サクッと揚げたカツに自家製照り焼きソースとタルタルソースのサンドイッチ。レストランでしか食べられない味を、新型コロナウイルスとの戦いの「最前線」へーー。
料理人しかできないことをしたいとニューヨークの日本人シェフ島野雄さん(37)が4月15日、仲間の手伝いも得て、50食のサンドイッチをニューヨークの中核病院に届けた。新型コロナウイルスに倒れた友人医師が務める病院だ。
医療崩壊ニューヨークの医療現場では、医師らが息苦しいマスクや防護服をつけたまま長時間にわたる勤務をして必死の救命が続いている。
島野さんが徹夜して仕込んだ味の反応は、SNSを通じて感謝の言葉として返ってきた。「素晴らしすぎる!」「なんとも言えない美味が私の口に広がった。芸術作品のようなあなたの料理が私の今日一日を豊かなものにしてくれた」
島野さんは、下積みを経て32歳からフランスの三つ星の名店Guy Savoyでシェフに。日本人で初めて、メインディッシュの肉とソースの担当をした。3年前の34歳の時ニューヨークに渡り、現在、MIFUNE New Yorkのエグゼクティブシェフをしている。
「(外出規制の)1ヶ月間、店は閉じたまま。料理人として、新型コロナウイルスで闘うために何かしたいと思いました。僕ができるのは、頑張っている人の胃袋を満たすこと。まずは動こうと思いました。今後も続ける」と島野さんはハフポスト日本版への取材に語った。
今回作ったメニューは、とても手のこんだ肉、魚、ベジタリアンのサンドイッチ3種だ。
自家製燻製機でじっくり燻製させ奥深い味に仕立てたチキンやサーモンを使った、カツレツ。そして、パン粉から作ったベジタブルコロッケ。この3種に、2つの特製ソースをからめる。一つは、ゆず風味の照り焼きソースと、もう一つは、シェリービネガーの香り高いマヨネーズタルタルソースだ。これを、パンに挟んだ。全て無添加だ。
「ロックダウンの今、食べられないレストランの味で、思いを伝えたかった」と島野さん。
チキンやサーモンは自前で調達した。入店制限のあるスーパーの列に感染を気にしながら並び、パンを購入した。パン粉は売り切れていたので、自ら作った。
1ヶ月ぶりに訪れたレストランの厨房にひとり立つと、通りに誰もいない環境の中、暴漢がこないかと怖さが先にたった。静かすぎる空間に慄きながらも、明かりをつけ掃除から始めたという。床を掃除し、鍋を磨き、仕込みを始めると、徹夜になった。
最後の仕上げと配送には、料理人1人、銀行コンサルの友人など3人が駆けつけてくれた。家族がいて他の人と接触困難な人は車の手配をしたり、キッチンに立てる人はサンドイッチのラッピングなど、それぞれできることを手伝ってくれたという。
島野さんは「今回は全て自前で、手探りでした」と疲労を感じさせない明るい声で答えた。今後も続けたいという。
「料理人の社会的地位が高いフランスでも同様に医療従事者にレストランのデリバリーを届けていますが、素材の提供、配送など組織的に取り組めている。今はひとりでやっていますが、続けていきたいので広げていき、少しでも一生懸命に取り組んでいる人を支えたい」と話している。 (ハフポスト日本版・井上未雪)