初めての妊娠、それは不安と向き合う10カ月でもある。
子どもができたと喜ぶのも束の間。妻の体調は日々めまぐるしく変化していく。些細なことで不安になり、一日中ネットで調べる。妊娠中にそんな経験をした人は少なくないだろう。
こんなデータがある。
NTTドコモが実施した調査によると、第一子妊娠中に92%の人が「不安や悩みの解消のため、ネットサーフィンの時間が増えた」と回答した。しかし、インターネットにあるのは正しい情報ばかりではない。一個人の経験や感想、科学的根拠が不確かな情報があり、夫婦で調べても不安ばかりが募っていく。
当事者になってみて初めて感じる妊娠中の不安と、どう向き合ったらいいのか。今回ハフポストでは、そんな妻を支えた2人の夫と座談会を企画した。そのとき、なにが大変だったのですか?
■お話を聞いた人
(株) SmartHR代表取締役 宮田昇始さん
書籍編集者・林拓馬さん
■聞き手
記者/ノンフィクションライター 石戸諭さん
石戸:みなさん、お仕事がお忙しそうですが、育児にはどう関わっているんですか?
宮田:恥ずかしい話ですが、いまは仕事が忙しく平日は子育てする時間が取れません。だから、土日を完全オフにして全力で子どもと接するようにしています。休日は仕事のメールもチェックしません。
林:僕も普段、育児は妻に任せています。その代わり、家に帰ったらできるだけ家事をやる。皿洗い、洗濯、風呂掃除......。子どもは夜8時に寝て、朝6時に起きるので、朝に子どもと接する時間をとっています。
医師の言葉でも信じがたい。不安を抱える妊婦の実態
石戸:第一子妊娠中に92%の人が「ネットサーフィンの時間が増えた」との調査結果があります。林さんは妊娠中の妻に代わって、自分で調べた経験があるそうですね。
林:たくさんネット検索しましたね。妻が僕に求めていたことって、情報を得ることを通じて、自分と同じくらい妊娠や出産について考え、知ってほしいということだったんです。
妻は体調に変化があるのに、夫のほうは特に変化はないじゃないですか。別に気持ち悪くなるわけでも、体が重くなるということもない。だったらせめて、調べものをして理解してほしいという思いがあったんじゃないかな。
石戸:他人事ではなく、もっと「自分たち」の問題として捉えてほしいということですよね。実際に調べてみて、気になったことはありましたか?
林:たとえば食べ物について。うちの妻は紅茶が好きなんですけど、どのくらい飲んでいいのかってサイトによって書いてあることが違うんです。カフェインは全くダメと書いているところもあれば、いやいや、取りすぎなければいいんだってところもある。
宮田:あぁ、それはありますよね。気にしすぎてストレスになる方がダメって話もあります。
林:あとは薬ですよね。うちの妻はちょっと体が弱くて、よく体調を崩していました。そのときに薬を飲んでもいいのか気になっていたようです。
石戸:妊娠中であることを医師に伝え、処方されたものなら......と思いますけど。
林:妊娠中は、お医者さんがOKといったことさえ妻は不安に思っていました。それもわからなくもないんです。ちょっとでも不安な情報を目にしてしまえば、気になるのは当然のことです。ダメって書かれた情報を読んだあとに、お医者さんから大丈夫って言われても、そう簡単には信じられない。
医師が監修した信頼できる記事であるとか、いろんな情報をフラットに検証して、不安を克服できるようなサイトがあるといいなと思いました。
パパのための情報サイトがあったらいいのに
石戸:ほかにも、こんなサービスがあったらいいなぁと思うこともありましたか?
宮田:ママ向けの情報サイトってたくさんあるんですけど、パパ向けの情報サイトってそんなにないんですよね。なので、パパたちの体験談がまとまっているサイトがあればもっと妻をサポートしやすかったように思います。みんなFacebookとかSNSにちょっと書いたりしているけど、そういう情報がまとまっていないですよね。役立ちそうなこと書いていたなぁと思い出しても、遡って調べられないじゃないですか。
たとえば育児に関して。赤ちゃんにハチミツや蕎麦がNGって子どもができて初めて知りました。妻に「蕎麦は、柔らかく茹でれば食べさせていいよね」と聞いてみたら、かなり怒られました。カフェインなどは、なんとなくわかるけど、蕎麦なんて、いかにも健康に良さそうなのにダメだと知って、びっくりした記憶があります。
石戸:これはダメという食べ物の情報は、家庭内の共有とコミュニケーションも大切ですね。
宮田:そうですね。僕もこまめに相談するようにしています。
林:うちはトイレに子ども用のNG食品を書いた紙を貼っています。毎日、見るから必ず覚えますよ。生後何カ月になったらこれはOK、これはNGとわかる表です。
サポートする男性「も」実は大変。企業はどうサポートする?
