先日、『ネットと愛国』などの著書で知られ、最近では大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されたジャーナリストの安田浩一さんとお話する機会がありました。ノンフィクション誌『G2』(講談社)が今回の19号目をもって休刊するとのことで、同号に原稿を書いている2人で対談を実施したというものです。
ぼくは本誌では、休刊に合わせて(?)「ノンフィクションを読まない24歳Web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた」という"暴論"を12ページにわたって書きました。このなかでは、第19号の編集人にヒアリングをしたうえで、現状のノンフィクションの課題とこれからのノンフィクションの生き残りについて、コンテンツの製作と流通、そしてメディアの収益化という3点から掘り下げています。
そして対談では、ぼく自身がノンフィクションの書き手の方とお話しするのが初めてだったので、Webメディアとはかなり異なる部分が多く勉強になりました。
「読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか」
安田さんがWebメディアについて懸念し、紙媒体のノンフィクションのほうにまだ意義が残っているとした理由は、Webメディアが稼げていないために取材費や原稿料が出せない(だから取材しない記事が多い)のではないかということがメインだったと思います。
加えて、紙媒体ならではの体制(編集+校閲)がWebメディアではなかなか組めていないこともあります。また、読者目線はメディアにとっていいことなのか、ということも論点のひとつとなりました。
安田:たとえば、週刊誌時代の読者アンケートでトップに来ていたのは、決まってショッキングな話題、スキャンダラスな話題、衝撃的なグラビアだったりする。こういった読者の反応を意識し続けてしまった場合、地味な告発型のノンフィクションなどは切り捨てられてしまうという危機感を感じる。果たして、読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか。読者を意識しながら、コンテンツのクオリティをどのように維持できるのか、または高めていけるのかを考えざるをえないと思います。
「取材をしないネットメディアには、匂いや身体性がない」 安田浩一×佐藤慶一対談「ノンフィクション・メディアの意義・課題・希望」【前編】
「出版業界エコシステムが崩壊しつつある以上、その中でどう生き延び自分の伝えたいことを広めていくのかという手法はもはや変わらざるをえない」
しかしながら、2008〜2009年にかけての相次ぐノンフィクション誌休刊、そして今回のG2の休刊。現実として、ノンフィクションが売れない、読者に届かないという課題はあるように思いました。対談記事を読んでくださったジャーナリストの佐々木俊尚さんは以下のようなツイートを残しています。
このような状況のもと、書き手や編集者はますます流通を意識しなければならなくなるのかもしれません。そこで、ノンフィクションというジャンル全体との接点をもっと増やし、ノンフィクションに増れる習慣を生み出すべきであり、ネットで積極的にコンテンツを展開していくならば新しい単位(文量や書き方など)が必要になってくると思います。
有料サロン活用で原稿料という仕組みから脱却
日頃メディアにかかわっていて思うのは、原稿料という仕組みは古くなっていくのかもしれないということ。これは、ノンフィクション・メディアのひとつの突破口になるのではないかと考えています(といっても想像の域を出ませんが)。
イメージでは、有料サロンが近いです。つまり、原稿を書いていないときにもお金が入ってくる仕組みがきっとノンフィクションには必要になるのだろうと思っています。たとえば、ビッグイシューのサロンは注目の事例のひとつ。
こういうところがノンフィクションの未来に向けたヒントを与えてくれるのでしょう。ノンフィクションライターでサロンを開きたい人がいたら、編集者としてそういう人のサポートをできたらいいなあと思います。
ノンフィクションには実験と実践が求められる
そんなことを考えていたときに、ビジネスジャーナルが芥川賞作家・柳美里さんに対するインタビュー記事を公開していました。安田さんとの対談に続いて、書き手の実情を知ることができました。
「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」「(年収は)多かったときは1億円以上、少ないときは400~500万円」「かつてはノンフィクションであれば執筆前に取材費が出ていましたが、今は自腹です」など赤裸々な発言がみられ、現在のノンフィクションの側面を知るうえで重要だと思います。
長期間の取材を要するコンテンツや企業・事件報道などが生きていくには、どんな媒体や体制が必要なのか。出版社はいま、実験と実践が多々求められてくるのではないでしょうか。今後はこういった媒体の実験的な取り組みにもかかわれるようになりたいと思いました。