衆議院議員の野田聖子氏は、特別養子縁組という制度が圧倒的に活用されていない現状に疑問を感じて、法整備に乗り出した(「産めなくても、親になっていい」50歳で息子を産んだ野田聖子さんが伝えたいこと)。
その「特別養子縁組あっせん法」は、2016年12月に成立。2018年春に施行される。
50歳で自ら子どもを産んだ野田氏が、特別養子縁組という制度、そして「子どもの幸せ」について語った。
■特別養子縁組はどう変わる?
――野田さんが特別養子縁組に取り組み始めた頃は、特別養子縁組の世界は全くオープンになっておらず、誰が何をしているのかわかりませんでした。
法律の改正に取り組まれたのは、その時に感じた危機感があったからでしょうか?
特別養子縁組に関する本を読んで衝撃をうけたことがきっかけのひとつです。日本で産まれた子どもたちが、海外で養子縁組されている状況が書かれていました。
なんで国内で探さないのかと聞いたら、日本の民間団体の力には限界があると言うんです。小さな世界だけでやっているから、国内での情報やネットワークがなくて国内でマッチングできないんですね。
私は特別養子縁組を申し込んで断られました。それなのに、国内では親をみつけられずに海外にいく子どもたちがいる。その責任は、国が特別養子縁組のプラットフォームを作ってこなかったことにあると思いました。
日本は少子化が問題になっているのに、なぜ子供たちが海外に行くのか。国が対策をとらなければならないと思い、特別養子縁組のあっせんに関わる法律の整備を目指したんです。
――その法律「特別養子縁組あっせん法案」は2016年12月に成立しました。施行は半年後の2018年春を予定しています。
この法律では、民間のあっせん団体の活動に一定のルールをもうけ、適正な活動をしているところに支援するなどして、特別養子縁組のあっせん数を増やすことを目指しています。これまでもさまざまな民間団体が特別養子縁組をおこなってきました。
――ただ最近ではインターネット上のアプリでマッチングを行い、一度の面接で子どもを委託する団体もあり、問題視されています。
新しい法律では、こういった問題は解決されるでしょうか。
はい、新しい法律では、民間団体への支援と規制の両方が盛り込まれています。まず規制ですが、これまで民間団体は国に届け出るだけでよかった。それが問題を引き起こした原因の一つだったと思います。
だからあっせん法では、民間団体に対して許可制を取り入れることを決めました。特別養子縁組をする民間団体は、都道府県からの許可が降りなければ活動できなくなります。
また、許可を得た後でも、公序良俗に反するような活動をした場合、許可を取り消される可能性もあります。そうやって、ふさわしい団体のみを許可する態勢を整えます。
その一方で、民間団体への支援として、職員に対する研修を実施して業務の質を保つようにします。だから民間団体の数は今に比べたら少なくなってしまうかもしれませんが、その分きちんとした団体が残り、今後は財政支援等も検討されるでしょうから、これまで以上に活動できるようになります。
民間だけではなく、行政側の特別養子縁組支援も強化されます。今後は全ての都道府県にも、特別養子縁組をあっせんする窓口がつくられます。
今、特別養子縁組は各都道府県の中だけでしかあっせんできませんが、その垣根を超えた仕組みもできるようになると思います。
例えば、青森で家庭を必要としている子どもが、沖縄の子どもを育てたいと望む家庭に迎えられる、そういったネットワークが作れるのではないかと思います。
■「国の責任」
――法律を整備することで、国は「特別養子縁組が大切な制度だと考えている」という姿勢を示すことになりますね。
野田さんがあっせん法の議論を進めるプロセスでは、「子どもは産んだ母親が育てるべき」といった旧来の家族観から、特別養子縁組に反対する声は同僚議員の中にありませんでしたか?
それはもうずっとありますよ。
――そういった人たちには、どのように対応されたのでしょうか?
