3月8日の国際女性デーが国内で大きく報じられるようになって8年ほどが経ち、黄色のミモザの花をあちこちで見かけるとともに、女性をエンパワーする企画やイベントが多数開催されるようになりました。
NECグループでも毎年、国際女性デーに社内イベントを実施しています。2024年は「NEC Women’s Day 2024」と題し、フリーアナウンサーの堀井美香さんをお招きし、「組織の中でこそ、チームだからこそできる『私の挑戦』」をテーマにNECの森田隆之 社長兼CEOとの対談を行いました。
その後、堀井さんと2名のNEC女性社員との鼎談が実現。サイバーセキュリティ戦略統括部の中島春香さんは、この春から女性のセキュリティ技術者団体「CTF for GIRLS」で代表を務めるそうです。入社3年目、金融システム統括部の村田波奈さんは、若手主体の社内横断活動を率いています。
それぞれの「挑戦」に取り組む2人と話し、堀井さんは社会や企業、個人が少しずつ変化してきていると感じたといいます。本記事で詳しくお伝えします。
「情報が届きにくい人は、迎えに行く」「使えるリソースは全て使う」大組織、多様な人へのアプローチ
━━堀井さんと 森田CEOとのトークセッションには、約8000名の社員が参加しました。堀井さんの話を聞いて、印象的なコメントはありましたか?
中島さん(以下敬称略):堀井さんの「情報が届きにくい人に対しては、自分から迎えにいく」という言葉にとても共感しました。
私は、サイバーセキュリティに興味はあるけれど、周囲の理解を得られなかったり、チャレンジすることに自信をもてない女性に対し、サイバーセキュリティ業界を身近に感じてもらうための勉強会を主催しています。そこで女性の学生さんと話をしていると、「女性が活躍している姿が見えづらい」「ロールモデルがいないため、働くイメージが湧かなくて不安」という話をよく聞きます。セキュリティは女性の領域ではないというバイアスは、まだまだ存在しますね。
身近に業界で活躍する女性はたくさんいますが、私たちの思いが届いていない層は確かにあります。今アクセスできていない方々を、どう「迎えにいく」ことができるか、そのアプローチをもっと深く考えたいと思うきっかけにもなりました。
村田さん(以下敬称略):「大きい組織にいるからこそ、使えるリソースは全て使うべきだ」という堀井さんと森田さんからのメッセージが印象的でした。
私は、本務である金融システム開発の業務だけでなく、社内イベントやプロジェクトを企画運営する若手中心の横断活動も行っています。さまざまな部門で働く社員が集まっていますが、先輩社員も含めてもっと幅広い分野の社員を巻き込んでいきたいと思いました。
今は入社3年目なのですが、在籍期間が長くないからこそ、気づけることもあると思っています。会社として変えるべきと感じたことを上司や役員に伝え、改善のための活動をさらに積極的に行っていきたい。ゆくゆくは、こうした若手中心の活動がしやすい会社であることを採用イベントなどでも伝えていきたいと、視野が広がりました。
堀井さん(以下敬称略):今日は、2022年まではTBSという会社の社員として、現在はフリーランスで挑戦を続ける立場で登壇の機会をいただきましたが、おふたりにそう言っていただけて嬉しいです。皆さんのパワーを感じて、多くを学ばせていただきました。
国際女性デーのイベントに、ジェンダーを問わずたくさんの方が集まってくださっていて、社員の皆さんが力を合わせれば、すごく面白いことが実現しそう。大企業で働く魅力ですね。
私が森田CEOとの対談で改めて実感したのは、チームには「柔軟さ」が必要であるということです。
チームで働くということは、一人対ひとりのコミュニケーションの積み重ねだと思います。
一人の意見で、独断で方向性を決めて実行するより、様々な人の意見をすくい取って柔軟に動くことのできるチームのほうが、大きなことを達成できるはず。
「社員との対話」を掲げ、毎月のタウンホールミーティングで皆さんと対話を続けてきた森田さんがリーダーだからこそ、社員の皆さんも柔軟に人の意見を受け入れるということを、自然に実践できているのかもしれませんね。
社内公募で育休取得者をカバー。チームとしての強み
━━柔軟性、というキーワードが出ましたが、NECの組織としての柔軟性やI&Dの重要性を感じるシーンはありますか?
