PRESENTED BY 株式会社ツムラ #OneMoreChoice プロジェクト

生理の課題、どう伝える?医師やメディアも感じる、コミュニケーションの難しさと課題

【#OneMoreChoice プロジェクト × ハフポスト 座談会2 [全3回]】生理に関する課題について発信する中で感じる難しさや、企業に求める役割とは。産婦人科専門医や脚本家、メディア編集長に話を聞いた。

「生理のつらさを、我慢しなくていい社会」をどうつくっていけるのか──。

漢方薬のツムラは、生理痛やPMSに悩む人たちの声に耳を傾け、「不調を我慢せざるを得ない」人たちの力になりたいと課題に向き合ってきた。2021年に発足した#OneMoreChoice プロジェクトでは、調査や情報発信などに取り組み続けている。

今回、#OneMoreChoice プロジェクトとハフポストは、生理・PMSの不調にまつわるコミュニケーションに注目。生理・PMSの課題に関心のある20代前半の座談会、有識者座談会、ツムラ担当者・ハフポスト泉谷編集長座談会の全3回の記事を配信する。

第2回の本記事では、産婦人科専門医、朝の連続テレビ小説『虎に翼』で生理を扱い話題となった脚本家、漫画形式でこころやからだの悩みを発信するメディア編集長による座談会を実施。それぞれのフィールドで生理について発信する中で感じる難しさや、企業による生理に関する課題をめぐるコミュニケーションのあり方について意見を聞いた。

参加者プロフィール(写真左から)産婦人科専門医・稲葉可奈子さん:若者の身近な場所として渋谷・東急プラザで医院を開業し、生理痛やPMSをはじめとする婦人科疾患の治療についてメディアや書籍、SNS、企業研修などを通し発信している。脚本家・吉田恵里香さん:NHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』では主人公が生理痛に苦しむシーンを描き、『生理のおじさんとその娘』では生理用品メーカー広報担当者の父親とその娘の関係性などを描いた。MOREDOOR(モアドア)編集長・藤井一真さん:MOREDOORではTikTokで生理やフェムテック、ジェンダーについて漫画で発信している。(以下敬称略)、ハフポスト日本版編集長・泉谷由梨子
参加者プロフィール(写真左から)産婦人科専門医・稲葉可奈子さん:若者の身近な場所として渋谷・東急プラザで医院を開業し、生理痛やPMSをはじめとする婦人科疾患の治療についてメディアや書籍、SNS、企業研修などを通し発信している。脚本家・吉田恵里香さん:NHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』では主人公が生理痛に苦しむシーンを描き、『生理のおじさんとその娘』では生理用品メーカー広報担当者の父親とその娘の関係性などを描いた。MOREDOOR(モアドア)編集長・藤井一真さん:MOREDOORではTikTokで生理やフェムテック、ジェンダーについて漫画で発信している。(以下敬称略)、ハフポスト日本版編集長・泉谷由梨子
Sota Ohara

生理について伝える難しさ、伝え方の工夫は?

泉谷:診察やドラマの脚本、ウェブでの動画発信において、あらゆる年代、性別、立場の人たちに生理について伝える上で、どのような点に難しさや課題を感じますか。伝え方にはどのような工夫をしていますか。

吉田:ドラマなどのエンタメ作品で生理は「描写する必要がないもの」とされていると感じます。でも、描かないと生理が「ないもの」として扱われてしまうと感じ、NHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』の中では主人公が重い生理痛に悩むシーンを入れました。

以前、生理用品メーカーの広報担当者が主人公のドラマ『生理のおじさんとその娘』(NHK)を共につくった演出とプロデューサーの方も『虎に翼』のスタッフに入っていたので、「一緒にやろう」とそのシーンを実現することができました。生理が主題ではない、様々なジャンルのドラマでこそ、生理を扱うことに意味があると思っています。

