前回(http://medg.jp/mt/?p=6964)に引き続き、東京電力との賠償金に関する交渉でどんなことが起こったか、話をさせていただきたいと思います。
今回ご紹介する内容は、福島県外の原発立地地域の事業所の方にもぜひ読んでほしいと思います。なぜならば「就業規則」が一つのカギになるからです。
東電と交渉を続ける中で、当初福島復興本社・福島原子力補償相談室の担当者がこちらの請求を否認する理由の一つに「事故前にはなかった支出は支払えない」というものがありました。例えば、交代要員のいない中、フラフラになりながら頑張って働いた職員に、手当を割増したとします。残念ながら、それに対して賠償を受けることは出来ません。事故前にはなかった手当なので、東電には関係ありませんと言われてしまうのです。
福島の担当者とは、何度も交渉しました。「病院さんのおっしゃることは、私どもは十分理解しております。」と言いながらも「本店が認めないというので」と埒が明かないため、本店の担当窓口と何度も電話でやり取りをしました。「事故がなければ、必要のなかった手当ですよね。」と切り出しても、「事故前にはなかった支出は支払えない」の一点張りでした。
「では、どうすればよかったのでしょうか?就業規則に原発事故が起こって、過重労働が発生した場合は、手当を支給するとでも書いておけば問題なかったのですか?」
と問うたところ、答えはYES。
驚きの答えに、思わず聞きなおしてしまいました。
「どこの企業が原発事故を想定して就業規則を作るのですか?そんな企業があるのですか?」と口から出てしまいましたが、担当者は「まぁそうですが...」と歯切れ悪く答えるだけでした。とにかく事故前に就業規則に明記されていないものはすべてこちら側の勝手な「経営判断」であるとされてしまい、東電は関係ありませんとされてしまうのです。
原発事故を想定して、就業規則を作っているわけがありません。
原発事故があった場合に想定できる危険手当でも業務超過手当でも、特別手当でなんでもいいので、書いていなかった私たちに落ち度があると納得するしか無いのでしょうか。もちろん悪意を持って意図的に手当を増やしたわけでもありません。
事故がなければ支払う必要がなく、事故があったからこその出費です。と言うことに理は無いのでしょうか。
交渉を始めた当初、よく「先に病院関係に多く賠償金を支払ってしまうと、後か請求する一般の人たちの分の賠償金がなくなるから」と言われました。のらりくらりと交渉は延び、その度に経営存続は危ぶまれ、胃の痛みを我慢しながら交渉を続けました。
何度も申し上げますが、私たちは決して過分な請求をしているつもりはありません。倒産の危機にさらされながら、交渉をしていたのに、福島の担当者、しかも管理職にある人間が薄ら笑いを浮かべてそう言った時は、目の前が真っ暗になったのを覚えています。
この連載の1回目では、除染作業員の方々の救急受診や夜間診療の負担、モラルハザードについても書かせていただきました。(http://medg.jp/mt/?p=6436)
広野町には変わらず3,000人を越える除染作業員の方たちが居住されています。日本各地から復興のために従事してくださり感謝しています。
ただ、彼らの救急診療や時間外診療などによる業務負担の増加については、除染作業員らの怪我や病気が直接の原因であり、事故との相当因果関係を肯定する(関係があると認める)ことは困難であると言われてしまいました。モラルハザードについても同様に事故とは関係ないと言われました。もちろん作業員の方が何人いようと、病気にならなければ病院にかかる必要はありません。
作業員の人たちの多くが一生懸命働いてくださっています。ほんの一部でそんな問題が起こっていることも理解しています。
しかし、なぜ美しい緑あふれる森に囲まれたこの町はこれだけの雰囲気が変わったのでしょうか。なぜ病院の回りに作業員用の簡易ホテルや宿舎が立ち並ぶことになったのでしょうか。
私たちが地域の医療を継続させたことは、勝手にやっていることとしか思われていません。
予算のつくところには予算が付き、大々的にキャンペーンが張られる一方、この地の医療の再建を願う我々の努力は、単なる「経営判断」でしかありません。
東電にこそ、事実をしっかりと認識し、地域に寄り添った経営判断をお願いしたいと思っています。