今、親になりたくてもなれない人がいる一方で、妊娠しても育てられない人たちがいます。その人たちに、堕ろすしかオプションがないのはおかしくないか?と問いかけました。
諸外国では、妊娠しても育てられない女性たちが産める環境を整え、国が責任をもって、その子たちを育てる親をあっせんする制度が整えられています。ところが日本ではそういう制度が整備されていないから、「育てられないなら堕ろしなさい」となる。
それでは「命を大切にしよう」という教育ができないのはないでしょうか、という話をすると、特別養子縁組に心から賛成していなくても理解してくれる人もいました。
■子どもには「幸せになる権利」がある
親になるかどうかは、産む、産まないではないと私は思います。そもそも生まれながらの親なんていません。産んだから親だと言われるけれど、親の素養があるかどうかは、また別の問題です。
残念ながら中には親の素養に恵まれない人もいます。だけど産まれてきた子どもたちには、だれもが幸せになる権利があります。国がそのための仕組みを作ってこなかったことに、問題があると思っています。
――全ての子どもたちが幸せになる、その視点が大切だということですね。
「産んだ親が絶対育てる」という考えに固執していると、いつまでたっても子育てを社会で担う仕組みづくりは進みません。子どもは国の宝とか言っておきながら、子どものことは全て親の責任にして「好きで産んだんでしょ」という姿勢には問題があると思います。
これまで、「産んだ親が必ず責任を持つ」という考えがあったことで、色々な問題が噴出していると思います。虐待もその一つだと言えるでしょう。親だから立派になりなさいっていうのは無理な話です。
私も含めて、だめな親もいっぱいいます。特別養子縁組でも「立派な親であれ」というプレッシャーは大きいですが、事情はさまざまなのだから過度のプレッシャーをかけるべきではありません。
■家族に血のつながりは関係ない
――これまで世間には、「家族とはこうあるもの」というプレッシャーがあったように感じます。
家族のかたちが変わっていく中で、家族に血のつながりは関係ない、という考えが広まっていくでしょうか。
私が生まれた頃、お母さんは外で働かないのが普通でした。でも今は、女性が働くようになっている。それだけでも家族のかたちが変わっています。
私は、自分で子どもを産みましたが、血はつながっていません(※編注:野田氏は卵子提供を受けて出産したため)。だけど、血のつながりは親子になるために関係ありません。日本には「氏より育ち」って言葉が昔からありますが、それを制度にできていませんでした。
――血のつながりがあってもなくても、日々生活を重ねていくことで、家族になり親になっていく。野田さんにとって家族とは何でしょう。
私は、家族は「いちばん近い他人」だと思っています。子どもは、自分の従属物じゃない、だから一番近い他人がちょうどいいと思うんです。
親が子どもに対して上下関係をつくったり、自分のものだと思ってコミットしたりしてしまうと、問題が起きるだろうなと。
私は命を懸けて産みました。そうして出会った子どもは、自分とは違う人格の人間であり、一番近しい第三者だと感じています。
――親と子どもは別人格という考えが、親子の間で必要だということですね。
養子縁組がこれから広がっていくと「家族っていうのはなるものだ」「いろんな家族のかたちがあっていい」という考え方が、もっと自然に受け入れられるようになるでしょうか?
私と夫は、もともとがそういう考えでしたから。そして科学技術の力を借りて息子の真輝(まさき)と出会いました。
日本ではまだまだ、自分で産んだ、血のつながった子どもが一番って思われているところがあると思うけれど、私たち夫婦は、出会った方法で子どもをランク付けするような価値観は持っていません。
私たち家族には、一つ計画があるんです。真輝は、今はまだ医療ケアを受けていますが、それが一段落したら、2人目を特別養子縁組で迎えたいねと話しています。年齢制限は撤廃されたことだし。
その時に、たとえばシリアのように、内戦など国の事情で孤児になった子どもたちと養子縁組をして、わが子として育てることも視野に入れています。
今まで日本は、国内での特別養子縁組の仕組みさえきちんと整えられていなかった。
2018年にあっせん法がスタートすれば、公的な児童相談所でも法に基づくあっせんをできるようになります。そして許可制になることで、民間のあっせん団体の質も良くなる。ようやく先進国並みの特別養子縁組制度がスタートするわけですよ。
少子化の問題に対しても、いまはまだ産ませる政策ばかりで、産めないことで傷付いている女性たちはたくさんいます。そうじゃなくて、必要なのは「親になる政策」。たとえ産めなくても、親にはなれるんです。
――これまでは「産めないけれど子どもがほしいと願うのは親のエゴじゃないか」という議論があり、不妊に悩む夫婦が特別養子縁組したいとおおっぴらには言えなかった部分もあります。
一番大切なのは、子どもにとっては何が一番なのかを考えることです。施設ではなく、安心できる親のもとで暮らせることが、子どもにとって何よりの幸せです。それをまず最初に考えなければいけない。
一方で親になる人たちも、自分は親になれて幸せだ、という気持ちを忘れずにいなければいけないと思います。
いい親になろうということより、親になれて幸せという謙虚な気持ちが大事なんじゃないかな。私もいつも真輝に「親でいさせてくれてありがとう」と感謝していますよ。
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