日々生まれ変わる大都市、ニューヨーク・マンハッタン。高層ビルが立ち並ぶ"眠らない街"の一角に、眠ることを追求する新施設が誕生した。
騒々しく、疲れる都会の中心に「ちょい寝」できる場所がほしい。コンセプトを思いつき、実現させたのはひとりの日本人だった。
ニューヨークには休めるところがない
「NAP YORK」があるのはマンハッタンの中心街。斜め前には有名百貨店のメイシーズがあり、タイムズスクエアからも徒歩10分足らずという、一番騒々しいエリアだ。
Masa Ikedaさんは新卒でリクルートに入社。その後ニューヨークに渡って、不動産業界で働いていた。そのときに「ちょい寝」できる場所があれば、と切実に感じていたのだという。
「マンハッタンは忙しい人が多い割に、きちんと休める場所があまりない。カフェに入っても激混みだし、少しでもうとうとするとキックアウト(=追い出す)されちゃったり」
考えてみれば、寝不足のビジネスマンだけでなく、時差ボケの観光客も、マンハッタンにいる人の多くが一眠りできるところを探しているのでは。池田さんは、そう考えるようになった。
「Nap=お昼寝」に注目したコンセプト
「NAP YORK」は、そんな考えから生まれた。イメージは都会のオアシスだ。
2階は薄暗い、都会の森のような雰囲気。ベッドを備える「ブース」が、いくつもずらりと並んでいる。ブース内にはマットレスや枕、ブランケットなどの実用品だけでなく、観葉植物も置いてある。プラネタリウムの星空のような照明がほどこされていて、リラックスできそうだ。
このブースは、ニューヨーク市警察を始めとし、最先端テクノロジー会社や公共施設、私立学校などからも「同じ物を買いたい」との問い合わせが相次いでいるそうだ。
衛生面にも気を使い、日本製の洗えるマットレス「airweave」を使っているという。
大柄な人にも対応できるように、日本のカプセルホテルよりも20%〜30%ほどサイズを大きく設計されている。
3階は、ヨガレッスンにも使うイベントスペース。
「静かなイベント」であることを条件に、いろんな目的で貸し出す計画もある。
窓際や壁際には、独自開発したというポッド型の椅子がおいてあった。座ってみると半球形の中に体がすっぽり入る。視界が遮られて、ほとんど個室のような気分を味わえた。お昼寝や読書など様々な使い方ができそうだ。
4階にはデスクが並ぶコワーキングスペース。
各ブースはカーテンで仕切ることができる。仕事スペースといえど、ここでも睡眠に対する工夫はたくさん仕掛けられている。
例えば、椅子は背もたれがフルフラットまで倒れる。フットレストを引き出せば簡易ベッドのように寝られる。ブルーライトを軽減したライトもあり、仕事をしつつも、リラックスできそう。
そして、玄関の1階にはフロント(受付)とカフェ。
タブレットで注文すると、飲み物や食べ物が、ベルトコンベアで流れてくる。SFっぽい感じもしつつ、回転寿司も彷彿とさせるような、不思議なシステムは「英語の得意でない人も気兼ねなく一息つけるように」との配慮を込めたという。
フロントの従業員は「kimono」(欧米で親しまれている、日本の着物をイメージしたガウン)を制服にするなど、日本式の「おもてなし」も。
お昼寝スペースでもあり、仕事場にもなり、イベントスペースでもある...。
そこにあるのは、睡眠を「ちょっと一息ついて、またアクティブに動き出すための活動」と捉えるという考え方だ。
どんな使われ方?
プレオープンが現地のテレビで取り上げられ、すでに注目を集めているNAP YORK。現在は30分〜1時間で滞在していく人が多いそう。実際にすきま時間の活用として使われているそうだ。
池田さんが想定しているのは、こんな使い方だ。
・チェックイン前に仮眠する
・時差ボケが辛いときにひと休み
・お昼ごはんのあとにちょっとお昼寝
・深夜勤務を終えて、朝になるのを待つ
・フライトまでのすきま時間にリラックス
ホテルやツアー会社と提携して、すきま時間に利用してもらうことも考えている。
「休み方」にも、もっと選択肢を
池田さんは話す。
「ただ、人は昼寝目的のために3分以上は歩かないだろう、というのが僕の予想です。だからこそ、これからもっと拠点を増やしてカフェと同じくらい身近になって欲しい」。
そのため、これからはニューヨーク市内に展開していくだけでなく、空港の近くなどにも店舗を作る構想がある。「もっともっとNap(=お昼寝)を気軽にとれる機会を提供したいですね」。
お買い物に疲れた30分、仕事中に空いた1時間、深夜や早朝のフライトでぽっかり空いてしまった3時間...。そんなときに「お昼寝」できれば、都市生活もガラッと変わるかも。