お正月に欠かせないお餅。一方で、お餅が喉に詰まり、救急車で運ばれるのもこの時期だ。「ひとりでお餅は絶対食べないで」。国際医療福祉大学三田病院(東京都港区)の志賀隆救急部長は注意を呼びかける。なぜなのか。
■「お餅」で運ばれる人、1月に集中
東京消防庁のまとめによると、都内では2016年までの5年間に、お餅をのどに詰まらせ、542人が救急搬送されている。そのうち4割近くが1月に起きている。
搬送された9割は65歳以上の高齢者が占める。
運ばれてきた人のうち、生命の危険が切迫している「重篤」やすでに死亡が確認されている人が4割近くいる。
志賀部長は「救急に運ばれてきても、お餅を詰まらせたのが原因で亡くなる人は毎冬1人はいます。胃につながる食道と肺につながる気道が分岐する喉頭蓋(こうとうがい)の付近にお餅が引っかかり、あともう少しで窒息するところだったという人もいました。鉗子で取り出したら直径3㎝のお餅が出てきた、なんてこともあります。多くはお年寄りですが、若い人だって大きな固まりをよくかまずに飲み込もうとしたら窒息します」
■なぜお餅が危ないのか
志賀部長によると、お餅が詰まる要因は二つあるという。
「まず、お餅自体の特性ですね。他の食材と比べ、ネバネバしているので嚙みきりにくく、飲み込みにくい。ほかの食材なら、飲み込んだ時に誤って空気の通り道(気道)に入っても、肺炎を起こす程度ですが、お餅は道そのものをふさいでしまい、窒息の原因になります。さらに、ほかの食材なら咳き込むことで外に出せるが、お餅は、ネバネバが邪魔して外に出にくいという特性がある」
「もう一つは人間側の要因です。高齢者は口の中が乾燥していて、お餅がくっつきやすい。加えて食べ物を飲み込む力(嚥下)、気道に入った異物を咳こんで外に出す力も、年齢が高くなるにつれ落ちてくる。80-90代だとなおさらです」
■それでも食べたい人に
「究極、お餅は食うな、と言いたいくらい」と言う志賀部長。
だけどお餅食べたい...。
どうすれば事故が起きにくくなるか、教えてもらった。
①お餅を小さく切る
志賀部長)「小さく薄く、5mm程度に切ってほしい」
②とにかくよくかむ
志賀部長)「よくかむと唾液が出て口の中が湿り、くっつきにくくなります」
③食べるなら汁物に入れて
志賀部長)「汁が口の中を湿らせてくれます」
④ネバネバが少ないお餅を選ぶ
もち小麦、うるち米を使ったお餅も売られている
⑤ひとりで食べるのは「ダメ、ゼッタイ。」
志賀部長)「助けてくれる人がいないところで、詰まってしまったら致命傷です」
■詰まったら
詰まったらどんな方法で助けたらいいかも尋ねた。
志賀部長はまず、お餅が詰まった人を見分ける方法を教えてくれた。
両手を首に持って行ってつかむしぐさで、「チョーキングサイン」と呼ばれる。「そのしぐさを見たら、『つまっているか』と聞いてみてください」
詰まったお餅を出す方法は、主に二つある。
本人の頭を前にかがめてもらい、背中を手の付け根でバンバンたたく「背部叩打法」
詰まった人の背後から抱きしめ、結んだ左右の拳を突き上げるようお腹を圧迫する「ハイムリック法」
周りに人が複数いれば、救急を呼ぶことも必要だ。
呼びかけに反応しなかったり、呼吸が止まったり、あえいだりするような様子なら、心臓マッサージが必要だ。1分間で100回の早さで、胸が5㎝沈み込むほどの強さで押し続ける。
広島県の北広島町消防本部が、詰まらせたときの対応をビデオに分かりやすくまとめ、Youtubeで公開している。記事であげている「背部叩打法」「ハイムリック法」も紹介している。