石戸:妻をサポートする夫の立場を、会社に理解してもらうことも必要ですよね。
林:妊婦さんって、体調が悪いとき、本当に大変じゃないですか。一日中、起き上がれないほど辛そうな妻を目の当たりにして、「じゃあ会社に行きます」とはいえない。それに、妻が一番大変だとわかっているからこそ、サポートする男性側は、「こっちも大変」っていいにくいですよね。
石戸:宮田さんは、経営者としてどんなサポートをしていますか?
宮田:うちは男性社員も、出産予定日の1カ月前から、2週間分を奥さんのサポートのためにいつでも休んでいいとしています。国の育休制度はもちろん、育休中は金銭面で不安になることもあると思うので、給付金が付与されるまでの一時貸付金制度などもつくりました。
これらは一見、"子どもがいる社員の特権"と思われがちですが、会社全体にとってメリットがあることだと説明して、子育て当事者ではない社員にも理解してもらっています。仕事休めるかな、お金は大丈夫かなといった心配ごとが多いと、仕事のパフォーマンスが落ちてしまう。心配ごとを少しでも軽減してあげることが、会社にとっても、ほかのスタッフにとっても良い効果をもたらすと思います。
一人ひとり、状況が違うことを理解しよう
石戸:妊婦さんの体調や、家庭の状況がそれぞれ違うからこそ、職場でも柔軟な対応が必要になります。
林:妊娠中って、食べられるものも人によってかなり違う。体調も、つわりで倒れる人もいれば、そうでない人もいる。たとえば、同じ会社に出産ギリギリまで働いている人がいると、なんとなく「休みたい」と言い出しづらかったり。でも、人それぞれ事情が違うのだから、気にせず休んでいいんじゃないかなと思います。
宮田:うちの会社のベテランパパの中に、新米パパに対して「いま君の家には、全治1〜2カ月のケガと同じくらい体に負担のある妻がいる。そして、自力では生きられない赤ちゃんもいる。それでも仕事ばかりするのか」「そんな時に飲みに行くのか」という社員がいます(笑)。
同僚が「家族のために早く帰ってあげて」という雰囲気をつくるのはいいなあと思っています。
林:お酒のにおいが苦手な妊婦さんもいますよね。僕は飲み会が好きなんですけど、妻の出産前後は、不必要な飲み会を避けていくことも大事だなと感じました。
違うことが当たり前。お互いを尊重し合える社会に
林:妊娠中って電車やバスの移動もやっぱり大変じゃないですか。身体が重たいうえに、混雑した車内では、においで気持ち悪くなってしまう人もいます。"妊婦マーク"自体は普及しているようですが、つわりが辛い妊娠初期は、電車に乗っていてもなかなか気づいてもらえずに、席を譲ってもらえなかったりするようです。
妊娠後期に入りお腹が大きくなると、今度は座ること自体が辛いという人もいますよね。バスや電車では、寄りかかることができるスペースがもうちょっとあるといいかなと思います。そして一人ひとりが思いやりを持てたらいいですよね。
石戸:出産に限らず、当事者だからこそわかることもあれば、当事者じゃなくても「想像」できること、当事者であっても個々で「違い」があることもあります。人によって違うことが当たり前で、お互いを尊重していける社会にしていければいいですね。
パパもワンオペ育児を体験をしてみると......
石戸:子育ても同じように、家庭の事情や、子どもの個性によって、その大変さもそれぞれですよね。
林:一時的なんですけど、子どもが生まれてから、妻が資格試験のためどうしても継続的に研修を受けなければならない時期があり、2週間ほどワンオペ育児を体験しました。これで、いかに妻が大変なのかがわかりましたね。でも......。
石戸:でも?
林:ワンオペ育児の体験記をブログにあげたら、「ちょっとやったからって......」とチクリと言われてしまいました(笑)。妻のいう通りですよね。僕はたった2週間だけれど、妻はどれだけワンオペ育児の時間があるのかと。通算で考えると比べものになりません。
宮田:うちも子どもの写真をインスタにあげようとしたときに「良いパパアピールですか」といわれたことがあります(笑)。妻からすれば大変なところはいつも自分がやっているという思いがあるので。そこは夫がきちんと理解しなければと思っています。
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今回の話を通じて、妊娠中の夫婦が不安に感じる原因や、当事者でなければ理解されづらい社会の課題も多くあることがわかった。
妊婦一人ひとりに合った情報を届ける「母子健康手帳アプリ」は、妊娠中の不安を少しでも和らげ、夫婦で共に情報共有できるサービスとして、NTTドコモが提供している。NTTドコモは、パパ・ママへのサポートをはじめ、言葉の壁や障がいを抱える人など、世界のさまざまな一人ひとりに寄り添い、豊かな社会を目指す「For ONEs」という取り組みを行っている。
「世界はひとりの複数形でできている」。For ONEsが掲げるメッセージはシンプルだ。
妊婦さんが少しでも安心して過ごせる社会に――。それは、そばにいる家族や同僚はもちろん、たまたま電車で乗り合わせた誰かがもたらすパワーも、きっと大きい。社会に生きる「ひとり」として、立場の異なる「ひとり」についても考えてみる。家庭も職場も、社会も、そこにいる私たちは、みんな違って当然なのだから。