男性育休が、急速に普及しつつある日本社会。とはいえ、2023年度の取得率は約30%(*)で、まだまだ「取りづらい」「取れても数日程度」という声も聞かれる。
インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)の取り組みを強化し、男性育休取得率80%(2023-24年度)の実績を誇るのが、オリエンタルコンサルタンツグローバル(以下、OCG)だ。
世界150カ国以上で政府開発援助(ODA)などをコンサルティングしてきた同社は、なぜ育休取得を推進できたのか。その取り組みや育休取得の意義を、育休経験者3人に聞いた。
── まずは、皆さんの育休経験、お仕事について教えてください。
ドルジハンドさん(以下、敬称略):私は2018年に入社し、翌年から産休・育休を1年ほど取得しました。その後、子育てのため国内出向をさせてもらい、2023年から二度目の育休・産休を1年取得しました。2024年にOCGに復職し、今はインドなどの鉄道案件を担当しています。
西尾さん(以下、敬称略): 私は2014年に入社。2021年からフィリピンに赴任し、妻は現地で出産しました。その後、日本に戻って1年間ほど育休をとり、2023年に復職。私も海外の鉄道の設計をメインにしています。
羽田さん(以下、敬称略):私は2017年にOCGに中途入社。2023年、産後パパ育休を合計4週間とり、その後は200日ほど育休を取得しました。2024年に復職し、営業部でプロポーザルの作成支援業務などをしています。
「子どもができたら率先して男性育休を取ろう」と考えていた
── 西尾さん、羽田さんが長期で育休を取得した理由はなんですか? 男性育休は、「まだまだ取りづらい」という方も多いです。
西尾:妻の妊娠前は、そこまで育休を取ろうとは考えていませんでした。でも出産後、子どもが 40分に1回起きるような状態が続いて、妻が睡眠不足でメンタルにも不調をきたしていたんです。そこで、上司に「育休をとりたい」と相談したら、すぐに「家族優先で」と言ってもらえました。
羽田:私の場合、社内でI&D関連の委員を経験していたので、育休の情報が入ってきていたんです。ですから、「もし子どもができたら率先して男性育休を取ろう」と考えていました。
上司に相談をした時、ネガティブな声は全くなかったですね。また、社内の掲示板などで育休取得者やI&Dの情報を見ることができるので、「自分も(長期の育休を取得して)大丈夫」という安心感がありました。
── ドルジハンドさんは、周囲の男性育休やご自身の育休経験をどう感じていますか?
ドルジハンド:最近は同僚も男性育休を取ることが増えましたし、OCGは男女ともに長期の育休を取りやすいと思います。私の場合、入社して1年も経っていない時に第一子の妊娠がわかったので、どう思われるか、すごく心配しました。
でも、上司に「おめでとう!教えてくれてありがとう」と言ってもらえたことはよく覚えています。 二度目の妊娠の時も、出向先とともに仕事の調整をしてもらえました。
「ワンオペは無理…」子育て中の新たな気づき
── 育休中はどんな生活でしたか? 新たな気づきはありましたか?
羽田:子どもと長い時間を過ごせたことは、一番のメリットでした。妻が職場復帰してからは、昼間はワンオペ育児をしました。
その時、「子どもがずっと泣き止まない」という経験をしたことで、育児によりメンタルに不調をきたし、時には命を落としてしまう人がいることを、実感を持って理解できるようになりました。そういう意味でも、育休を取得してよかったです。
西尾:帰国後、子どもが母乳じゃないと眠らなくなってしまったので、私は授乳や寝かしつけ以外の育児や食事、掃除、洗濯などを多く担当しました。育休中は、子どもからパパへの愛着をより感じられましたし、夫婦の会話も増えました。
ただ、男性が育休を取得したら「すごいね」と言われるのに、女性はあまり褒められないことに気づかされました。僕も、産後すぐに「ワンオペは無理だな…」と感じて、夫婦で育休を取るという選択肢しかなかったです。
ドルジハンド:一緒に子どもの世話をすることが、子どもにとっても、パパとママにとっても、精神的にいいと思います。出産や育児の大変さを男性たちも実感してくれて、嬉しいです。
「子どもは皆で育てるもの」育児と両立しやすい環境づくり
── 復職後はどんな生活をしていますか? 働き方に不安などはありましたか?
ドルジハンド:復職後、最初は子どもが体調をくずし早退することがあれば、「皆さんに迷惑をかけてしまわないか」と心配していました。でも、周囲の方が「子どもは皆で育てるものですよ」と声がけしてくれたことは、すごく印象に残っています。
OCGに就職する決め手は、仕事、時短やフレックスタイム勤務、子育て関連の社内制度・規定といった福利厚生面での働きやすさでした。今も仕事にストレスを感じていないからこそ、子どもに強く当たることもなく、楽しく育児も仕事もできています。
西尾:うちは、子どもが体調を崩したら、私が日本にいる時は基本的には私が休んでいます。OCGは月に9回の在宅勤務が認められているので、制度をうまく利用しながら、送り迎えや通院をしています。
羽田:私は保育園の送り迎えを担当しているので、遅くとも5時半を過ぎたら会社を出ています。昔は、自分がこんな生活を送るとは思っていなかったんですが(笑)、同じように送り迎えをしている同僚がたくさんいることに気づき、視野を広げることができました。
「こうしたい」と、まずは相談することから
── これからOCGで働くことや育休取得を検討している人に、伝えたいことはありますか?
ドルジハンド:子育ては大変ですけれど、子どもたちはとてもかわいいです。仕事は仲間たちが代わってくれますが、親の代わりはいません。育休を取って、幼い子どもたちを夫婦一緒に見て過ごすことは、人生において非常に幸せな時だと思います。
西尾:私は、上司にすごく恵まれたと思います。うちの会社は「こうしたい」と話をすると親身に聞いてくれる環境があります。今後入社して育休を検討される人には、「困ったことがあったら、なんでも話してみたほうがいいよ」と伝えたいです。
羽田:男性も「育休は取得するもの」だと考えていただければいいのかな、と。OCGはこの5年ほど、I&Dなどの取り組みによって急激に変化しました。男性も育休を取得しやすい環境が整ってきていますので、安心してほしいなと思います。
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様々な国籍、バックグラウンドを持つ従業員が、150カ国以上の国と地域で事業を行うコンサルティング企業「オリエンタルコンサルタンツグローバル」。多様な人々の“働きやすさ” “ライフワークバランス”を重視し、子育て支援やI&Dを「当たり前のこと」として推進している姿が印象的だった。
*厚生労働省「雇用均等基本調査」より。2022年度の17.1%から急増しているものの、女性(84.1%)との隔たりがある
(撮影:川しまゆうこ)