脚本家の吉田恵里香さん
脚本家の吉田恵里香さん
Sota Ohara

稲葉:私は産婦人科専門医という立場から「生理のしんどさを我慢しなくていいんだよ」「治療法があるんだよ」と地道に伝えていますが、その中で知らないことや治療をしていないことを責めるような言い方にならないよう、言葉選びにはすごく気をつけるようにしています。ネガティブな印象を残してしまうと、治療に結びつかなくなってしまいますし、婦人科医への抵抗感にもなってしまいかねません。

医師からの発信は、困っている人や関心が高い人にしか届かないことが多いというのも難しい点ですが、メディアでの発信やドラマのワンシーンとして取り上げることは、社会に広く浸透していくきっかけになるので、大きな意味があると思います。

藤井:私が編集長を務めるMOREDOORでは、主にTikTokで漫画を用いながらこころやからだの悩みなどを発信しています。幅広い年代や性別の人たちに生理について伝えたい時は、生理の話題を最初に持って来ずに間口を広げて、「これは何だろう?」と関心を持ってもらえる導入にすることを心がけています。

どうしたらそのテーマに向き合ってもらえるかを逆算してコンテンツをつくり、関心があまりない人たちにスワイプされないような工夫をしています。

MOREDOOR編集長の藤井一真さん
MOREDOOR編集長の藤井一真さん
Sota Ohara

泉谷:20代などの若年層に届けたいけれども他の世代にも適切に届ける必要がある時には、どのような視点を大事にされていますか。

藤井:難しい点として世代間での「価値観の違い」がありますが、反対に「変わらないもの」は何かを探ります。新しい価値観を広めようとする時は、一方の価値観を否定してしまいがちですが、それが必ずしもベストな方法だとは思っていません。

答えを用意するのではなく、「(異なる価値観の人が)なぜそういう考えを持っているのかを一緒に考えてみようよ」と、全員が当事者として一緒に考えられる着地点にするなどの工夫もしています。

泉谷:漫画という手段だからこそ、あらゆる世代にも伝わりやすいのかもしれませんね。ハフポストでも2016年に生理についての企画を始め、継続的に記事を発信していますが、世代を超えて伝えていくことには難しさを感じています。

若い世代に伝えるという点では、情報や価値観の「押しつけ」にならないよう、「U30社外編集委員」を設けて、「U30の目線でニュースを届けるということはどういうことなんだろうか?」と考え、若い世代と一緒に発信する取り組みにも挑戦しました。

「自分にとってしんどいか」を基準に

泉谷:普段の診察や発信を通じて、20代前半の人たちは生理やPMSに関して、どのような悩みを抱えていると感じられますか。

稲葉:ここ数年はメディアでも生理についての話題が取り上げられることが増えてきたおかげで、相談に来る方が明らかに増えている印象はあります。それでも、「生理のことで婦人科を受診していいのかわからない」「受診したほうがいいのはわかったけれど、婦人科には行きづらい」などの声もまだ多く、やはり婦人科のハードルの高さはあるのではないかと思います。

「どれくらいしんどいなら受診していいのか」悩んだり、「(自分よりも)とてもしんどい人が受診するのかな」と思われたりしている人も多いのですが、「“自分にとって”しんどかったら婦人科に相談していい」ということがもっと伝わればと思います。虫歯になったら歯医者に行くのと同じような感覚で、生理がしんどかったら婦人科に相談するというような社会に変えることができればと思って、日々発信しています。

産婦人科専門医の稲葉可奈子さん
産婦人科専門医の稲葉可奈子さん
Sota Ohara

どう「表現」すれば、「話すきっかけづくり」になり得たか

泉谷:生理に伴う症状には、日常のパフォーマンスに影響してしまうものもあります。そのつらさを表現し、身近な人と生理について話すきっかけをつくるため、#OneMoreChoice プロジェクトは「ちょっと生理いま邪魔しないでよプリ」という一人ひとり違う生理痛・ PMSによるつらさが、キャラクターとなって写りこみ、日常生活への影響を表すプリント写真機の体験型イベントを企画したということです。

