「新入社員に年収1000万超」
NECは2019年10月、そんな大胆な賃金制度を導入したことで社会に反響を呼んだ。
背景にあるのは、GAFAなどの巨大IT企業とのグローバルな人材獲得競争だ。とりわけ、インドなど海外から、優秀なIT人材をどれほど呼び込めるかが課題となっている。
NECの取り組みを取材した。
「優秀な人材がいれば世界中どこへでもいく」
インド最高峰・インド工科大学(IIT)。グーグルのCEO(最高経営責任者)であるスンダー・ピチャイ氏の出身校で、IT業界を牽引する人材を輩出してきた大学だ。国内に23のキャンパスがある。
インドの就職活動の解禁日である毎年12月1日、世界の名だたる大企業が優秀な人材を求めて競い合う。日本企業も例外ではない。
NECで先端技術の研究開発を担う「中央研究所」も2012年から、インド工科大学のボンベイ校で研究職の採用を開始した。過去8年間で、38人の学生を採用している。
インドの就活は、大学主導で行われる。大学側が企業を独自に格付けし、選考解禁日(Day1)から企業を順に割り振っていく。企業は指定された日時に大学を来訪し、現地にて一日即決での選考を実施する。そのため、早い「コマ」に割り振られるほど、優秀な学生と接触できる可能性は高くなる。
NECは採用実績が評価され、2015年からはGAFAなどの次のコマでの選考が割り振られているという。
「採用人数は特に決めていません。かなり高い採用基準を設定しており、それを上回る優秀な人がいれば採用するというスタンスです。逆に優秀な人材を獲得できるならば、世界中どこへでも行きますって感じですね」同研究所の人事責任者(取材当時)である園部純さんはそう話す。
現在、研究所の外国籍社員の割合は8.5パーセント。今後もまずは15パーセントに増やすことを目指しているという。
「我々は選んでもらう立場」
NECが「新卒社員に年収1000万」という新制度を作ったのは、世界中の企業が優秀な学生を奪い合う状況のなかでの「焦り」がある。
「我々はどちらかというと選んでもらう立場。人材の市場価値に応じて、報酬を柔軟に決めていくという方式にしていかないと、優秀な研究者はみんな、GAFAに行ってしまいます。NECの中央研究所が、世界の名だたる研究所を同じ位置付けになるように我々は努力したいと思っています」と園部さんは話す。
研究者たちのモチベーションを保つため、様々な工夫もしている。たとえば、専門の研究以外に、1週間のうち1日は「自由研究」ができる「20パーセントルール」を設けたり、博士卒2年目から裁量労働制を導入したり、国内外の大学院への留学制度を設けたりするなど、多くの機会とリソースを与える。
こうした組織のあり方は、従来の日本型組織と大きく異なる。園部さんは、「社員個人と組織の関係」という点において、その違いを話す。
「私は、Individual in organization(組織の中の個人)と、Individual and organization(個人と組織)という考え方があると思っています。前者が従来の日本型組織ならば、中央研究所は組織と個人が対等な関係である後者の考え方を徹底して貫いています。私は組織側にいるので、社員になるべく良い場を提供して、どんどん活躍してもらうのを応援するという立場です」
こうした努力もあり、社員も会社の期待に大きく応えている。インド工科大学出身のチャキ・パラカシュさんは2013年の入社以来、NECの無線通信の分野を引っ張ってきた存在だ。
「様々な人からのサポートを得て6年間働いてきたので、NECをファミリーだと思っています。私できることは、私の力でNECのプレゼンスを上げていくこと。それが仕事のモチベーションです」
パラカシュさんは近い将来、留学制度を使って、国内の大学院に留学することも検討しているという。
外国人材、コミュニケーションの壁も
国内の少子化が進む今後、高度なスキルや知識を持つ人材をめぐっては、ますます海外への需要が膨らむことが予想される。NECは給与や待遇を充実させることによって彼らを惹きつけようとしているが、外国人材が日本企業を選ぶ上で他に課題はないのだろうか。
NECで働く外国籍の社員に「日本で働くハードル」を聞いてみると、聞こえてきたのは文化や言語の違いによる「コミュニケーションの壁」だ。
インド工科大学出身のラジャプト・ニルマルさんは、日本語はもちろん、日本独特のコミュニケーションスタイルが入社後の一番の困難だったと話す。
「インドでは、意見や要望があったら口に出すのが普通です。でも、日本人は必ずしもそうではありません。『空気を読む』と言いますが、私たちがそれができないため、その点では苦労しました」
こうした課題に対しては、外国籍の社員同士が悩みを共有しあえる「ERG(Employee Resource Group)」と呼ばれる社内コミュニティを作ってアプローチする企業も出てきている。
社内の連絡ツールを多言語化するなどのインフラの整備や、外国籍の社員が孤立しないような仕組み作りも、今後それぞれの企業に求められている。