ヒマラヤ山脈と接するブータンも新型コロナウイルスと無縁ではない。今ブータン全土は、ロックダウンの状態にある。人々は、通行許可証を首にかけ、買い物に限り外出が1日2時間、許されている状態だ。死者こそ出ていないものの、国内の累計感染者数が右肩上がりに増加し600人台に達しているからだ。現地のブータン人の一人に話を聞くと「今あるもので大丈夫」。妻は仏間で「困っている生き物全てに」と1日中、祈りを捧げているという。
ブータン政府は12月20日、首都ティンプーとその周辺地域をロックダウンした。今年2回目のロックダウンだ。店舗やオフィス、学校等全ての施設が閉鎖された。外務省によると、前日の19日に症状のある人の新型コロナウイルス感染症の陽性事例が確認されたからだ。23日からロックダウンは全土に拡大された。7日間の予定だ。WHOによると、12月28日時点で、623人の感染者が確認されている。
ブータンの首都ティンプーに住む、ブータン人一家に12月29日にネット上で話を聞いた。
現地のガイドを務めるペンマ・ワンチュックさん(35)は、健康のためターメリックの飲み物を飲んでいます、と黄色の飲み物を片手にネット画面に現れた。
「外で弓矢で友人と競争して遊ぶのができなくなって本当に残念ですが、2回目のロックダウンなので1回目より慣れてきました」と話す。
ブータンでは、的に向かって弓矢を放つアーチェリーをよく目にする。コミュニケーションの場であり、大人から子供まで楽しむ遊びだ。
ロックダウン10日目の今は、フェイスブックなどのSNSで友人の歌に合わせて、ブータンの民族楽器ダムニェンというギターに似た弦楽器を弾くなどして、ネット上で交流しているという。
ワンチュックさんは、妻と6歳の息子と一緒に4階の集合住宅に住む。外国人もブータンに来ることがなくなり、仕事はこの1年の間ほとんどない。日々の生活は、洗濯など家事をし、息子の面倒をみる。妻は、朝起きてから夕方までほぼ1日、仏間で祈りを捧げているという。信仰の厚いブータンの家の一角には、仏間が設けられている。
妻のジグメ・チョデンさんに話を聞くと、「困っている全ての生き物が救われるように」と祈りながら、回すごとに経を読むことになる「マニ車」を回しているという。ブータンでは仏教は身近な存在だ。コロナ禍で一層、思いは強まる。
ティンプーは、ヒマラヤ山系の高山地帯にあり、冬の食べ物は限られる。新型コロナの関係でインドとの流通が滞ってしまっていることもあり、今手に入る野菜は、じゃがいも、玉ねぎ、トマト、キャベツなどだという。ブータン料理に欠かせない唐辛子は、肩に乗せて運ぶような袋にいっぱい詰めて、秋の間に買い溜めしておいたという。
何か必要なものはあるかとワンチュックさんに問うと、「なくていいと思ったらできる。あるもので大丈夫だと思った方がいい。必要だと思ったらメンタルストレスになるでしょう」と笑う。
政府の対応や国王の振る舞いを支持するというワンチュックさん。「政府は、相談事別にフリーダイヤルをたくさん用意してくれているし、国王は宮殿から出て人々を励ます行脚をしている」。
政府から日本円にして月2万円ほどの補助金が一家に支給されるという。低学年の学校は、この1年休校しているため、オンラインを使った自宅学習が基本だ。
一方で、SNSのニュースなどで、収入もなく、閉塞した環境の中で、家庭内暴力なども起きていると耳にする。ワンチュックさんは、健康であることに感謝して日々を過ごしていきたいという。
【ハフポスト日本版・井上未雪】
新型コロナウイルスについて、英語でも広報するブータン政府の公式Facebookアカウント