村田:海外出身の方と働く機会もあり、文系が強い人と理系が強い人が同じ環境にいて、それぞれの「苦手」を補い合う職場環境が魅力的だと感じています。また、私の部署では、男女問わず時短勤務や育児休暇を取得でき、自分の将来をイメージしたときにも不安なく働けています。
育休を取得する社員がいる部署では、効率の良い役割分担はもちろん、大きな組織だからこそのメリットだと思いますが、マネジメント層が社内公募をして、その穴を埋めるという対応をすることもあります。
中島:私のチームでも二人、半年以上の育休を経て仕事復帰したばかりの男性社員がいます。さまざまな事情で時間に制約のある時期でも、当事者や周囲の人が耐え忍ぶようなことが発生しない職場環境だと感じています。
また、私は20代、30代が中心のチームに所属しているのですが、若いからといって意見しづらい、女性だから発言しにくいというようなこともなく、それぞれが得意なことを最大限活かして、弱点は補い合う、スピード感のあるチームで働くことができています。
堀井:大企業だからといってどんなチームも柔軟に動いて、補い合うことができるわけではないと思います。制度が整っていて、かつ、しっかり機能していることが素晴らしいですね。
私はTBSを退社してから、会社という大組織の中で動くことはなくなりましたが、ポッドキャストやラジオ番組の制作では、それぞれのチームメンバーの良さを活かしながら、番組としての個性を作り上げています。
例えば、『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』(TBSラジオ)というポッドキャスト番組のチームとしての強みは、全員の思考がシンプルで、子どものように好奇心旺盛で「やってみたい」という気持ちに正直なこと。
イベントをやりたいと思えば、その純粋な気持ちのまま動いてみる。イベントについては、チーム内にプロがいないからこそ、普通であればストップがかかるようなこともどんどん進んでいくんです。
収益をあげたい、スポンサーさんを増やしたいという目的ではなく、「みんなで楽しく人生を歩みたい」という純粋な一体感がリスナーさんにも伝わり、信頼感を得ることができたおかげで、ここまで続けることができたと思っています。
私なりの「挑戦」とその流儀。バトンをつなぎ、次世代を支えたい
━━皆さんの「挑戦」について教えてください。挑戦の原動力や、挑戦しやすい環境について、また、挑戦を続けるためにあきらめたことはありますか?
堀井:私はやりたいことがどんどんでてくる方で、何か新しいことを始める時の一歩が人よりも早いんです。新しい挑戦を見つけて、すぐに行動できることは、私の長所だと思っています。
そんな性格でもあるので、ひとつのことに取り組みながら、次の展開を見据えるようにしています。ポッドキャストを起点に企画したイベントや、個人で開催している朗読会がそうです。
形になってきたら、次は収益や動員人数を増やすという成長を目指すのではなく、少しずつやり方を変えながら、振れ幅をどんどん広げていくようにしています。例えば、朗読会も場所や共演者などで演出に変化を加えたり、お客様へのお土産に遊び心を入れてみたり、自分でも楽しんでいます。
一方で、やりたいことはたくさん湧き出てくるのですが、もちろん全てに挑戦することはできません。忙しいご家庭へお弁当を届けるボランティアや点字図書館の音訳ボランティアなど色々な活動に参加していますが、気になる社会課題は他にもたくさんあります。社会課題を解決するために起業をする人もいますが、それは私にはできない。
でも、自分が今できることが、私ならではの方法だと思うんです。諦めとは違いますが、時には方向転換もしながら、自分ができる方法を的確に見極めることも必要だと思っています。
中島:私がサイバーセキュリティ業界でコミュニティ活動や人材育成、イベント登壇など様々な挑戦をしてこられたのは、本当に楽しくて仕方がないから。「楽しそうだからやってみよう」という姿勢は、堀井さんと似ているかもしれません。
この業界に興味をもったきっかけは、10代の頃に読んだマンガ「ブラッディ・マンデイ」に登場する、テロ組織に立ち向かう天才高校生ハッカーでした。セキュリティの力で日本のために戦う姿に憧れ、感銘を受けたんです。
