人工知能(AI)の技術が日々発達していく今。AIカメラとスポーツをかけ合わせ、地域の課題を解決するNTT西日本グループ初の試みがスタートした。沖縄県石垣市、NTT西日本沖縄支店、NTTSportictの3者は、「スポーツDXによる地域コミュニティ活性化をめざした取り組み『マチスポ』に関する包括連携協定」を締結。注目の取り組みに迫る。
石垣市、離島ならではの課題
今回の協定は、石垣市の主要なスポーツ施設にAIカメラや撮影配信用のプラットフォームを試験導入するもの。スポーツ大会や試合の発信力強化、生涯スポーツの振興による地域コミュニティの活性化を図る。
石垣市では、スポーツによる市民の健康増進や交流促進に着目。2020年から「スポーツ推進計画」として、スポーツを起点とした地域活性化や施設の整備、有効活用を進めてきた。一方で、離島であるゆえに大会の誘致やリアルタイムでの発信が難しいという課題を抱えていた。
そのような石垣市の課題をヒアリングしたのが、NTT西日本だ。同社は、石垣市の要望を踏まえ、ICTソリューションとしてNTTSportictの新サービス「マチスポ」を紹介。3者が協定を結び、本格導入に向けた実証実験がスタートすることとなった。
3者で実証実験を推進
「マチスポ」とは、「スポーツでまちを元気にすること」を目的とした自治体向けのサービスだ。今後、石垣市、NTT西日本、NTTSportictの3者は、次のような体制で実証実験を進めていく。
まず、「スポーツDX」実証の運営主体となるのが石垣市だ。プロ野球チームのキャンプ地としても知られるロートスタジアム石垣をはじめとした3施設を実証フィールドとして提供する。また、関係者との協力体制も強化しながら、スポーツ推進計画の加速を図っていく。
NTT西日本は、自動運転EVバス等のICTソリューションで地域の課題解決を図ってきた知見をいかし、実証全体のプロジェクトマネジメントを担う。AIカメラ等の試験的導入の支援、効果検証とともに、実証後における本格導入の支援もおこなう予定だ。NTTSportictは、AIカメラや配信システムの提供をメインに、運用レクチャーやサポートをしていく。
「マチスポ」の3軸とは?
マチスポは「スポーツ映像化」「スポーツ情報発信」「スポーツ施設DX」の3軸で、地域交流のきっかけづくりをめざす。
「スポーツ映像化」では、AIカメラ等を使って地域スポーツを自動で撮影、配信。無人での運用により、これまでコスト面から難しかった子どもたちのバスケットボール、バレーボール、サッカー、野球等の練習試合や地区予選もライブ配信できる。
「スポーツ情報発信」では、オンライン上のポータルサイトに、自動撮影したスポーツ映像や大会の情報を集約していく。ファンや家族がチームや選手たちとメッセージを送り合い、交流することもできる。また、運営元である自治体の収益化として、サブスクリプション課金や広告の設定も可能だ。
「スポーツ施設DX」は、小中学校の体育館等、スポーツ施設におけるDXを担う。施設の予約管理、スマートロック(デジタル施錠管理)を一元化。運用コストを抑えながら市民のスムーズな利用を可能にすることで、地域スポーツの振興や市民の健康増進を狙う。
「スポーツ合宿の誘致強化」をめざす石垣市
石垣市の中山義隆市長は調印式で、スポーツの発信力や地域コミュニティの強化とともに、子どもたちへの好影響について期待を述べた。「(AIカメラによって)島の子どもたちが自分たちを客観的に見ることで、練習のレベルが上がっていくのでは。また、これまで石垣市に来ていなかった競技やレベルの高い選手を呼ぶことができれば、大きな刺激になります」(中山市長)
AIカメラという付加価値によって「スポーツ合宿の誘致強化をめざす」と語るのは、同市企画部スポーツ交流課大浜敦史課長だ。「合宿中に練習の様子を発信すれば、遠方の保護者たちにも喜んでいただけるでしょう。多くの合宿誘致につなげ、伝統や文化においても素晴らしい交流をしていきたいと思います」また、同市で盛んなマーチングバンドの指導力強化や情報発信にも注力し、石垣市ならではのまちづくりに活用していくと語ってくれた。
100人が見る試合を1万試合配信する時代へ
「100万人が見る試合を1試合放送するのではなく、100人が見る試合を1万試合配信する」と述べたのは、NTTSportictの中村正敏代表取締役社長だ。自治体向けサービス「マチスポ」は今回が初の実証実験である一方、同社のAIカメラは全国のスポーツ施設に導入が進んでいる。すでに、多い時では月1000試合ほど配信されているという。
中村社長は今後のAIカメラの利用について、次のように語った。「大会や合宿の誘致、選手の強化はもちろん、コーチングや審判の技能向上等、利用方法が広がっていくでしょう。スポーツを見て楽しみたい人にも役立つはずです。例えば、子どもたちの試合を配信できるようになれば、これまでハンディカムでの撮影に追われていた保護者も、応援に集中できるようになります」
「電話会社」から脱却するNTT西日本
NTT西日本の古江健太郎沖縄支店長は「今後は、効果検証や新しい利用シーンの訴求を通じて、 沖縄県内や他のエリアでもスポーツDXによるまちづくりを推進していきたい」と話した。
「NTT西日本の企業パーパスは、『“つなぐ”その先に “ひらく” あたらしい世界のトビラを』です。さらに沖縄支店は、2022年、本土復帰50周年を機に『これまでもこれからも沖縄の皆さまとともに』というスローガンを掲げました。これからも地域密着の強みとグループの総合力をいかし、ICTソリューションの事例をより一層創出していきます。そして『NTTって電話会社でしょ?』というイメージを変えていきたいです。通信でコミュニケーションを繋ぐことを最大の使命としつつ、『NTT西日本なら、こういうこともできるんだ』と思われる企業になっていけたらと思います」(古江沖縄支店長)
***
今まさにスタートした「マチスポ」の試み。沖縄県石垣市、NTT西日本沖縄支店、NTTSportictの3者は、2024年末まで実証実験を実施。その後、小中学校の体育館への新たな設置等を検討していく。
他の自治体との取り組みも広がれば、「子どもたちや地域の小さな試合を配信/視聴する」という、これまで技術的、コスト的に難しいとされてきたことが、「当たり前」となる日もそう遠くないかもしれない。
・石垣市における「スポーツDXによる地域コミュニティ活性化をめざした 取り組み『マチスポ』に関する包括連携協定」の締結の詳細はこちら
・「NTTSportict」の詳細はこちら