けいざい早わかり:2017年の原油相場

産油国の生産協調に向けた動きや米国の原油在庫の動向に左右されながら、原油相場は一進一退の推移が続きました。

Q1. 最近の原油相場の動きを教えてください。

2016年の原油相場の動向を振り返ると、年初にあった中国経済に対する不安感が後退したことや、産油国間で原油の増産凍結といった生産協調の動きが出てきたことを受けて、3月頃にかけて反発に転じていました。しかし、4月17日のドーハでの産油国会合では、サウジアラビアとイランの対立などから、増産凍結で合意することが出来ず、原油市場でそれまで続いていた著しい「供給過剰」がさらに継続することが懸念されるような状況になりました。

その後、米国、インド、中国などの原油需要が堅調に推移したことに加え、カナダの森林火災やナイジェリアでの武装勢力による石油施設への攻撃などから、原油生産が落ち込み、原油需給が予想外にタイト化しました。原油相場は、6月上旬に国際指標であるブレント原油で52.86ドル、米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油で51.67ドルまで上昇しました。

しかし、7月後半には、再び原油相場は下落傾向が強まりました。最大消費国の米国で、ガソリンの需要期にも関わらず、ガソリン在庫が増加したことが、石油需要の強さが原油価格の上昇を支援するほどではないとの懸念につながったのでした。ブレント原油は8月2日に41.51ドル、WTI原油は8月3日に39.13ドルまで低下しました。

原油安が再び進むことへの懸念が強まる中、8月8日には、OPECの議長であるカタールのサダ・エネルギー相が9月26~28日にアルジェリアで開催される国際エネルギー・フォーラム(IEF)に合わせて、OPEC加盟国の非公式会合を行うと発表したことを受けて、OPECが原油生産の抑制のために協調するとの観測が浮上し、原油相場は上昇に転じました。

その後は、産油国の生産協調に向けた動きや米国の原油在庫の動向に左右されながら、原油相場は一進一退の推移が続きました。そして、9月28日には、アルジェリアで開催されたOPEC臨時総会で、2008年以来となる減産が合意されました。

原油生産量を、日量3,250~3,300万バレルに抑制する決定がなされたのでした。この会合は、OPECの非公式会合として開催されましたが、合意の見込みが立ったことで、臨時総会に格上げされました。この日のブレント原油は前日比2.72ドル(5.9%)、WTI原油は同2.38ドル(5.3%)上昇しました。

もっとも、国別の生産量の割り当てなど減産の詳細については、11月30日に開催されるOPEC定例総会で決定されることになりました。このため、その後も、産油国高官の発言等によって、原油相場が左右される状況が続くことになりました。

11月半ばにかけては、OPECが減産で最終合意することは難しいとの見方が強まり、原油相場は下落しました。11月後半は、産油国が再び減産合意に向けて協調する動きをみせ、相場は上昇する局面があったものの、OPEC総会が近付くと最終合意について懐疑的な見方が再び強まり、やや売り戻される場面もありました。

そして、OPEC総会で基準生産量(図表3参照)比日量約120万バレルの減産が最終合意されると、好感して原油は買われ、30日の終値はブレントが前日比4.09ドル(8.8%)高の50.47ドル、WTIが4.21ドル(9.3%)高の49.44ドルでした。

Q2. なぜ11月30日のOPEC総会で減産を合意できたのですか?

9月28日の臨時総会で大枠の減産合意はできたものの、その後、国別の生産枠を決定する際には、各国独自の事情があり、調整が難航しました。このうち、武装勢力による石油施設への攻撃による影響を受けたナイジェリアと、長引く内戦下で原油生産が落ち込んだリビアについては、減産合意の適用対象から除外することで、早期から加盟国間の理解が得られていました。

石油の純輸入国であるインドネシアは、合意当日になって、加盟国資格を一時停止することで減産合意から除外されたようです。

一方、イラクは、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦費を賄うために原油収入が必要だとして減産の適用除外を求めていましたが、11月23日にアバティ首相が「原油価格の引き上げを優先する」として、強硬姿勢をやや緩める動きがありました。

他方、核開発問題を巡る経済制裁前の水準である日量400万バレル超へと増産することを志向してきたイランは、直前まで減産の適用除外を求めていたようです。しかし、他加盟国が減産する中で、イランにだけ小幅増産(9万バレル)を認められた一方で、生産上限を380万バレル弱とすることで妥協が成立したようです。

今回の総会で協議が決裂した場合には、原油相場が再び大幅に下落する可能性が強く意識されていたことが、産油国が土壇場で合意する背景になっていたと思われます。

特にサウジアラビアとイランは、シリアやイエメンの内戦を巡って対立関係にあり、減産合意を難しくする背景とされてきましたが、今回の合意は、そうした政治的な要因を乗り越えて、経済的な妥協点を見出したということでしょう。各産油国とも、原油相場低迷による経済状況の悪化から抜け出したいとの意向が強いということです。

また、ロシアなど非OPEC産油国が減産で協調するとの約束を取り付けていたことも、今回の総会でOPECが減産合意を目指す動機になっていたと思われます。

Q3. OPEC総会を受けて、原油の需給は引き締まりそうですか?

