オリンピックで政治的メッセージを選手がしたらダメなのか。アメリカは「処分せず」と決定。IOCは中立求め「NG」

選手たちが政治的メッセージを発信することについて、判断が分かれています
マラソンでゴールする際に、「政治的アピール」をしたフェイサ・リレサ選手=2016年、リオオリンピック
マラソンでゴールする際に、「政治的アピール」をしたフェイサ・リレサ選手=2016年、リオオリンピック
Athit Perawongmetha / Reuters

アメリカのオリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)は12月10日、オリンピックやパラリンピックの競技場などで、選手が人種や政治などに関する抗議活動をしても、平和的な抗議活動であれば処分しない方針を決めた。USOPCは国際オリンピック委員会とパラリンピック委員会に憲章の改正を要請している。

国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会は、政治的メッセージを発信することを禁じる立場をとっており、処分の対象にすると決めていた。アメリカの動向がどのように影響するのか注目される。

オリンピック憲章では、競技会場などで選手が政治、宗教、人種などに関する宣伝活動を禁じてきた。国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会は1月9日、オリンピックで選手たちが政治的メッセージを発信することを禁じ、2020東京オリンピックでは、そういった行為に対して処分を課すと発表していた。

違反した場合は、各国のオリンピック委員会やIOCが行為の内容を審査し、必要に応じて懲戒処分が下される。

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックで銀メダルをとったフェイサ・リレサ選手は、マラソン会場の最後の直線で、両手をクロスさせて掲げて、フィニッシュした。「政府が虐殺している」と訴えたかったからだ。
リレサ選手は、「エチオピア政府はオロモ族を虐殺して土地を奪っている。私の親戚は逮捕された。民主的な権利を訴えれば殺されるだろう。だから、彼らを守るために私は手を上げたんだ」と語った

“If I go back to Ethiopia, maybe they will kill me.” -Rio runner on consequences of protest: https://t.co/BE7XwoLnMy pic.twitter.com/tByygEAHEg

— New York Times World (@nytimesworld) August 22, 2016

アスリートとして脚光を浴びる瞬間に、国際社会に向けて差し込んできたメッセージ。それは身を挺してのものだった。
「オロモは私の部族だ……。オロモ族は今、平和のため、場所のため、正しいことのために抗議している。私はエチオピアに戻れば殺されるだろう。殺されなくても逮捕される。まだどうするか決めていないが、恐らく他の国に行くつもりだ」と語っていた

BBCによると、IOCは、リレサ選手に対して、オリンピック憲章について触れただけで処分は行わなかった。

(イメージ写真)会見するジョン・コーツIOC副会長と森喜朗 東京オリパラ大会組織委員会長=2020年11月18日、東京都内
(イメージ写真)会見するジョン・コーツIOC副会長と森喜朗 東京オリパラ大会組織委員会長=2020年11月18日、東京都内
Pool via Getty Images

アメリカでの黒人に対する人種差別への抗議をして、大会を「追放」された選手もいる。1968年メキシコオリンピックで、アメリカ代表のトミー・スミス選手とジョン・カーロス選手が表彰台の上で黒手袋をつけて拳を突き上げた。この二人は「政治的宣伝」をしたと認定されている。

IOCは、政治的メッセージを禁じていることについて、「オリンピックは世界中のアスリートたちが、平和と調和の元に集まる場所」だとして、「オリンピック開催地、オリンピック村、競技場を中立でどんな政治的、宗教的、民族的な抗議活動がないものにすべきだ」と説明している。

アスリートは、社会的な問題への関心を呼び起こす力がある。テニスの大坂なおみ選手は、人種問題やジェンダー平等について発言を重ねて、社会に影響を与えてきている。選手たちが政治的メッセージを発信することについてのオリンピックの新たな判断があるのか注目される。

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