(取材:齊藤颯人)
気候変動対策が求められる中、世界では自動車のEV化が進んでいる。日本でも、菅義偉首相が2035年までに国内の新車販売を全て電動車にすると表明した。しかし、日本のEV車の販売台数は他国と比べあまり伸びていない。
私たち消費者としても、今の日本で周囲に先行してEVを買うのは正直、まだ不安に感じる。そもそも、ユーザーに何かメリットはあるのだろうか?そしてEVが当たり前になる未来は本当に来るのだろうか?
EV化が進むドイツの環境政策に精通し、現在、北海道ニセコ町でSDGsモデル地区の住宅地開発に携わる村上敦さんに、車好きのインタビュアーが話を聞いた。
「スマホはないでしょ」と同じ状況が起きている
━━ 自分がEVに乗るようになるイメージが湧きません……。本当に普及するんでしょうか?
村上:スマートフォンが登場した当初は、「スマホはないでしょ」という声もありました。それでも、気づいた時にはみんなスマホを選んでいた。一度切り替えるとガラケーには戻れないのと同様、EVも一度乗ると良さがわかり、どんどんシフトするでしょう。実際に、ヨーロッパではEVの爆発的な普及が始まっています。例えばドイツでは2020年にEV車の新車販売台数が急激に伸び、完全に普及のフェーズに入りました。日本でも何年遅れでこのトレンドが生じるのかという話だと思います。
━━ なぜ日本はEV化が遅れているのでしょう?
村上:「EVはまだ早いんじゃないか」という心理的ハードルが大きいのではないでしょうか。日本は燃費の良いハイブリッド車が普及しているので、それでいいじゃないかという人も多そうですね。かつて日本では「便利なガラケー」が進化し、欧米と比較してスマホの普及が遅くなりましたが、それと同じイメージです。
日本はまだEVに乗ったことがない人も多いですから、身近にEVに乗っている人がいて同乗するようになれば、一気にEVへの認識は変わっていくと思います。
環境に優しいだけじゃない、ワンペダル感覚の小気味いい走りも魅力
━━ 環境に優しい合成燃料や、燃料電池も登場しています。それでもEVなのでしょうか?
村上:再生可能エネルギーへのシフトが前提ですが、合成燃料や燃料電池は選択肢としてありえます。それでも世界的な常識では「EVしかない」ということになっています。
村上:なぜなら、BEV(完全な電気自動車)の走行に必要な再エネ由来の電気を1とすると、燃料電池は約3倍、合成燃料は6倍以上の電気が必要なんですね。10年前は、まだどの技術が最も効率的なのかわからなかった。しかし、EVが技術的なブレイクスルーを経たことで、コストパフォーマンスや資源の観点からもはやEVしかないと考えられています。
━━ とはいえ、環境に優しいという理由だけではなかなか購入に踏み切れません……。EVが売れ始めている要因は他にあるのでしょうか?
村上:ヨーロッパでは、「EVより便利な車はない」というのが共通認識になってきています。先ほど「一度乗ると良さがわかる」と話したように、走り心地の良さや静穏性、利便性も爆発的に広まった要因です。
例えば、多くのEVはワンペダル感覚で加速・減速ができます。片足で小刻みにスピード調整ができるので、市街地や山道の走行が本当に楽になります。マニュアルからオートマに変わる際も「あんな単純な車に誰が乗るんだ」という声もありましたが、今は特別な事情がない限りみんなオートマですよね。EVはこれを一段階進めたものと考えると良いかもしれません。慣れると楽ですし、たのしいと思いますよ。
充電環境が整えば、ガソリンスタンドに行くより便利に
━━ 利便性と言えば、充電スポットも以前より目にするようになってきました。
村上:EVはインフラさえ整えば、ガソリンスタンドを利用するより便利です。会社や家に充電設備があれば、駐車しながら充電ができますよね。さらに、過疎地ではガソリンスタンドが減り、給油のために数十キロ先まで走らなければならない状況が生まれつつあります。そのような地域では、EVしか選べなくなるかもしれません。
公共スペースには、すでに十分な充電スポットがある地域が多いので、持ち家で一般的なコンセントから充電できる人は困らないと思います。ただし、まだ充電設備のない集合住宅など、自宅で夜間に充電できない環境だと、EVの購入は躊躇してしまうかもしれません。ただ、ドイツでは「集合住宅の駐車場に〇台分の充電スペースを設ける」という規定が生まれるなど、世界的にインフラ整備が進んでいます。日本でも、いずれ解決する問題だと思っています。
補助金制度で、ほしいEVに手が届くかも
━━ EV、かなり魅力的に思えてきました。ただ、いざ買うとなると価格が高いイメージがあります。
村上:国や自治体の補助金制度を使えば数十万から百数十万円ほど安くなります。手の届きやすい価格の車種も登場していますから、実際に検討してみるとEVは割高ではないと感じられると思います。
━━ EVの車種もどんどん増えてきていますよね。
村上:例えば、私が現在住む北海道ニセコ町は、豪雪地帯なので車高に余裕のあるSUVじゃないとダメなんです。なので、今年発売される日産の新型ARIYA(アリア)はまさに待っていた車でした。
車は好みもありますから、メーカーが様々な車種を開発することで、さらにEVも広まっていくと思います。
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日本でもEVが当たり前になる未来がもうやってきている。
今年、日産はSUVタイプのEVであるARIYA(アリア)を発売する。現在、予約受付中だが、予約開始後10日間ですでに注文は4000台を突破した。
同社のEVであるリーフは世界で50万台以上販売され、世界的にも代表的なEV車になっている。いち早くEVを開発してきた日産をはじめ、各メーカーが発売するEV車もどんどん増えてきている。これからさらに選択肢が広がり、より自分の生活スタイルに合うEVが発売されると思うと楽しみだ。
EVのさらなる普及には、企業と政府の協力が欠かせない。しかし、私たち消費者にとって、すでにEVは身近になってきているようだ。「一度乗ると良さがわかる」と村上さんが話したように、まずは実際に乗ってみて、EVが叶える新しい操作性や利便性を体感してみたい。
(構成・文:Murai、グラフィック:高田ゆき)