっています。研修では、ライフステージごとに起こり得る不調や、その対処法への知見を深め、ワークを通して自分なりの対処法や選択肢を考えていただきます。大学生向けの#OneMoreChoice 研修で実感したのは、「不調を我慢している人」や「生理やPMSのつらさを誰かに伝えたいと思っている人」であっても、人に言ってはいけないという思い込みで抱え込んでしまっている場合が多いことです。でも、研修の中で不調を我慢している人が多いことを知り、理解を深めていく過程で、「実は…」とご自身から話される方が多くいらっしゃいました。また、それによって「気持ちが軽くなった」「不調について話していいんだと気づいた」という声がたくさん聞かれました。

また、私たちの「生理やPMSに関する大学生の不調実態調査」(※1)で、女子大学生の約62%は「生理やPMSの不調を誰かに相談したい」と思っている一方で、約69%の方はそれ以上に「相談しにくい」と思っていることがわかりました。

そこから、学生や20代の方たちに「生理やPMSのつらさを誰かに伝えることも選択肢の一つ」だというメッセージを伝え、「我慢に代わる選択肢を考える体験機会をつくりたい」という思いで、今回のイベントを企画しました。SNSやウェブなどで情報として得るだけでなく、実際に隣にいる人と話すという体験をすることによって、より理解が深まりやすくなると考えたんです。研修には一度に参加いただける人数が限られますが、これまでとは違う発信によって、より多くの方、新たな方へ伝えていきたい、という思いもありました。

多様な角度からの包括的な発信が重要
泉谷:たしかに、今回の企画は不調を可視化することで、生理やPMSのつらさを誰かに伝えるきっかけや、自分自身の不調と向き合う機会になりそうです。誰かと不調や悩みを共有することで、自分の状態がわかってくることがありますよね。SNSなどに寄せられた意見には、どう向き合われましたか?
大山:私たちはもちろん、本プロジェクトの担当者全員でコメントを読みました。いただいたご意見はすべてが資産だと思っています。生理やPMSの症状やつらさの度合いも、置かれている環境も一人ひとり違い、また不調を我慢してつらい思いをしている人がたくさんいることをあらためて痛感しました。
生理やPMSにおける課題をテーマに扱う以上、様々な症状や環境と向き合う方への配慮やプリント写真機が持つ拡散のイメージへの考慮がより必要だったと感じました。

泉谷:1回目の生理・PMSの課題に関心のある20代前半の座談会、2回目の有識者座談会については、どう感じられましたか?
大山:SNSなどでいただいたコメントに加えて、生理・PMSの課題に関心のある20代前半の方や専門家の多様な視点をふまえることで、私たちの議論や見識を深めたいと考え、みなさまにお集まりいただきました。1回目の座談会では「(生理やPMSについて話したい人が)話すきっかけをつくる取り組みは大事」といった意見がある一方で、「邪魔という言葉が気になった」など、意図の伝え方に関する具体的なご意見も伺えました。私たちは、生理やPMSでいつも通りの日常を送れない様子を「邪魔しないでよ」という言葉で伝えたかったのですが、「生理が邪魔」という意味に誤解をさせる表現でもあったと感じました。また、生理・PMSについて話したい人も話したくない人もいる中で、話したいと思っている人にとっては、会話がしやすくなる何かをつくったり、実用的なものを提供したりするほうが、すごく響くのかなと思いました。
宮城:2回目の座談会では、産婦人科専門医の稲葉可奈子先生が「生理やPMSのつらさは、仕事など日常のパフォーマンスに影響する」とおっしゃっていました。「生理やPMSの症状、つらさは一人ひとり異なる」ことに加え「どう日常のパフォーマンスに影響を及ぼすのか」についても身近な人と話し、理解を広げることが必要とされていると感じました。
MOREDOOR(モアドア)の藤井一真さんは、「包括性を意識した発信」の重要性を語られていました。私たちも、これまで企画を検討する際や調査、研修など包括的な活動を意識してきましたが、うまく伝えられていなかったのかもしれませんし、まだ足りなかったと思います。生理痛やPMSの症状は多様ですし、一人ひとりが置かれている環境も異なります。これまでの活動で得た知見をふまえ、症状に悩む当事者だけでなく、その周囲も巻き込んで多様な角度から包括的に情報発信を続けることが大事だと、あらためて強く感じました。
我慢に代わる選択肢は、将来の自分を大事にすることにもつながる
泉谷:そもそも「私たちだけを変えようとしないで、社会を変えてほしい」と思っている人がとても多いのだろうと感じます。社会の何が問題なのか考えると、生理やPMSに関する正しい知識が不足しているために、理解が足りない職場だったり、「(生理のつらさへの様々な配慮に対して)ずるい」と言う誰かだったり…。
大山:「職場や学校を変えてほしい」という意見もたくさんいただきました。少しずつ状況が変わってきている実感はありますが、1回目と2回目、両方の座談会で「生理がないものとして社会が成り立っている」というお話があったように、生理の問題はどうしても後回しにされがちです。
泉谷:これまで、あまりにも生理のことが隠されてきたというか。2回目の座談会では、脚本家の吉田恵里香さんから「ドラマなどのエンタメ作品で生理は『描写する必要がないもの』とされていると感じます」という話もありました。
置き去りにされてきた課題を拾いあげて、社会を変えていくためには、個人や国だけでなく、企業にできることも大きいと思います。企業には消費者や顧客に向き合ってきた知見がありますし、「みんなが今、何に困っているのか」をよく知っている存在ですよね。そういった意味では、大きな力を出せる存在として、企業は社会を変えていくために重要な存在の一つなのかな、と思うんです。

