ハワイにある標高4205mのマウナケア山は、その山頂部の空気が澄んでおり天候も安定していることから、世界の天文機関が13基の天文台を設置しています。そして新たな天文台Thirty Meter Telescopeの建設が2009年に決定され、2021年の運用開始を目指して建設が始まろうとしています。建設に関わるのは米国、カナダ、中国、インド、そして日本の5か国。
しかし、マウナケア山はハワイの先住民たちにとっては雪の女神ポリアフをはじめ数々の神が棲む聖地とされる場所でもあります。これまでに13基もの天文台が設置されましたが、先住民グループはこれ以上数が増えることを望んでおらず、10年にわたって反対の活動が行われてきました。
10年の間には、TMTの建設推進者たちとマウナケアの神聖さを尊重する先住民側の活動家との間で衝突が起こりました。そして2014年には、抗議活動によっていったんは建設が棚上げになりました。しかし、2017年になってハワイ州が再び建設を許可し、2018年10月には最高裁がこれを支持したことで、少なくとも法的には建設が可能になりました。
今年7月15日には、建設のための資材を山上へと運び込む作業が始まる予定でしたが、現地には数百人の先住民と反対の立場を取る活動家らが集まり、抗議のデモを開始しました。それから1週間のあいだに抗議者は2000人以上に増加。David Igeハワイ州知事は17日、反対派のうち33人が当局に拘束されたことを受けて「ハワイ州全域の人々の安全を確保する」ことを理由に非常事態宣言を発令するに至りました。なお33人は程なくして釈放されました。
19日には先住民側のグループが、管轄外で警察の権限を行使し、デモ排除活動を行おうとしたとして近隣3郡の警察署長らを訴えました。また別の活動家は「政府権限濫用によってTMT建設を支持し、マウナケアを尊重し、崇拝し、保護することを望む先住民らの考えに反対した」としてIge知事に対する訴えを起こすなど、対立は深まるばかりのようにも見えます。ただし双方とも暴力行為での解決は望んでおらず、Ige知事は会見では「あらゆる人々の安全が最優先」だと強調しています。
ハワイの外でも抗議活動を支持する動きが出ています。23日にはカリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア工科大学、トロント大学などの大学から学生や教授らが、先住民側への暴力的な対応に反対するための請願書に署名したと伝えられました。特にカリフォルニア大学バークレー校では一部学生グループが大学に対しTMT建設プロジェクトから完全に手を引くよう求めたとも伝えられます。この請願書に署名したひとりでカナダの天文学者David Charbonneau氏は「ハワイで先住民と警察機関の衝突がさらに起これば、カナダ先住民との調和政策を進めるトルドー政権にとっても懸念材料になるだろう」と述べています。
またインド人活動家グループのCorrina Gould代表は「人々の信仰の地はどんどん狭められている。われわれが結びつけられる神聖な場所を守るには、いま行動を起こさねばならない。さもなくば、人類はそれを失っていくだろう」とメディアにコメントしました。
ブラックホールや地球外生命の発見など、天文学の発展のために新しい望遠鏡が必要なのはわかります。そして誰もがその成果を早く観たいと思うことでしょう。とはいえ、もしもそのために、諸外国から伊勢神宮や皇居の一部を壊して天文台を作ろうと言われたら、われわれはどう考えるでしょう。難しそうではあるものの、できることならすべて丸く収まる方向に事態が推移して欲しいものです。
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