事前に想定されたよりは、原油需給の引き締めに貢献しそうですが、実際に原油需給を引き締める効果は、限定的とみられます。

原油の需給バランスの推移をみると、2016年1~3月期までは大幅な供給過剰が続いていましたが、4~6月期以降は、カナダでの森林火災の影響や、ナイジェリアの石油施設への武装勢力の攻撃により、一時的に原油供給が抑制され、需給均衡に近付きました。

もっとも、すでにカナダのオイルサンドの生産は復旧し、ナイジェリアの原油生産も回復に向かっており、内戦の影響で長年落ち込んでいたリビアの原油生産も増加する動きが出ています。

また、米国では、油田開発の先行指標である石油掘削リグの稼働数が2016年5月をボトムに増加に転じており、今後、2015年春頃をピークに減少傾向で推移しているシェールオイルの生産も増加に転じることが見込まれます。

Q4. 今後の原油相場の見通しを教えてください。

当面の原油相場は、ブレント原油で1バレルあたり50ドル台前半での値動きが続くとみられます。OPECやロシアなど非OPECの減産は、原油相場の押し上げ要因ですが、原油価格が上昇すれば、米国のシェールオイルの増産姿勢が強まると思われます。また、合意した減産が本当に守られるかどうかという疑念も原油市場参加者の間に出てくるでしょう。

2017年1月以降は、各種データから産油国の減産順守状況が注視されるようになるでしょう。合意の対象外となったナイジェリアとリビアや、米国のシェールオイルの生産動向も注目されます。春頃にかけては、季節的に原油需要が伸び悩む時期を迎え、原油相場は上値が重くなると見込まれます。

5月25日には次回のOPEC総会が予定されています。原油相場や原油需給の動向をみながら、再び各産油国の生産枠について議論することになり、その結果が注目されることになるでしょう。各産油国が生産枠を順守しているかを監視するために設置された委員会がどのような役割を果たすのかも注目されます。

年後半にかけては、産油国の減産合意の効果もあって世界の原油供給の伸びが緩やかにとどまる中、中国やインドなど新興国を中心に原油需要が増加し、原油需給は緩やかに引き締まると見込まれます。こうした中、原油相場は上昇を続けると予測されます。ただし、原油相場が上昇すると、米国のシェールオイルの生産が増加し、原油相場の上値を限定する要因になると見込まれます。

もちろん、日々の値動きは激しく、2017年中にも一時的にブレント原油が60ドルを上回る局面があるかもしれませんが、年平均では55ドル程度と予測されます。その後は、2019年頃にかけて、ようやく60ドルに達するといった程度の緩やかな上昇になると見込まれます。

これまで原油価格動向よりも原油生産のシェア確保を重視して、自由に生産を行っていたOPECが、生産に上限を設けて、価格維持を重視する姿勢をみせたことは、原油市場において、大きな構造変化です。そもそも、2014年後半以降から2016年初め頃にかけて、原油相場が100ドル超の水準から30ドル割れにまで下落した背景には、OPECの行動様式が、それまでの「価格が下落すれば減産をして価格を維持する」というものから、「価格が下落しても減産しない」というものへと変化したことが原油高バブルの崩壊を招いたことがあったとみられます。OPECが再び原油価格を重視する姿勢をみせたことは、原油相場の下値不安を後退させることにつながると思われます。

ただし、もっと大きな構造変化として、米国のシェールオイルの台頭があります。OPECが「価格が下落しても減産しない」姿勢へと変化した背景にも、米国のシェールオイルが原油市場でシェアを拡大していたことがありました。また、シェールオイルの油田は、従来型の油田に比べて、増産・減産を短期間で行うことが出来ます。このため、OPECが減産することなどによって原油価格が上昇すれば、米国のシェール業者が生産を増やし、OPECの減産を相殺する力が働くことになります。米国のシェールオイルが台頭する以前に比べると、原油相場は上値を抑えられやすくなったといえます。こうしたことを勘案すると、原油相場の上昇テンポは、緩やかなものになりやすいと思われます。

Q5. トランプ米大統領の誕生は原油相場に影響しますか?

トランプ氏が米大統領選で勝利したことを受けて、大型減税やインフラ投資といった政策が、景気の押し上げやインフレ率の上振れにつながるとの見方が強まっています。これを受けて、米国を中心とした長期金利の上昇、株高、ドル高・円安などが急速に進み、トランプ相場と呼ばれています。

国際商品市場においても、足元ではやや一服する動きになっていますが、鉄鉱石、石炭、銅、ニッケル、亜鉛などが急騰しました。こうした中で、原油については、やや蚊帳の外に置かれた状態でした。

大統領選後もOPEC総会という重要イベントの行方が注視されていたことに加えて、トランプ氏の掲げる政策も影響していた可能性があります。シェール革命を受けて米国のエネルギー事情が改善していたこともあり、大統領選中、米国のエネルギー政策はあまり争点にはなりませんでしたが、トランプ氏はエネルギー開発を促進し、雇用を増加させるという考えを訴えていました。

また、11月21日に公開された大統領就任後の「100日計画」においても、雇用を阻害しているエネルギー規制を緩和する方針を示しました。シェールオイルなどの開発促進が意識されたことが原油相場の上値を抑える要因になった面があると思われます。

もっとも、減税やインフラ投資で景気が刺激されれば原油需要の増加につながることや、対イランでは強硬姿勢を示していることは、原油高の要因です。金属や石炭に加えて、原油の価格も上昇するようだと、インフレが起こりやすくなります。トランプ次期政権の政策運営が注目されます。

(2016年12月7日三菱UFJリサーチ&コンサルティング「けいざい早わかり 2016年度第10号:2017年の原油相場」より転載)

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