このプリント写真機は、生理に関するアンケートに答えると、その人の生理のつらさを表現したキャラクター「じゃまするず」が撮影画面に写り込み、日常生活への影響を表すものです。身近な間柄の人たちで、つらさについて伝えるきっかけになればというのがツムラの意向だったそうですが、イベント告知後、SNSなどでは様々な意見があり、ツムラは中止の判断をしました。「話すきっかけづくり」や「表現」の視点では、どのような点を工夫すればより企画の趣旨や思いが伝わりやすかったと思いますか。

吉田:大前提として生理については、話したくない人は話さなくていいし、オープンにしなければいけないことではありません。でも様々な症状の人がいるということを可視化し、それを知る機会は大切ですよね。生理について話すきっかけづくりとしては、すごくいいと感じます。

同時に、話のきっかけをつくることと生理をポップに表現するということはイコールではないのかなと思いました。多くの人に間口を広げたいという意図であまりポップにしすぎると、逆に人を傷つけてしまうこともあります。生理のつらさや深刻さは本当に、人によって差があるからです。ただ、正解はないと思うので、意見を受け止めながら、様々な発信を続けていくことが大切だと思います。

「生理について話す」ということ自体、まだ世の中の理解は広がっていないのかもしれないとも思いました。生理用品は見せてはいけないものではないけれど、生理用品を入れたポーチを隠す人も多く、そもそも自分が生理中であることを他人に知られたくない人が大多数の中で、プリント写真機の企画を通して生理について話す、というのはハードルが高かったのかもしれません。

脚本家の吉田恵里香さん
脚本家の吉田恵里香さん
Sota Ohara

稲葉:自分の具体的な生理の症状を人に話すことに抵抗を感じる人もいると思いますが、一般論として様々な症状の人がいる中で、「私の症状はこの人と一緒だ」という会話は生まれやすいイベントだったのかもしれません。

ただ、今回のイベントは、背景にある文脈を理解してもらう前にポップなイメージが前に出てしまったのではないかと思います。パッと見ただけで文脈まで理解してもらえるようにするという工夫は大事だったのかもしれません。

今回のような当事者向けのイベントだけでなく、男性や管理職などに生理痛やPMSの理解が深まるようなきっかけとなるイベントもあれば良いなと思いました。

藤井:イベントに伴い、生理痛やPMSによる様々な日常への影響をキャラクターとして分かりやすく可視化した点などは、学ぶ機会としてはすごく大事だなという印象を受けました。

やはりリアルのイベントでは、学びや気づきの量も違いますし、会話も生まれるので、リアルイベントを企画した点はすごく良いと感じました。一方で、生理に伴う症状で深刻な悩みを抱えている人のことを考えると、より様々な事情や考えの人がいるのだという包括性を意識した発信が必要だったとも思います。

MOREDOOR編集長の藤井一真さん
MOREDOOR編集長の藤井一真さん
Sota Ohara

企業に求められる役割は

泉谷:企業が生理について発信する際のコミュニケーションのあり方についてどう考えていますか。また、企業の役割としてどのようなアクションを期待しますか。

稲葉:企業にできることという点では、大規模な調査はそれなりの費用がかかるので、企業でないとなかなか難しいのかなと思います。データがあれば、それをもとにちゃんとした議論も生まれやすい。すごくありがたいと感じています。

藤井:明確な調査データがあるからこそ、それを軸にいろいろな会話ができるわけですよね。

吉田:個人で会話したときの終着点は、「とはいえ、難しい問題ですよね」となってしまうかもしれませんが、企業はその先にいくことができるかもしれない。次のステップに進む、モデルケースとなる企業が生まれるといいなと思っています。今は当たり前のことが、当たり前ではない社会だと感じています。モデルケースとなる企業には「こういうことが当たり前なんだよ」と打ち出していってほしいです。

稲葉:女性の当事者への発信が増えてきている中で、「わかっているけれど、病院には行きづらい」という方もいらっしゃるかと思います。そういう点では、男性や管理職層、PMSの症状がない女性なども巻き込んでいくことも、より良い社会になっていくきっかけになると思います。

