「クロノバクター・サカザキ」という細菌を知っているだろうか。
人間や動物の腸管のほか、食品や自然界に広く存在する細菌だが、乳児が感染すると、最悪の場合は死に至ることがある。
特に気をつけなければならないのは、粉ミルクを作る時だ。内閣府食品安全委員会が5月31日、注意を呼びかけている。
クロノバクター・サカザキとは?
内閣府食品安全委員会によると、クロノバクター・サカザキという名称は、当時の国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)に所属し、腸内細菌の世界的研究者だった坂崎利一博士の功績をたたえたアメリカ人科学者が名付けた。
健康な人の腸管内にも存在し、健康被害が起こるリスクは少ないとされているが、特に未熟児や免疫不全児、低出生体重児が感染してしまうと、敗血症や壊死性腸炎を発症し、髄膜炎を併発して死に至ることもある。
1958年にイギリスでクロノバクター・サカザキが検出されて以降、世界各地で症例が報告されおり、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が公表した研究報告では、1961〜2018年に世界で183人の患者が確認された。
なお、そのうち日本人は2人だった。
感染経路は?粉ミルクの調乳時に注意
乳幼児の感染経路としては、粉ミルクを介した感染例が報告されている。
粉ミルクは、乳とそのほかの原材料を混合した後、殺菌して粉状にし、容器に入れられるが、製造方法などから全ての工程で密閉状態を保つことが難しい。
よって、粉ミルクは完全な無菌とはなっておらず、自然界に広く存在するクロノバクター・サカザキが混入している可能性も十分考えられる。
実際、2006〜07年度に国産の粉ミルク200製品を調べた結果、6製品から検出されたという報告がある。
粉ミルクの袋を開封した際や、調乳時に混入することも想定される。
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は合同専門家会議で、粉ミルクの汚染は乳児の感染や疾患の原因となるという結論を過去に出している。
2時間で消費されなかった場合は全て廃棄
では、家庭でできる対策は何だろうか。
クロノバクター・サカザキは、70度以上のお湯で調乳することで、殺菌することができる。
加熱で栄養素が壊れるかもしれないと心配する人もいるかもしれないが、このような理由から調乳は必ず70度以上のお湯で行わなければならない。
そもそも、粉ミルクは70度以上のお湯で調乳した時のビタミンの損失を考えてつくられているため、栄養素が不足する心配はない。
また、クロノバクター・サカザキは、6〜47度の温度で増殖し、25度では急激に増えるとされているため、粉ミルクは飲む直前に調乳し、速やかに消費する必要がある。
WHOのガイドラインでは、「調乳後2時間以内に消費されなかった場合は、全て廃棄すること」とされている。
災害時など、熱いお湯が準備できない可能性がある場合は、乳児用の液体ミルクを使うことが考えられる。
乳児が安全に飲めるように殺菌されているため、そのまま与えることができるという。