新型コロナウイルスの高齢者へのワクチン接種が、4月12日から開始される。16歳以上の一般の人はいつごろを目処にワクチン接種できるのか。ワクチン接種の調整を担う河野太郎・行政改革担当相は、ハフポスト日本版の取材に対し「人口分は確保している。接種のスケジュールは自治体ごとに千差万別だ」と述べた。
接種スケジュールは地域ごとに千差万別
日本で最後の一人が打ち終わるのはいつなのか。その問いに河野氏はこう始めた。「日本政府は、アメリカのファイザーとモデルナ、イギリスのアストラゼネカの製薬会社3社との間で、供給を受けるための契約を交わしています。回数分にして約3億1400万回分確保しています*。現在承認されているファイザー製のワクチンの接種対象は16歳以上ですが、下に広がっても日本の人口分は確保しています。
ワクチンを人口の3-5倍分確保している国もあるけれども、国際的にワクチンを行き渡るようにしないといけないので、日本は1億2千万人に対して約1億6千万人分に抑えています。
日本の国民に十分いき渡りますし、在留外国人約290万人を加えてもいきわたる量を確保しています」
(*編注 日本で予定されている新型コロナウイルスのワクチンは、2回の接種が必要。アメリカのファイザー社のワクチンでは、通常、1回目の接種から3週間後に2回目の接種を受ける)
一般の人の分もワクチンは確保されているとはいえ、いつ打てるのだろうか。河野氏は、一般の人の接種時期は、各自治体の接種スピードにより変わってくると示唆する。自治体ごとに接種の進捗にばらつきが出るという。
「予防接種法により、各市区町村が接種の主体となります。国は、ワクチンの供給が終わるまで市区町村のサポートをしっかり行います。(スピードについていうと)人口が数百人程度の小さなところなら、高齢者を切り分けず一般の人も含め一斉に接種するのですぐ終わるでしょう。中山間地なのか、離島なのか、都会なのか、それぞれの場所で千差万別です」
オリンピック時期の一般向けの接種状況の見通しについては、河野氏は「オリンピックのカレンダーには(ワクチン接種のスケジュールは)入っていない。オリンピックまでになんとかというカレンダーは一切作っていません」と話している。
ワクチン確保のために...「頭痛のタネ」
ワクチンを効率よく届けるためには、▽ワクチン確保のための外交戦略▽自治体とのやりとりなどの国内調整、そして▽スピード感を持ったデジタル管理という3つがうまく噛み合う必要がある。
河野氏によると、ワクチンの安定的確保のためにEUとの交渉にエネルギーを割いてきたという。
「ファイザーの6月までのワクチンの供給は確定したので、高齢者3600万人の2回分は入ってきます。自治体の打つスピードに合わせてこちらから供給するので、数量的には解決しています。
ただ、EUの(輸出管理を強化する)透明化メカニズムというのが頭痛のタネでもあります」と話す。
輸出透明性・承認メカニズム(透明化メカニズム)は、EUが1月29日に発表したワクチン施策だ。︎EU域内からワクチンを域外へ輸出する際に、欧州委員会から許可を得る必要がある。
3月4日には輸出差し止めをしてもオーストラリアは深刻な被害を受けないとの判断により、イタリアはオーストラリア向けへの供給をやめたという事例もある。河野氏は「そこ(透明化メカニズム)が、頭痛のタネになっています」と話す。
「国産あれば...」苦労するEU透明化メカニズム対策
日本の感染数が欧米やラテンアメリカなど一部の国に比べて少ない点が、EUの透明化メカニズムのシステムで指摘されるなか、日本の状況についてEUに対して説明を重ねているという。
「生産地のEUの(輸出管理を強化する)透明化メカニズムで、『感染数が少ないのにどうなの』という考えがある人もいる中で、引っかからないように随時交渉しています。
日本人が頑張って自粛したがゆえに感染者数が抑えられてきた点、(欧州のロックダウンとは異なり)政府の権限で“ロックダウン”していない点などを訴え、EUに対して(日本向け輸出の)一括承認を求めても、やはり航空便1便ずつの承認なのです。『EU、協力して出してくれよ』と言い続けています」
ワクチン接種遅い日本
Our World in Dataによると、日本のワクチン接種の状況はアメリカ、イスラエルなど他国に比べ遅い。
日本のワクチン接種が出遅れている点について、河野氏は日本では感染数が少ないと他国から指摘される中でワクチン確保を行っていることを挙げた。
「日本の感染者数は欧米と比べるとかなり少ない状況だったので、(アメリカのワクチン製造元の)ファイザーは当初、感染者の少ない日本で治験はやらなかった。日本での治験は、2020年10月からようやく始まりました。
アメリカでは2020年12月にワクチンを打ち始め、日本は今年2月にワクチン接種がスタートしました。(治験での)3カ月の遅れを、(接種で)2カ月遅れに取り戻しました。
ファイザーは、生産地であるヨーロッパから日本に供給するのですが、供給量が想定を超えたので、ヨーロッパの生産能力を拡大しないといけないことになった。ファイザーが既存の工程を一部止めて、拡大の工事をやりました。
ですが、その後はスピードアップされて5月以降は、かなりの数が入ってくる。前倒しの交渉もしており、ファイザー側もがんばってくれて、それなりのスピード感で前倒しで入ってくるという状況です」
「国内ワクチンあれば...」
インタビュー中、2度繰り返していたのは「ロジを担当する立場からすると、日本に国産のワクチンができていたらよかったのだが」という言葉だった。
ワクチンの総量を確保した現在のステージでは、自治体がスムーズに打てるよう支援することに配慮している。接種記録に関する新システム開発も順調で、今後は、スピード確保のために、国として自治体の支援を続けていくとしている。
「システムの方は、順調に進んでいます。VRS(新型コロナワクチン接種記録システム)は特に問題はないと思っています。
今一番大事なのは、自治体が接種体制をきちんと作れているかということと、国がどう支援するかということです。
ワクチンの量はボトルネックを解消できる方向になった。あとは、それぞれの自治体の状況が、ワクチンの接種スピードを決めることになる。それをどう国として支えていくかというところです」
【ハフポスト日本版・井上未雪 /写真 坪池順】