「国内の経済状況が悪いのに、ODAや開発は本当に必要なのか」と疑問に思う方も多いかもしれない。
1月21日にビル&メリンダ・ゲイツ財団の年次書簡が公表された。
そこには、貧しい人たちが貧困から抜け出すことを妨げる3つの根拠の無い通説について述べられている。
まず一つ目は「貧しい国は貧困から抜け出せない。」
いや、そんなことはない。多くの人々が貧困から抜け出している。20 年前に比べて、世界で極度の貧困に苦しむ人の割合は半分になっている。
二つ目の誤解は「開発援助は無駄だ。」
メディア等では、ODAは独裁者の懐に入り、GDPを増やすことに成功していないという。
しかし、開発援助でもウエイトを増してきたグローバルヘルスでは、大きな成果が出ている。例えば、ポリオ根絶へのカウントダウンは始まった。ワクチンで多くの小児死亡が防げた。
エイズ対策では、3500万の感染者のうち約1000万人が抗エイズウイルス薬を使っており、そのうちの半分は発展途上国自らの支払いによって賄われている。
ラリー・サマーズ元財務長官等が英国ランセット誌に掲載した最新の研究でも、保健医療への1ドルの投資は10〜20ドルの経済的リターンをもたらすことが示されている。
最後の誤解は「貧しい国の人の命を救うと、人口が増えすぎてかえって世界のためにならない」という意見だ。
信じられないかもしれないが、こうした見方は、古くは200年前のマルサスの『人口論』に始まる。最近でも、人口爆発を予言したエールリヒと人類の英知・技術および市場原理でそれは回避可能だとしたサイモンの1980年代の論争にあるように、それはとても根強い。
家族計画を通して人口を抑制することが開発の大きなアジェンダになった時代もあった。しかし、人口抑制に重きを置くやり方は間違いである。
子供の死亡率が下がると女性は小さな家族を望む。すると、自然に人口増加率は低下する。人口を抑制する政策は間違っており、保健医療、収入の糧、そして、女性のエンパワーメントや避妊手段へのアクセスを改善することで、生産的で、健康かつ持続可能な世の中を作ることができるのだ。
先日、TEDでも有名な親友のハンス・ロスリングが来日し、私とセミナーを行った。彼は、カロリンスカ研究所の国際保健学教授である。
ハンスは、世界の多くの国で健康指標や社会経済指標が急速に改善し、先進国と発展途上国という単純な分類はもはやできない状況だという。
多くの途上国では、健康状態の改善は経済状態の改善よりも遥かに早くなっている。それに伴い、経済的なリターンも今後大きくなることが予想される。
開発援助に懐疑的な人々は、先入観にとらわれることなくもう一度数字とデータに正面から立ち戻って欲しいと思う。