ニューヨーク・マンハッタンで犯罪が急増している。休業する店舗やレストランが増え、リモートワークでオフィスなどから人が消えているからだ。
日本人が被害に遭うケースも報告されている。
在ニューヨーク領事館によると、10月5日には、マンハッタンのコリアタウンを邦人女性が歩いていたところ、急に背後から何者かに強く押されて転倒。数人から上着の内ポケットを探られて貴重品を盗まれる事案が発生したという。被害者は軽傷だったが、病院に運ばれた。銀行のATMで現金が引き出されていたという。
9月27日には、ジャズピアニストの海野雅威(うんの・ただたか)さんが、ハーレム135丁目地下鉄駅構内で突然8人の男女に襲われた。鎖骨骨折、頭を含む全身にアザを受ける怪我を負った。
現地の無料新聞「週刊NY生活」(三浦良一編集長)によると、海野さんは午後7時半ごろ、地下鉄を降り、誰もいない改札を抜けた後、男女それぞれ4人の計8人が出口をふさぐ形で通行を妨害。通り抜けようとしたところ、その中の一人の女性がぶつかったと言いがかりをつけ、同グループの複数人が殴りかかった。他に地下鉄を利用している人はいない状況で、逃げようとしたところ、同グループに後を追いかけられ更に殴られて負傷したという。
こうした状況を受け、在ニューヨーク日本国総領事館 は、「ニューヨーク市の治安情勢等に関する注意喚起」をしている。今年のマンハッタン南部パトロール地区(セントラルパーク以南)での強盗は直近の1か月間で(昨年同時期比)約14%の増加だという。
ある日本人女性は「ハーレムの屋外のレストランで食事時に、パンパンと言う音がして“銃声だ”と叫ぶ声を聞いて身をかがめた、という友人の話を聞いて、マンハッタンには、新型コロナ以降は足をのばせていません」と話す。
ニューヨークタイムズによると、地下鉄の犯罪は増えている。2020年の地下鉄内での殺人被害者の人数は、今年10月12日までに6人を数える。同時期比では、2017年はゼロ、2018年は1人、2019年は2人だった。強盗は16%増加している。窃盗は22件報告されており、昨年同時期は5件だった。
感染を恐れたり、リモートワークなどで地下鉄利用者が減っているため、目が行き届きにくいためと見れられる。地下鉄を運営するMTAは、警備員を増やすなどして警備を強化しているという。
ニューヨーク市ブルックリンに住み、マンハッタンに地下鉄で通勤していたナターシャ・メイドフさんは、リモートワークのため、新型コロナウイルス流行前は毎日乗っていた地下鉄の利用は、1、2週間に1回程度に減った。「これまでラッシュアワーで人でいっぱいだったのに、今は車両に数人しかいませんでした」と10月16日のネット取材に対して答えた。
「店舗やレストランが閉まり、家で過ごす人が多いので路上にいる人は少し減った様に思いますが、私にとっては平穏です。これまで通り気をつけながら生活しています」。
伝説的レストランやホテルの廃業つづく
マンハッタンでは、新型コロナウイルスの影響で、ニューヨークのシンボルともいえる著名なレストランやホテルが閉鎖をしている。
マンハッタンの伝説的レストランの一つ、セントラルパークの「ボートハウス(Loeb Boathouse)」は10月上旬、廃業した。1954年以来、映画の舞台になったり、著名なパーティーが開かれたりしてきた店の歴史に幕を下ろす。
ABCニュースなどによるとパンデミックが起こった3月中旬から休業しており、今回163人の従業員を解雇することに決めた。状況を見ながらとしつつも、2021年4月に、解雇された175人を再雇用して再びオープンする予定だと現時点では発表している。
また、ミッドタウンの老舗ホテルのルーズベルトホテルが10月31日付でおよそ100年の歴史に幕を下ろす。約500人の従業員に10月9日、解雇通知を出した。
パンデミック中も一時閉鎖せずにきたが、新型コロナウイルス感染収束の先行きが見えない中、1025室ある客室がほぼ空室のままで、営業回復が見込めないことから、閉鎖に至ったという。
新型コロナウイルスの影響で廃業するマンハッタンの大手ホテルは、タイムズスクエア・ヒルトン、マリオット・ヘラルドスクエア、ザ・プラザ、Wホテルに続き5軒目だ。
「それでも、町は元気です。だってニューヨークですから」
富裕層が住むアッパーイーストのパークアベニュー沿いは、ハンプトンなど郊外の高級住宅地へ移る引越し業者の車が列を作っていた時期もあったと言う。しかし、今は、混乱の時を経て、いったん落ち着いた様にも思えると言う。
「それでも、町は元気です。だってニューヨークですから」。そう言うのはマンハッタンに住むドイツのフリージャーナリストのクリスチャン・ファーレンバッハさんだ。
レストランには「前を向いていこう」という手書きの張り紙があったり、洋服とトータルコーディネートしたマスクが一際目立つウィンドーがあったり。レストランは、新型コロナ対策の特例により道に席を設ける。
ヨーロッパの様に、レストランの席の一部は路上に並べられる。屋外で食べる様子はむしろ「良い雰囲気だ」とファーレンバッハさんはいう。町は、限られた環境であってもエネルギーをほとばしらせようとしている。
ファーレンバッハさんは「新型コロナの影響で、もちろん町は変わっています。しかしニューヨークは、問題を抱えるだけの町ではなく同時に解決を包含する町です。思想家、芸術家、企業など素晴らしい有能な人々や会社が世界で唯一ともいえるこの土地に集まってくるのです。どんなに大変なことが起きても、ニューヨークの魅力に惹きつけられる人々は絶えないことをニューヨークの歴史は教えてくれます。苦難を乗り越え続けてきたニューヨークという町は、人々に本当の人生を与えてくれるという意味では変わらないと思います」と話している。 (ハフポスト日本版・井上未雪)