タレントのりゅうちぇるさんが9月8日、青山学院大学(東京・渋谷)で開催されたイベント『日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2018』の分科会に登壇した。
イベントは日本財団と渋谷区が主催。「『性別』ってなんですか?」をテーマに、起業家の椎木里佳さん、ダイバーシティ推進に取り組むコンサルタントの蓮見勇太さん、ハフポスト日本版のエディター井土亜梨沙(モデレーター)とともに、男女という性別の「枠」にとらわれない多様な生き方について話し合った。
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テレビでの番組出演や音楽活動など、マルチに活躍し続けるりゅうちぇるさん。7月には愛妻・ぺこさんが第一子を出産し、父親になった。
「性別は『自分らしさ』の次に付いてくるもの。大事なのは自分らしさ」と話したりゅうちぇるさんは、自身の経験談を交えながら、自分らしく生きるためには「居場所を作ることが大切」と聴衆に訴えた。
りゅうちぇるさんは、小さい頃から「男の子っぽい」遊びは苦手だった。
「小さい頃は、(アニメ)の『おジャ魔女どれみ』が好きでした。『〇〇レンジャー』とかアクション物は苦手で、怖かった。幼稚園の時は『かわいいね』で終わるけれど、中学生になってくると、『人と違う、ヤバい人』みたいに見られるんです」
「(人形のおもちゃ)ぽぽちゃんで遊んでいたら『オカマ』と言われてしまうとか、『こういうことをしていたら○○』って、自分の枠で人のことを決めつけてしまう人が多いなって小さい頃から感じていました。でも、今みたいにお喋りする勇気はなかったし、人に自分の意見をそこまで強く言えなかったので、モヤモヤしたまま学生時代は過ごしていました」
●孤独になりたくなくて人に合わせたら、結局孤独になった
幼い時は、誰に何を言われたとしても、周りの目を気にしなかった。しかし、中学生の頃から「人の目をすごく気にするようになった」という。
「急に『孤独になるのが怖い』と思うようになってきちゃって。孤独になってしまうくらいなら人に合わせた方がいい、と思うようになりました」
「それで、みんなの間で流行っているものを身につけたりして、自分を偽るようになりました。でも、それをずっと続けていると、自分を偽ることによって、偽りの友達ができたんです。その偽りの友達は、僕が大好きな友達とか先生の悪口を平気で言うし...自分で自分を偽ったからこそ招いたことだけど、どんどん辛くなってきて、みんなに『りゅうはこういう人だ』って思われてしまって」
「孤独になりたくないから人に合わせようとしたら、結局孤独になったんです。だから人生を変えたい、こんなつまらない人生嫌だと思って、高校はみんなが行かない学校に行きました。そこで、新しい自分を発信できたんです。そうしたら、『ヤバい子来た...』みたいになったけれど、結構すぐに学校で"居場所"ができたんですね」
●自分らしくいられる場所に行こうと決めた
しかし、りゅうちぇるさんの親の反応は違った。「中学生の時は違ったのに、高校に行ったらどうしてそんな風になってしまったの。私の間違いだった」などと言われることもあったという。
「僕は、今の方が幸せだって何回も言ったけれど。じゃあ自分らしくいられる場所に行こうと決めて、原宿に上京するって決めました。そしてぺこりんと出会って、自分らしくいられるお仕事にも出会えた。自分らしくいつづけたことによって、居場所を見つけられたんですね。その姿を見て、親が『あの時はごめんね』って言ってくれたんです」
原宿に上京し、居場所を見つけて生き生きと輝くりゅうちぇるさん。その姿はりゅうちぇるさんの母にも変化を与えた。周りの目を気にせず、「ゼブラ柄を着たりするようになりました」と、りゅうちぇるさんは話す。
「可愛いものが大好き。だけど女の子が大好き。その自分をまずぺこりんが認めてくれて愛してくれたので、それから自分にも自信がつきました。もし人から『(男か女か)どっちなの?』って言われたら、僕は『キャンディーボーイ』って言います。ぺこりんのことを僕が思う"男らしさ"で守ってあげるから『ボーイ』を付けてるけど、かわいいイメージの『キャンディー』という言葉も付ける」
