Twitterデモが政治を動かした。
安倍晋三首相は5月18日、世論の反対の声を受けて、検察庁法改正案の今国会での成立を断念した。
5月8日から始まったTwitterでの抗議はハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」と共に瞬く間に広がり、著名人も声を上げた。
誰がどのようにツイートをしてうねりが生まれたのか。
ハフポスト日本版は、データアナリストの田島将太さんとともに、5月8日から15日にかけて拡散に関わったツイートを分析。リツイート数が最も多かったのは俳優の井浦新さんの投稿だったが、フォロワーが少ない一般ユーザーと見られる投稿も拡散し、影響が大きかったことが分かった。ツイートの中身を見ていくと、法案の中身を知ろうとする姿勢も目立ち、ユーザーの「真摯」な態度がみてとれる。
著名人の声だけがSNSのうねりを生み出したわけではなかった
田島さんは、5月8日午後8時から5月15日午前10時までの間で、「#検察庁法改正」という言葉がついたハッシュタグを分析。「〜改正案に抗議します」という反対意見だけでなく、「〜改正案に賛成します」という賛成意見も拾った。
田島さんは、リツイート数から影響の大きさを分析。この分析において最も影響が大きかったのは、俳優の井浦新さんのツイートだ。井浦さんがツイッターで「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」と10日朝発信すると、同日昼までに2万回以上リツイートされ、累計4.2万回以上となっていた。
井浦さんのような著名人による拡散が目立ったが、田島さんの集計によると、井浦さんに次いで多かったのはフォロワー数2600ほどの一般ユーザーとみられるアカウントだ。必ずしも著名人の声だけがSNSのうねりを生み出したわけではないことがわかる。
ツイートをした人は、何に関心を持っていたのか。9日は、「#検察庁法改正案」関連のハッシュタグが「三権分立」というキーワードと共に投稿されるのが目立った。
「コロナ」という単語も多く、新型コロナウイルス感染拡大への対応が問われている中で法案を成立させようとすることに対する議論もあった。
盛り上がりのピークとなった10日は、「tweet」「トレンド」というキーワードと共に「#検察庁法改正案」関連のハッシュタグが広がり、法案そのものではなく、Twitterで議論が広がってトレンド入りしたことなど「SNSデモの現象」自体への関心がみてとれる。
11日になると、「検察庁法」「改正案」「定年延長」というキーワードが見られるようになり、法案の具体的な中身への関心が高まった。
Twitterをする際、ハッシュタグとともに投稿されたサイトやソースリンクとして、トップ4、5位に首相官邸の意見投稿フォームが入っており、SNS上から直接訴えかける方法への関心があったこともわかった。
また、田島さんは「全体を通じてみると、中身について考察している解説記事や法案について説明するブログを参照し拡散している投稿が多い印象なので、問題の中身を知ろうとしているユーザーが多かったのではないか」と解説する。単に反射神経的にリツイートするのではなく、法案のことを勉強しようとする姿勢が垣間見えるという。
もちろん、今回のハッシュタグを機械的にリツイートしたり、興味本位で投稿したりした人もいるだろう。そもそも、数百万というツイート数は、膨大な数だが、国内のTwitter利用者全体のツイート総数からいえばごく一部だ。田島さんの分析も、投稿者の意図は投稿の文言だけでは分からないものもあり、すべてのツイートを拾えているわけではない。
東京大学大学院の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)の分析では、「#検察庁法改正案」の投稿数473万件(5月8日午後8時から11日午後3時までの約3日間)のうち、およそ半数は投稿に関わった58.8万アカウントのうち約2%のアカウントによるものだった。
しかし、2%による拡散を考えても、投稿総数はかなり多く「『炎上』の規模としても多い」と鳥海教授は話している。
さらに、無視できないのは、著名人ではない人による拡散の影響力だ。鳥海准教授によると、「Twitterに熱心な人というより、総ツイート数400以下のライトユーザーが投稿のほとんどだった」という。
俳優や歌手ら著名人から一般ユーザーまで、多様な人がTwitterで声をあげたことで、野党が議論を重ね、多くの政治家がSNSを意識して見た。元検事総長を含む検察OBは、法務省に意見書を提出した。民意を表現する複数の手段が機能した動きだった、といえるのではないだろうか。(ハフポスト日本版・井上未雪)