宮城:例えば、「信頼性の高い調査」を実施し、世の中の課題を顕在化させることは、私たちの役割の一つだと感じています。調査自体が、生理を経験しない方や生理やPMSにまつわる問題に関心があまりない方を議論に巻き込む重要な要素の一つです。他企業様向けに行う研修でも、調査の具体的な数値があることによって「これは会社として取り組むべき問題だと認識できた」というご意見をいただいています。
これまで以上に周囲を巻き込んでいくことも大事です。ツムラでは、実際に生理休暇の社内名称を変更するなどの取り組みにより、取得率が少しずつ上昇しています(※2)。そういった取り組みや知見をもっと社会に発信できれば、企業同士がつながるきっかけにもなり得ますし、社会を変える一歩となりえるのではないかと思います。
泉谷:ハフポストは「会話を始めるメディア」をコンセプトの一つにしています。話題を提供することによって、社会の中に「生理についてもっと話してもいい」「我慢しなくてもいい」という空気をもっとつくっていきたいです。また、課題を指摘し、人々の会話を増やして、制度を変えていく役割を担いたいと思っています。
大山:ツムラとしては今後も、生理やPMSでつらい思いをしていて、ひとりで抱え込んでいる人に「ひとりで悩まないでほしい」「我慢以外の選択肢もある」と伝え続けていきたいです。今後は視野をもっと広げて発信していけるように、多様な声を拾いながら活動を続けていきたいと思います。生理・PMSのつらさを抱えている人の価値観も多様です。だからこそ、多様な人々の存在を可視化し、知るきっかけをつくっていく必要があると思います。そして、それが社会に選択肢を増やすきっかけにもなればと考えます。
宮城:忙しい日常生活の中で、自分の心や体と向き合う機会自体があまりないかもしれないですが、今の自分はもちろん、ここから続くライフステージにわたって、一人ひとり誰もが自分の心も体も大切にできる社会になるよう、少しずつ取り組んでいきます。今、感じている不調に対して、我慢に代わる選択肢を取ることは、将来の自分を大事にすることにもつながっていると考えています。これまでも研修などでは伝えていますが、今後はそういったことも広く伝えられるよう取り組んでいきたいと思います。
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※1 「生理やPMSに関する大学生の不調実態調査」調査概要
実施時期:2022年12月23日~12月24日/調査手法:インターネット調査 /調査対象:調査①全国の15歳~35歳の男女10000人(人口構成比に合わせて回収) 調査②「生理」「PMS」いずれかの不調を自覚する大学生の女性1000人/調査委託先:マクロミル
(撮影:川しまゆうこ)