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沖縄に生息する絶滅危惧種のジュゴンを通じて、辺野古・大浦湾の自然の豊かさを描いたドキュメンタリー映画「ZAN ジュゴンが姿を見せるとき」が10月6日まで、横浜シネマ・ジャック&ベティで公開されている。
辺野古・大浦湾の海は、ジュゴンの餌場であるサンゴ礁が広がっているが、近年は米軍普天間飛行場の移設計画が進み、埋め立ての危機にさらされている。監督のリック・グレハンさん(47)は「本土にいる人々や米国人に問題を伝えていきたい。地域のイントロダクションになるようなシンプルな内容にし、全編に英語字幕もつけた」と話す。制作費は2000万円以上かかったといい、その費用の一部と、全国各地や海外で上映を広げる費用に充てるため、A-portで支援を募っている。
タイトルの「ZAN(ざん)」は、沖縄の言葉でジュゴンのこと。沖縄近海のジュゴンは、世界北限の独立した個体群だ。かつては台湾から奄美大島にかけてのエリアに広く生息していたとみられるが、現在は沖縄で数頭が確認されているにすぎない。
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映画は、ジュゴンとはどのような生き物なのか、人間とどのようにかかわってきたかなどについて、地元の住民や研究者、自然保護団体の人たちの話、沖縄の伝承などを通じて考えていく。辺野古・大浦湾の海中を潜って撮られた映像は圧巻。自然の美しさを伝えていくことで、それを脅かす基地移設の問題に警鐘を鳴らす。
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グレハンさんは北アイルランド出身。14歳から空手を習い、16歳から独学で盆栽に取り組んだという大の日本好きだ。10年前に来日し、4年前に広告制作会社イメージミルを設立。映像などを通じてサステナブル(持続可能性)やエシカル(環境保全や社会貢献)といった考え方を社会に広めることに取り組んでおり、売り上げの1%を環境保全活動などに寄付する「1%フォー・ザ・プラネット」の活動にも参加している。
グレハンさんは来日後、ニュースなどを通じて辺野古の問題を知るうちに、故郷・北アイルランドと沖縄の類似性を強く感じるようになった。故郷もイギリス政府からの圧力に直面してきた歴史があったからだ。日本自然保護協会のスタッフから現地の話を聞くようになり、「地元の人々の声が、本土になかなか届いていない。映像作品を作り、多くの人にこの問題を伝えたい」との思いがわいてきたという。
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「もしかすると、このアオサンゴ群集は世界で一つしか見られないものかもしれない」
(日本自然保護協会・安部真理子さん)
「現れたってことはジュゴンが何かメッセージを伝えに来たのではないか」
(沖縄県名護市議・東恩納琢磨さん)
映画の中では、スタッフが出会った人たちの言葉が、自然の美しさを伝える映像とともに淡々とつづられていく。

グレハンさんは「アクティビストではなく、一般の人たちに見てもらうためにこの映画を制作した。毎日の生活に忙しく、辺野古の状況をよく知らない人たちに、何が起きているかをちゃんと知ってもらい、今までよりも一歩前に出て考え始めてほしい。自然への思いが、立場が違ういろいろな人たちをつないでいくと思う」と話す。