日本で暮らす、アフリカンルーツの若者たちの活躍が最近、目立ってきました。
でも、こうしたバックグラウンドを持つ若者たちが、この国でどのように育ってきたのか、日本で暮らしていると身近に知る機会はまだ少ないかもしれません。
私、牧野佐千子は、西アフリカ・ニジェールからやってきた夫ラミン・アルカスムと、日本で生まれた2人の娘、なな(5歳)とりさ(2歳)と暮らしています。
まったく異なる文化の人(とその子ども)が、日本での生活でどんなことを感じているのか、夫と長女に話を聞いてまとめました。思いを馳せるきっかけになれば、うれしいです。
ルーツは、砂漠の遊牧民・トゥアレグ族です
牧野ななちゃん)「まきのななです。5さいです。ほいくえんのねんちゅうさんです。すきなたべものは、トマトといちごとラーメンです。とくいなことは、かけっこと、ひとのかおをおぼえること、おうちにあるものをどこでかったか、だれにもらったか、ぜんぶいえること」
ラミン・アルカスムさん)「西アフリカのニジェールから来たラミンです。2011年に日本に来ました。妻がJICA青年海外協力隊でニジェールに来ていた時に知り合い、あちらで結婚の約束をして、日本に来ることになりました。私のルーツは、国境を越えて砂漠をラクダで移動するトゥアレグ族です。トゥアレグ族には『女性は砂漠に咲く花、大事にしなくてはすぐに枯れてしまう』という格言があり、伝統的に女性のことを大事に敬います」
ラミン・アルカスム(Lamine Alkassoum)=西アフリカ・ニジェール共和国の北部アガデズ出身。首都ニアメの大学で公衆衛生を学び、ドイツ系NGOの現地職員として、遊牧民の感染症についての調査活動などを行う。研究機関の研究員、フランス企業の人事担当などを経て2011年に来日。現在は、保育園の英語教諭。日本ニジェール人会会長。公用語のフランス語、ハウサ語、ザルマ語、タマシェク語など、さまざまな言語を操る。
おうちがすき。だからにほんがすき。
なな)「ななは、このおうちがすきです。だからにほんがすきです。ママといっしょにずっとにほんにいたいです。ほかのところにいくのはいやだ。かんがえるとないちゃうくらいいやだ」
ラミン)「日本は平和で、皆さん親切でまじめ、とても良い国だと思います。ニジェールは昼も夜も外に出て、友達とお茶しながらおしゃべりをする習慣がありますが、日本では外で人を見かけない。特に子供。はじめはみんなどこにいるのだろうと、とても不思議に思いました。ニジェールは地域の人とのコミュニケ―ションが密です。日本は人と会わなくても暮らせる。今は慣れたけど、はじめのうちは寂しかったです」
なな)「(週に)2こおやすみで5こもほいくえんにいかなきゃいけない。ほんとうはママともっといっしょにいたいのに。3こおやすみで4こいくくらいがちょうどいいです。すいようびおやすみがいいな」
ラミン)「日本では、親に対して子どもの選択肢があることが驚きました。ニジェールでは、親の言うことは絶対。反抗なんでできません。『反抗期』という言葉も概念もありません。親の言うことは従うもの、そうやって、信頼関係が結ばれて、大人になったら両親を支えるようになります。日本では、親の言うことを聞かないことがあっても、親が笑って『しょうがないね』と済ませる場面をよく目にします。自分はニジェールで育ったので、こればかりは慣れません。もっと親を敬うべきだと思う」
おおきいこからは、かみのけぼさぼさっていわれる
なな)「みんな、ななにばっかり『えいごできる?』とか、『にほんごできる?』とかきいてくる。ふつうににほんごできるし、なんで?っておもう。めんどうくさい。あと、おおきいこからは、かみのけぼさぼさっていわれるから、ななはおおきくなりたくないな」
ラミン)「初めて会う人には『ニジェールは車あるの?』とか『テレビ見たことあるの?』とか言われる。日本の人たちは、アフリカは未開の地で、みんな陽気で、頭が良くなくて、辛い物が好きで、という固定観念があるようです。身近にまだまだ珍しいから、メディアの影響が大きい。アフリカ人と言えばボビー・オロゴン、みたいなイメージだったと思います。最近は変わってきたかな。大坂なおみ、ケンブリッジ飛鳥とか、アフリカルーツの若い子たちがとてもがんばっていますね」
「それと、ニジェールは95%以上の人がイスラム教徒です。私もイスラム教徒。それについては『奥さん4人もらっていいんでしょ』とか、『どこでもいつでもお祈りしなきゃいけないんでしょ』とか、ともすると、侮蔑的な質問をされます。イスラム教に関するほとんどの情報は、間違って伝わってしまっているなと思います。これはどうにかきちんと伝える必要があるなと。イスラム教を広めるというのではなくてね。誤解を解かなくてはと」
なな)「ママとずっとずっといっしょにくらすことと、おうたとかダンスとかするひとになりたいです。あととってもかわいいおようふくをきてちゃんとしゃしんをとってもらうこと。りさ(妹)ばっかりとってもらってずるいんだもん」
ラミン)「ニジェールと日本の橋渡しになることをしたいなと、日本に来た当初から考えていたのですが、まだまだ実現できていません。それは、先ほど話したような人の意識の部分であったり、ビジネスであったり、いろいろやりたいことはあります。あと、妻にたくさんプレゼントをあげられるように、もっともっとお金持ちになりたい(笑)聞き手のごきげんをとるために言っているわけではないですよ。本当にそう思っています」
(聞き手・牧野佐千子)