「僕は芸能人だから、そういうことを言えるんじゃないか、と思うかもしれない。僕が学生時代に戻って自分のことを『キャンディーボーイ』って言ったら、周りの人は『うわぁ...』ってなっちゃうかもしれない」
「だから、その時はみんなに合わせて『男の子です』『女の子です』って言ってもいいと思うけれど、自分の信念だけは持って、自分だけの世界を心の中、頭の中で思い描いて、それを出せる場所に自分で行ってみる。自分の居場所を見つける。みんなに向けて自分を出す必要はないと思うので、Twitterでもインスタでも、原宿でもいいから、自分の居場所、ここなら出せるという場所を決めるのがいいと思います」
●みんなに認めてもらうのは難しい。だから自分の居場所が大切
分科会では、来場者から質問も飛び交った。
トランスジェンダーの友人から悩み相談を受けるが、どう答えていいかわからない。性別関係なく、ひとりの「人」として見られるためにはどうしたらいいか、など、切実なアドバイスを求める声も上がった。
一人ひとりの質問に真摯に答えたりゅうちぇるさんは、「居場所を作ることが大切」と一貫したメッセージを送った。
「みんなに認めてもらうっていうのは、やっぱり難しいんですよね。だって、僕だって嫌いな人はいるし。みんなに認めてもらうのは無理なので、どうにかして、自分の居場所を作る。自分を愛してあげることが大切かな、って僕は思います」
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蓮見さんは、外資系企業でダイバーシティや女性活躍推進に取り組んだ経験を活かし、現在はダイバーシティを活かしたビジネスや企業ブランディングなどのコンサルティングを行なっている。
性別を「これからも付き合っていくアイデンティティの一つ」と表現した蓮見さんは、「多様性」という言葉だけではなく、考え方の違いや働き方の違いなど、目に見えない「多彩性」という言葉も大切にしたい、と話した。
「多様性という言葉の他に、『多彩性』という言葉もあってもいいんじゃないかと思っています。私がいつも話をする時は、多様性と多彩性が活かされる社会にしよう、というメッセージを発信しています」
「多様性は目に見えやすいけれど、多彩性は目に見えない。考え方の違い、働き方の違い、行動の違いなど、目に見えにくいところでも、それぞれの個人がやりたいことを思い合えることが社会のあるべき姿だと思います。多彩性も忘れないでね、ということを伝えるようにしています」
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中学3年生の時、マーケティング会社AMFを立ち上げた椎木里佳さん。現在も、SNS世代の代表的な起業家として、大学に通いながら経営者として活躍している。
「男性中心」の文化が根強いIT業界に身を置く椎木さんは、「自分が男性だったら対等に見てもらえるのか、と思うこともある」と葛藤も明かした。
「起業家の世界は本当に男性社会。たとえば、『みんなで仲良く飲みに行きましょう』という時、飲み会に行くと空気が変わってしまうんですよ。『女の子が来た』って、ある種"色眼鏡"で見られてしまったりする。直接的には言わないですけど、『場が華やかになったね』という雰囲気が出てしまって。そうやって特別扱いされるのは嫌だし、こういう時は自分がもし男性だったら『友人』や『パートナー』として対等に見てもらえるのかな、と思ってしまいます」
それでも、SNSに慣れ親しんだ今の若年層には「性別」の枠にとらわれず、多様な個性を尊重できる人が多い、と希望を語る。
「今の若い子たちは、すごく多様性を認めているというか...他人に対して、考え方が違うとしても、否定しない。許容して尊重する力があるように思います。意見がぶつかったとしても、『そういう意見もありだよね、でも私はこう思う』って言えるような人たちが多い」
「スマホ世代で、SNSに慣れ親しんだ子たちだから、『こういう考えを持っている人がいるんだ』って素直に受け入れられる。そういった側面で、これからの世代を担っていく若い子たちにはすごく期待しています」