先日、釧路市で開催された連合北海道主催の「地域活性化フォーラムin道東」に参加しました。私は、第1部の基調講演を担当。加速する人口減少や技術革新などが働く場に与える影響や各地方連合会が開催する地域フォーラムの意義や重要性について述べました。今回、私がお伝えしたいことは、その基調講演の中身。ではなくて、私に様々なインスピレーションを与えてくれた、第2部のパネルディスカッション「釧路の未来へ!共に生きるとは?〜支え合いのリアル〜」。それでは、ご紹介しましょう。
釧路で「ペルソナシート」に出会う
第2部のパネルディスカッションで先ず目を引いたのは、「ペルソナシート」でした。皆さんの中には、既に様々な機会で活用された方もいるかもしれません。恥ずかしながら、私はその「ペルソナシート」なるものは、初めての体験となりました。
伺った話では「ペルソナシート」は、マーケティングにも用いられる一つの手法とのこと。新たな商品やサービスの開発・検討にあたり、獲得したいユーザー像を具体化することで「ふわっ」としたイメージ先行の商品開発ではなく、そこに「リアル」を持ち込むというものです。例えば、化粧品の会社が、30代女性向けのリップを新開発する際にターゲット層に属するある女性の食べ物の嗜好や好きな映画、休日の過ごし方など様々な日常を具体的に書き出し、このような女性を対象としたいと顔写真もつけてビジュアル的にも具体化し開発につなげるというものです。
では、「ペルソナシート」の内容を紹介しましょう。
『石黒さんは、5年くらい仕事に就いていません。何をしても長続きせず、人間関係が怖く、自分に自信なんてなくて、最近は引きこもりがち。父と同居しているが不仲。父から早く働けと言われてプレッシャーを受けている。高校卒業後は、建築現場や工場で働いた。職場の人間関係がうまくいかなく、仕事は続いても数か月から1年程度。性格は寡黙。真面目に黙々と作業に取り組む。就労意欲がある。小学生のころは親から虐待を受けて、中学生時代は祖母に育てられた。「家とか仕事場で安心できたことなんてない。」資格は特にない。キャップをかぶり、髪、無精ひげが少し伸びている。』。
これが当日、会場の参加者に配られたA4一枚の「ペルソナシート」に記載してある全てでした。このシートをもとに、どのようにして石黒さんを支えていけるか、各パネリストが、自らの考えを述べ合う、あっという間の2時間となりました。
若者支援の「リアル」
釧路市の総人口は、約17万人。ここ10年ほどで約1割減少。65歳以上の構成比も約30%と約10ポイント上昇しました。かつて炭鉱で栄えた町は、人口減少の常態化、若年層の減少が出生率減につながる負のスパイラルに見舞われています。さらに、ほぼ全ての世代の転出超過は、人口急減時代の到来を告げているかのようです。
こうした容易でない状況を真正面から受け止めつつ、地域の担い手、とりわけ、若者支援のあり方にパネリストが熱弁をふるわれました。例えば、厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室の野﨑室長からは、ある町の地元特産品であるフキの加工の取り組みを養育困難家庭で育った若者に提供し成功した事例が報告されました。
野﨑室長の報告は、「福祉」と「労働」の間に存在する政策面での仕切り板を取り払い、それぞれが重なる領域に答えを見出すことは、様々な環境に置かれた若者に対する重要な支援のあり方であり、政策的にも強化すべきアプローチとのメッセージを含んでいました。まさに、若者支援の「リアル」であり、同時に、私たちが描きがちな「働く」の既成概念への警鐘にも聞こえました。(その他、多数の貴重な意見は、連合北海道ホームページにダイジェスト版が現在掲載中。そちらを是非ご覧ください。)
労働運動、組合活動の「リアル」
当日、第1部の基調講演を終えた私は、聴衆の一人として会場でコーディネーターやパネリストのやり取りを聞きながら、ぼんやりと「ペルソナシート」を労働運動、組合活動に当てはめてみたらと思いを巡らせていました。もちろん、職場の一人ひとりにフォーカスした世話役活動も産業の健全発展に向けた取り組みも広く社会に呼びかける大衆運動も既に先人の努力でその「型」は完成しています。
一方、その「型」を大事にするがあまり、「型」にはまり過ぎて、私たちの運動の対象、その輪郭がぼやけていないか、また、おろそかにしていることはないか。今一度、労働運動や組合活動の「リアル」の出番かもしれません。
連合結成30周年の「リアル」
短い滞在でしたが、釧路での新たな出会いや経験を来年、連合が迎える結成30周年に活かせないかと思います。「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」で船出した連合丸。この間積み上げた運動の成果はもとより、なお一層努力すべき課題を真正面から見据え、時代を先取りするテーマを想像する力も試されます。
「1000万連合」もその山の頂に手をかけていく継続的な努力が必要です。同時に、単に組織の規模を大きくしたいだけではなく、豊かな、そして、健全な「働く」に多くの仲間を迎え入れる意義をことあるごとに再確認する必要があります。集団的労使関係に勝る働く上での「セーフティーネット」は存在しないと確信するからです。「働く」という段階で既に働く仲間である皆さんに共感し合える運動を展開していきたいと思います。それは、来年結成30周年を迎える連合運動に、より「リアル」を持たせることに他なりません。