あなたの声を、他の人たちのために使ってください――。
アメリカ・フロリダ州で、言葉を話さない自閉症の生徒が、卒業生代表スピーチに立ち、仲間たちを勇気づけた。
5月8日に開催されたロリンズ・カレッジの卒業式で、529人の卒業生を代表してスピーチをしたのはエリザベス・ボンカーさん。他の4人の卒業生総代から、全員一致で代表スピーチに選ばれた。
ボンカーさんは生後15カ月で言葉を話さなくなり、その後自閉症と診断された。
卒業生代表スピーチでは、文字を音声に変換するコンピュータープログラムを利用した。
「このスピーチは、コミュニケーションパートナーにキーボードを押さえてもらいながら、一本の指でタイプしました」
「私はタイピングを教えてもらった、幸運な言葉を話さない自閉症の人間の一人です。この一つの非常に重要な介入が、私の心を沈黙の檻から解き放ち、コミュニケーションを可能にし、私のヒーローであるヘレン・ケラーのように教育してくれました」 と語っている。
さらに、周りから否定される苦しみについても触れた。
「地元の新聞の一面には、高校の校長先生が『あの知的障害者は卒業生総代になれっこない』と職員に言ったと書かれています。それでも今日、私はここに立っています。私は毎日、自分の小さな勝利を祝うことにしています。そして今日、私は大きな勝利をみなさん全員と祝っています」
卒業生代表スピーチで伝えたこと
ボンカーさんが卒業スピーチで伝えたのは「誰かのために生きることの大切さ」だ。
ロリンズ・カレッジの卒業生の一人で、子ども向け番組の司会者だったフレッド・ロジャース氏が亡くなった時に、財布に「人生は人に奉仕するためのもの」というメッセージが入っていたエピソードに触れ、「私たちはロリンズで、他人への奉仕は自分の人生に意味を与えるということを学びました」と述べた。
ボンカーさんは、自身が設立したNPO「Communication 4 ALL(すべての人のためのコミュニケーション」で、言葉を話さない自閉症の人たちのコミュニケーションを支援している。
卒業後の人生について「私には夢があります。それは、すべての人がコミュニケーションできるようにすること。世界には言葉を話さず、沈黙の檻に閉じ込められた自閉症の人が3100万人います。私は、彼らが沈黙の苦しみから解放され、自分の道を選ぶ声を持てるようにするため、自分の人生を捧げます」と語った。
そして最後に、卒業する仲間たちに「神はあなたに声を与えました。それを使ってください」と呼びかけている。
「言葉を話さない自閉症の人が声を使うよう勧めるのか、という皮肉は通じません。なぜなら、私に価値があると思うのであれば、あなたが会うすべての人に価値があるからです」
幼い時に言葉を話さなくなったボンカーさんが、会話以外の方法でコミュニケーションできるよう支援してきたのは、母親のヴァージニア・ブリーンさんだ。
ボンカーさんは6歳の時に、文字を指差してコミュニケーションする方法を学び、その後タイピングを習得した。
ブリーンさんは、地元テレビ局WESHのインタビューで「言葉を話さない自閉症の人たちが、コミュニケーションできるための環境を整えるべきだ」と訴えている。
ボンカーさんは同じインタビューで、こう語っている。
「私は特別ではありません、言葉を話さない自閉症の生徒たちは全員、タイピングを学べます」
「私たちは自閉症への見方を変えなければいけません。話せないからと言って、感じていないわけでも、考えていないわけでもありません」