臨時国会は12月9日に閉会し、桜を見る会の一連の問題は、解明が進まないままです。
「捨てたからもう、分からない」
これが、桜を見る会を巡る一連の問題のいまの状況です。
税金の使い方を検証するためには、その元となる資料が必要なのですが、
公文書である行政文書が捨てられているため検証ができないのです。
桜を見る会の問題には数々の争点があります。
・「功績・功労」があるといった招待者の条件に合わないのに、安倍首相の後援会関係者を招待し、首相自身が招待に関与していたのではないかという疑い
・安倍首相の後援会が開催していた、桜を見る会の前夜祭が公選法違反ではないかという疑い(公選法で、候補者や議員は、自身の選挙区の有権者に金銭や物を渡すなどしてはいけないことが定められている)
・不適切な人物が招待されていた可能性。マルチ商法で多くの被害者を出し経営破綻した「ジャパンライフ」元会長が2015年に「総理枠」とみられる60番で招待されていたのではないかという疑いや反社会的勢力が参加していた疑い
・安倍首相の妻昭恵氏と親しいとされる人が取締役を務めるケータリング会社が受注を請け負っている疑惑
こうした問題について、招待されている人たちは会の趣旨にあっているのか、ひいては税金の支出は正しく行われているのか、といった疑問点を検証するための資料の1つが招待者名簿でした。名簿は政府が作っているので、公文書です。ところが、公文書である行政文書が捨てられていると政府が主張しているため検証がすすみませんでした。
■名簿、請求当日にシュレッダー
桜を見る会をめぐる行政文書の取り扱いを時系列で振り返ってみましょう。
<招待者名簿めぐる動き>
2019年5月 9日 共産党の宮本徹衆院議員が資料請求
9日午後 内閣府、当該資料をシュレッダーにかける
21日 衆院財務金融委で宮本議員が質問。内閣府の井野靖久官房長(当時)は「資料は(保存期間)1年未満の文書と整理して、既に(桜を見る会の)開催が終わったので破棄した」と答弁※電子データは5月7~9日の間に削除
※電子データのバックアップデータは外部媒体に、最大8週間保存されていた
内閣府が管理する招待名簿について、宮本議員が資料を請求した直後、内閣府がその招待名簿をシュレッダーにかけて廃棄していることがわかりました。さらに、新たに分かったのは、招待者名簿のバックアップデータが請求時点で存在していたことです。
■バックアップデータは公文書ではない?
5月21日に衆院財務金融委員会で内閣府幹部が「すでに廃棄した」と答弁した時点では、名簿のバックアップデータは残っていたことを菅官房長官が12月4日に認めました。
菅氏はバックアップデータについて、「一般の職員が取り出せず、業者に頼まなければならない状況にあり、行政文書に該当しない」という認識を示しています。原本の紙の資料や電子データが廃棄された時点で、たとえ、業者が管理するバックアップデータの中にあっても、公文書とはみなされないという見解です。
一方、公文書管理委員会で委員を務めた三宅弘弁護士は、「バックアップデータは、行政文書だ」と反論します。「(政府は)業者が管理するバックアップデータは災害時に備えたものというが、災害時のみの利用に限定されるのか。資料要求に答えるためにバックアップデータが使えない理由はない」と話しています。
ある内閣府のOBは「国政調査権が発動されていないので、応じなくても法令違反にはならないが、政府が裁量で出すことはできる。それをしないというのは、政権に不都合だと忖度したのでは」とハフポストの取材に答えています。
■また消えた?公文書
招待名簿は「1年未満」の保存に定められていました。
1年未満の保存期間で、思い出すのは、陸上自衛隊の日報問題や、森友学園に国有地を売却した際の交渉記録です。「1年未満」文書は、どんな行政文書が保管されているのかわかる管理簿にも登録されず、行政が自分たちの判断で廃棄できる余地があったのです。「不都合な」文書を1年未満にしてしまう「抜け穴」になっていると強い批判の声があがりました。
これを受け2017年12月、公文書管理委員会でガイドラインの見直しがありました。
それまでは、1年未満に廃棄するものは、それまで何が含まれているのか、何を該当させて良いのかという基準がなく、ブラックボックスでした。
改正により、保存期間表に何を入れるのかについて、項目が定められました。その項目が適切かどうかについては、担当部署が決めます。
ガイドライン改正の中で、「保存期間1年未満の文書はすべてなくすべき」という意見もありましたが、事務局は、「文書が膨大になる」として「1年未満」は残すものの「ごく軽微な文書に限定する」と説明していました。
■なぜ「1年未満」の保存期間?
行政文書は、規則でどれだけの期間保存するのかが決められています。行政文書を含む公文書は、情報公開請求できます。歴史を振り返ることができる重要な意義を持っています。
正しく税金が使われたかどうかを検証するために桜を見る会がどういうものだったのか知るためには、決算審議まで残しておくのが良さそうなものです。そもそも、1年未満と指定したのは適切なのでしょうか。
招待名簿がなぜ「1年未満の保存期間」に指定されているのかについて、専門家に聞いてみました。三宅弁護士は、以下のように話します。
そもそも1年未満であることに妥当性がありません。
普通に考えても、翌年の桜を見る会の招待者の参考に使う招待者情報を1年以上の保管にしていないのは妥当性を欠きます。
たとえ1年未満であっても、行政文書管理規則に基づき、国会議員の資料要求があった時点で、1年以上にしなければいけません。少し難しくなるのですが、内閣府本府行政文書管理規則16条7項で、通常は1年未満の保存期間を設定する類型の行政文書であっても、重要又は異例な事項に関する情報を含む場合など、合理的な跡付けや検証に必要な行政文書については、1年以上の保存期間を設定すると定められています。議員の質問は「重要又は異例な事項に関する情報を含む」ために1年以上にしなければ法令違反となります。
一方、情報公開クリアリングハウスの理事長、三木由希子さんは、行政の「忖度」が働いていると指摘します。
わずか半年前のことでも検証できない文書の仕組みになってしまっています。
政治がらみの『のぞましくない記録』を扱う際に、現場が忖度してしまっているのではないでしょうか。不都合なことが出てくる可能性があるものは「1年未満」という枠に放りこんで消してしまっているのではないでしょうか。
NHKの報道によると、桜を見る会の行政文書が国立公文書館に残っていたことが確認されています。少なくとも1954年から1957年にかけての実施要領や予算などの文書が保存されていました。過去には保存され、今は保存されない。
この背景について、三木さんは、桜の会の意義自体が変質し、昨今は政治がらみの案件で臭いものがありそうなので蓋(ふた)をしようと行政側が判断し、公文書として残すどころか保存期間を1年未満としたのではないか、と推測しています。
■「国としての危うさ」
「桜を見る会」は、1952年から内閣総理大臣の主催で毎年行われている公的行事です。「各界において功績・功労のあった方々を招き、日頃の労苦を慰労するため」各界において活躍した人などを招待する場です。場内では食事や酒類が振る舞われ、全て税金が使われています。
参加者は安倍政権の過去5年で徐々に増え、2019年の招待者は1万5400人に、支出額も5500万円あまりに増えました。安倍首相は「招待者の選考基準があいまいで、結果として数が膨れ上がってしまった。大いに反省する」と述べました。来年はいったん中止し、招待基準の明確化を図り、全体的な見直しの検討をすることになりました。
歴史の証となる公文書の扱いについての姿勢は、そのまま国の体をなすと言えます。