ただ、この分野を勉強しようとした時、自分一人では知識をどう実践に落とし込んでいくか、迷い、悩むことも多くありました。セキュリティに興味を持つ人が集まるコミュニティを見つけて参加し、そこで学び、交流した経験があるからこそ、今の自分がある。だから今、女性のセキュリティ技術者団体「CTF for GIRLS」や、サイバー業界で活躍する女性を応援するコミュニティ「Leading Cyber Ladies TOKYO」などで、発信する側として活動を続けています。
今度は私が、サイバーセキュリティ業界にハードルを感じている人に働きかけて、志のあるメンバーたちと新しいものを生み出しながら、次世代へとバトンをつないでいきたいです。
「挑戦のためであれば、恥の意識は捨てる」
村田:私が若手社員の横断活動をし、金融システム開発の現場でも自由に発言できているのは、「挑戦したい社員は全員で応援する」という社内の文化にも助けられているからだと思います。
ゼロからスタートした若手社員の横断活動では、意見が食い違って衝突することもありましたが、自分の意見が通らなくて悔しくても、人それぞれ、こだわりたいポイントも、仕事の進め方も違うことを経験として学びました。今では100%自分の思うようにはならなくても、それを諦めとして捉えるのではなく、新しい視点を得る機会だと考えるようにしています。
所属部門が手掛ける金融システムの中には、何十年もプロセスが変わっていないものもあります。そんなプロセスに変更を加えたいときには、プロフェッショナルとしての視点で、なぜそれが必要なのかという説明が求められます。そこで説得ができれば、上司も挑戦を後押ししてくれるんです。
わからないことがあれば上司や先輩に質問し、できないことはできないと素直に言う。助けが必要な時には誰かを頼るようにしています。「挑戦のためであれば、仲間や組織に対する恥の意識は捨てる。でも、お客様と向き合う時は、自分がNECを代表しているんだ、というプライドを捨てない」よう心がけています。
「私も社長になれるんじゃないか」。肩書きを目指すのではなく、リーダーの意識を持ちたい
━━今後も自身の糧にできそうな、国際女性デーの「収穫」を教えてください。
村田:森田さんから、「もっと女性リーダーや管理職を増やしたい」という発言もあったので、同期の女性たちと一緒にリーダーを目指したいと思います。
堀井さんがTBS時代、役員候補として期待されている先輩たちの姿を見て、「私も社長になれるんじゃないかと思ったことがある」とおっしゃっていたのには勇気をもらいました。「自分がリーダーになったら何ができるか」という意識を常にもちながら動いておられたのではないでしょうか。
私も、漠然と「リーダーという肩書」を目指すのではなく、「チームをリードしていく立場なら何ができるか」を日々意識することで、少しずつ変化を起こしていきたいと思っています。
中島:森田さんとのセッションで、堀井さんが、「ボランティアで子どもたちに届けるお弁当のおかずをもっと豪華に!と提言する」とおっしゃっていましたが、私も「これまで言いにくかったことを言葉にする」ことを実践したいと思いました。
例えば、長く続いてきたプロジェクトにはさまざまな蓄積がありますが、そこに初めて入る私だからこそ見える視点や気づきもあります。多様な意見を受け入れる企業にいても言いづらいと思うことはありますが、今日を機に、勇気を出して言葉にし、少しずつ良い方向に変えていきたい。今年から代表を務める「CTF for GIRLS」でも、ただ引き継いで活動を継続するだけではなく、私ならではの新しい変化を起こしたいと思います。
堀井:普段から、同世代の友人、仕事仲間たちと、次世代の人たちが生きやすい社会に早くなってほしいと話しています。そのために、少しでも私たちができることがあるのならお手伝いをしたいと思っていましたが、今日その思いがさらに強くなりました。
私たちが次の時代を作る人たちに幸せに過ごして欲しいと思うのは、女性だから、この年齢だから、とレッテルを貼られてきた経験があるからです。
同じ思いをしてほしくないから、少しでもそうしたバイアスや意見を変えることができるのなら、全力で応援をさせてほしい。お二人の上司や先輩たちも、同じ思いで挑戦を後押ししているのではないでしょうか。こうした空気が、私たちよりも若い世代にも広まってほしいなと思います。
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(文:守屋美佳 写真:曽川拓哉 企画協力:株式会社ブランドジャーナリズム)