この間も、娘さんにPMSの症状があって気分のムラがあるということで受診に来られた方がいて、お母さんから「これは本人のせいじゃないんですね?」「これはPMSの症状なんですか?」と何回も聞かれました。お母さんにとっては経験していない症状だから、にわかには信じられなかったようです。女性同士でもわからないことはありますし、男性の上司の方が理解できないのも不思議ではありません。社会全体で理解が広がっていくと良いと思います。

産婦人科専門医の稲葉可奈子さん
産婦人科専門医の稲葉可奈子さん
Sota Ohara

泉谷:発信やコミュニケーションは「入り口」として必要ですが、企業が実際に変わることが求められていると感じます。

稲葉:そうですね。企業には自社の社員が働きやすくなるような取り組みを進めてほしいです。生理で婦人科にかかりたい時にフレキシブルに休める時間休などの制度の導入も良いかもしれません。

症状が重いから休まざるを得ないだけで、しんどくなければ普通に働きたい人も多いですよね。受診することで治療につながれば、仕事のパフォーマンスが落ちたり、やむなく休んだりすることもなくなり、ご本人にとっても組織にとっても良いのではないでしょうか。私自身が企業で研修をする際は、組織側に変わってもらいたいという思いで、管理職の方にも参加してもらうようにしています。

企業は何を発信し、どうアクションを起こしていける?

泉谷:現在の日本の生理の課題をめぐるコミュニケーションやアクションで、以前よりも前進したと思う点はありますか。今後さらに改善されるべきだと思う点も教えてください。

MOREDOOR編集長・藤井一真さんとハフポスト日本版編集長・泉谷由梨子
MOREDOOR編集長・藤井一真さんとハフポスト日本版編集長・泉谷由梨子
Sota Ohara

藤井:生理の話題も以前と比べ大幅に増え、フェムテックという言葉の認知も増えました。ただ、関心があまりない人たちにどうリーチしていくかという課題はありますし、実際のコミュニケーションやアクションという観点で見るとまだまだこれからだとも感じています。

吉田:生理のつらさは「自分が我慢すればいいんだ」となってしまいがちですが、本当はそうではありませんよね。「苦しんでいる時間がもったいなくない?」という考え方は今は少ないかもしれないので、「それはわがままじゃない」「あなたが弱いわけでも怠惰なわけでもないよ」と伝えることも大事なのではないかと思います。

また、生理をめぐる問題は単体ではなくて全部つながっていて、一つだけが底上げされたとしても揺り戻されてしまいます。生理の問題が解決することはもちろんいいことですけれども、すべての問題が底上げされないとアップデートされないのではないかと思います。興味や理解が深まっていって、「それじゃあ次の問題に進もう」となっていくといいと思います。

稲葉:生理の症状の治療に使う薬の出荷量を見ても、治療をする人が増えているということが分かります。それでもやはり診察をしていると、「今までずっと我慢していました」という方がまだまだいらっしゃるので、今後はそういった方たちにも企業の発信も含めて情報が伝わり、治療や症状改善につながればと思います。私自身も地道に発信を続けていきますし、社会全体にそのような認識が広がり、企業自体も組織として変わっていってほしいと思います。

藤井:本当ですね。長い道のりという前提が大事だと思いますが、大企業が変わっていく意義としては、中小企業を含む他の企業を牽引していくという意味があるのかなと思います。良くも悪くも、日本の企業は横並びで「あそこがやっていたからうちもやろう」と、事例を真似ていく風潮がありますが、そのムーブメントは副次的な意味でもすごく必要で、活かすべきだと思うんです。

人生の中で働く時間はすごく長いですし、企業に属している時間も長いわけですよね。自分が働く企業が人的資産である従業員に向き合って、発信したりアクションを起こしたりしていたら、すごく嬉しいのではないでしょうか。

若い世代は就職活動でも、企業のそういった側面を重視していると感じます。社会にとっても良い流れができるような変化を企業が起こしていければ、ベストなのではないかと思います。

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(撮影:小原聡太)

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