ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」でアジア人初の完走を果たした日本人冒険家・白石康次郎さん(53)が2月12日、フランスからネット会見した。一夜明けたこの日、「奇跡の積み重ねでゴールできた」と笑顔を見せ、「このために30年以上頑張ってきたので本当に嬉しかった」と話した。
主導力のメインセールが出発からわずか6日目に大破し、「正直終わった、リタイアだと思った」という。だが、限られた材料を使い天候をにらみながら、6日間にわたり補修した。貼り付けたセールで、恐る恐る進んでいくとトラブルから13日後に赤道を超えられたという。
「(完走など)遠くの目標は立てられなかった。とりあえず、まずは目の前の赤道を目指し、次はケープタウン...と少しずつ目標に達していくと、もう少しいけるかなと思えてきた」。
完走を完全に意識できたのは、ゴール地点に達する10分前。漁船がいなくなり視界が開けた瞬間だったという。「奇跡の積み重ねといった感じでした。ゴールした時は、よくもってくれたと船に向かって言いました」と話した。
出発地でもあるフランス西部の港町レ・サーブル・ドロンヌ沖に戻ったのは、スタートから94日と21時間32分後だった。白石さんは、全33廷中16位。機器のトラブルなどで途中棄権が8チームもある中、二度目の挑戦で完走を果たした。
たった一人で、どの港も寄らずに世界一周をするこのヴァンデ・グローブは、世界一過酷な航海レースと言われる。4年に一度開かれる。総距離約4万5000キロメートル、3カ月にも及ぶ。常に一人でヨットを操縦するため、睡眠時間は、凪の時に細ぎれでとるしかない。競技時間は平均して80日間、計約2千時間だ。
欧州では著名なレースだが、日本ではほとんど知られておらず、白石さんは「外国人にとっての大相撲のようなもの」と形容する。
白石さんは、わずか6日目にメインセールが破れる大きなトラブルに見舞われた。「セーリング人生の中で、初めてだった」というほどの深刻な事態。誰の手も借りてはならないため、船にある材料で、一人で直すしかない。衛星通信でチームと連絡を取りながら、破れたところを接着剤でとめることにした。
本来は、体育館のように平らで広く、乾燥したところで、セールを広げてやる作業だ。限られた船上のスペースで、雨を避けながら、直す作業を進めた。フランスにいるチームと衛星通信でやりとりしながら緻密な作業をしていくのは「さながらアポロ13のようでした。あのセールを直したのだから素晴らしいチームワーク。チームに感謝します」と白石さんは振り返った。
「遭難すると判断する時はセーラーとしてSOSを発します。ですが、貼り合わせたセールを見て、やれるところまでやってみようと思いました。完走できるとはその時は思いませんでした」と語る。
修繕のため6日間が費やされたことと、主導力となるメインセールが傷み、修繕しても「ギアが一段階低い状態だった」(白石さん)中で、16位でゴールした。
「ヨットレーサーとしては失格です。こんなに良いチームなのに。けれど、セーラーとしては、あの状態でセールを直して16位になったのは満足なことです」と話した。
「日本にあの船を持って帰って、喜びを分かち合いたい」。叶った夢は次の夢を生むーー。白石さんは、これが次の目標だと語った。【ハフポスト日本版・井上未雪】