5月8日から現れたTwitterの「#検察庁法改正案に抗議します」。このハッシュタグ投稿が爆発的に増え、トレンド入りした。わずか3日弱で470万件のツイート。この膨大な数を挙げ「抗議殺到だ」とする主張がある一方、「一人が数千のツイートもでき、抗議の数としては疑わしい」とスパムを疑う声がある。
実際にどれだけの人が賛同しているのか、ツイート分析に詳しい東京大学大学院の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)に話を聞いた。
鳥海准教授の調査によると、5月8日午後8時から5月11日午後3時までの間に、リツイートを含めて4,732,473件、リツイートを除くと564,797件が投稿した。拡散に関わったユーザは588,065アカウントだったという。
より細分化していうと、「#検察庁法改正案に抗議します」を投稿したアカウントは31.9万で、計56万回ツイートしていた。そのうち大部分は、一回のみツイートしていたことがわかった。それは投稿の大部分を占め、24.8万アカウントだった。一方、拡散は少数のアカウントによってされていた。拡散したのは、全体の58.8万の約2%の12,732アカウントで、この2%のアカウントで半分以上の拡散をしていた。(下図)
さらに、今回特異な点は、「#検察庁法改正案に抗議します」に対するツイートとして位置付けられている「#興味ありません」とリツイートしたのは4473しかないことだという。
「今までどんなデータを分析しても、必ず二つのネットワークに分かれる様子が見えていたのですが、今回の『#検察庁法改正案に抗議します』に関しては関係単語を使ったデータも取っているにもかかわらず、検察庁法改正案に賛成するツイート群がほとんど存在しないことがわかりました」とブログで述べ(上図参照)、「圧倒的に抗議ツイートだけあふれている状況は見たことがない。通常、こうしたテーマでは両極端になるのが通常なのに、炎上のケースとしては特異だと感じた」と鳥海准教授は話す。
そもそも「#検察庁法改正案に抗議します」との投稿は、 9日に日本のTwitterトレンドの1位になり、10日には著名人にも一気に広がった。俳優の宮本亞門さん、浅野忠信さん、秋元才加さんらが投稿。俳優の井浦新さんは「保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」とTwitterで10日朝発信すると、同日昼までに2万回以上リツイートされ、「いいね」は累計10万回以上となっていた(11日午前11時時点)。 10日から11日にかけ、こうした著名人の投稿やメディア報道を受け一気に数字を伸ばしていったことがわかる。
「#検察庁法改正案に抗議します」投稿数の流れ
抗議の意思は実際に人々に広がっているのだろうか。「同じ人が何度もツイートしている」「ボットによる機械投稿なのでは」といった指摘がある中、数字が意味するものは何か。鳥海准教授は、Twitterの数字を分析し、自身のブログで発表した。
鳥海准教授は、①ツイートしたのはボットだったのか? ②新規アカウントによる大量投稿なのか? ③スパムが大半だったのか?について分析した。
結果として、ボットや新規アカウントによるものでないことが示された。また、同じハッシュタグを使ったツイートを大量投稿する点については、“ツイートのほとんどがスパムだ”という仮説は成り立たないという。
8割は「#検察庁法改正案に抗議します」を10以下しかツイートしなかったユーザによるものだった。(上図)一方、20回以上「#検察庁法改正案に抗議します」が含まれるツイートを投稿したアカウントは約1割で、564,797ツイート中、5万ツイートだった。
また、少数のアカウントによって大量に拡散されていた。拡散したのは、全体の58.8万の約2%の12,732アカウントで、この2%のアカウントで半分以上の拡散をしていた。(下図)
鳥海准教授は、「スパムかどうかは分かりませんが『#検察庁法改正案に抗議します』をやたらとリツイートした人たちによってリツイート数が稼がれたのは間違いない」とブログで述べている。
ハフポスト日本版の取材に鳥海准教授はこう指摘する。「わずか2日間で32万人というのは、いわゆる『炎上』の規模としても比較的多い方だ。分析すると、Twitterに熱心な人というより、総ツイート数400以下のライトユーザーが投稿のほとんどだったと推測できる。新規アカウントを作って投稿することも少なかった」。「人はそれぞれの意見にあう都合の良い方を見てしまいがちなので、数字で正しい状況を知ってもらいたいと分析してみた」と分析の意図を話している。 (ハフポスト日本版・井上未雪)