女性誌でカリスマ的人気を誇るスタイリスト、webマガジン「mi-mollet(ミモレ)」編集長、そして三児を育てる母であり、ステップファミリーの大黒柱。
40代の働く女性として、多忙を極めながらも充実した日々を送る大草直子さんの新刊『毎朝3分で服を選べる人になる』は、おしゃれ上級者だけに向けたファッションの手引書ではない。
「手持ちの服やメイクが似合わなくなってきた」ことに悩む女性たちや「仕事と育児に精一杯でおしゃれをする暇なんてない」と嘆く子育て世代に寄り添った優しい一冊だ。
「比べないことが最高のおしゃれ」と説く大草さん。3月8日は国際女性デー。30〜40代の歩みを聞きながら、女性たちにおしゃれを通じて人生の整えるアドバイスを教えてもらった。
30代後半はおしゃれの迷子になりやすい?
――三児の子育てをしながら、人気スタイリストとしても長年活躍されています。大草さんにとって、30代はどんな日々でしたか。
仕事と子育てで忙しすぎて、もう記憶がないくらい(笑)。朝食を座って食べることもろくにできなかったし、夜子どもと寝落ちするのは当たり前でしたね。
自分のファッションも悩んで、迷う時期でした。多くの女性も同じだと思うのですが、20代のときに似合っていた服やメイクが全部似合わなくなってくるんです。
人生には年齢によっていろんなステージがありますけど、とくに30代後半から40代にかけては難しい。迷子になりやすい時期だと思います。
でも、通り過ぎたからこそわかるんだけど、「迷う」ってすごくいいことなんです。立ち止まって、考えて、自分を見直す作業だから。次のステップへ行くための踊り場だけど、この踊り場はずっと続くわけじゃない。一時的なものです。
——自分を見直すタイミングだと。
20代のときって、生活の中でファッションの優先順位がすごく高くなりますよね。でも30代、40代になるとファッションの比率はどんどん下がって、暮らしにまつわるものが占める割合が増えてくる。
そういう背景があるから、ファッションの優先順位が下がるのは当たり前なんです。私自身もそうです。子育ての時間、夫と過ごす時間、友人との時間、仕事や趣味......。ファッションより大切なことが毎日たくさんある。
——実際、おしゃれに時間もお金もがかけられなかったり......。
そうですよね。私の場合は仕事柄、たくさんの服を買うし、見て、触れる機会があるんですね。自分自身もたくさん失敗を積み重ねてきたし、そこから学んだことや見つけたルールがあります。
それをファッションにかけられるお金も時間も限られている、ごく普通に毎日を生きる女性たちに伝えていきたいな、と思っています。
30代から40代にかけては、「人生もおしゃれも整える時期」だと私は思っています。そこでちゃんと迷ったり悩んだりして、一度トンネルに潜っておくことが、その後のステージに生きてきます。
今の自分を見つめて、「比べる」を手放していく
――今の自分を見つめて、どんな服が似合って、似合わないのかを客観的に考える。試行錯誤しながら「地固め」する時期でしょうか。
人は、鏡に映ったときの自分の顔を、28歳くらいをイメージしているんですって。鏡に顔を映すときって、ちょっといい顔を意識しちゃうでしょ?
でも年齢を重ねるほど、28歳の自分からはどんどん離れていく。どうしようと不安になったし、怒ったり、寂しくなったりしていますよね。私もそうでした。
――大草さんは、どんな風にしてそのトンネルから抜け出したのでしょう。
人は毎日経験を積み、美しい景色を見て、いろんな言葉を覚えて、成長していくじゃないですか。それはすごく素晴らしいことで、時計の針を戻そうとするなんてナンセンスだな、とあるとき気づいたんです。
鏡に映った5年前の自分と今の自分を比べて、落ち込む必要なんて全然ない。
「人と比較しない」ことは大事です。
隣りの家のちょっと裕福なママ友や、自分の時間をすべて自分に使える独身の友達と自分を比べる必要だってない。そもそも40代の今の自分が、20代のときと同じ服を着る必要なんて全然ないですから。
ある年齢までは、誰かと自分を比べるってすごく大事なことではあるんですよ。「あの子と比べたらここは私が勝っている」「ここは私が劣っている」と客観的に認識することは、生物として必要な学習ですよね。私も昔はすごく嫉妬深かったから、わかるんです。
——「比べる」のではなく、自分と向き合うのが大事。
でも、女性は年齢を重ねていくにつれ、身体のラインが甘くなり、シルエットはゆるやかになっていきますよね。一方で首やデコルテの肉はそげていく。
そういう現実にぶつかったとき、誰かや過去の自分と比べても意味がないんですよ。むしろ、「比べる」ことを手放していかないと。誰もがそういう過程を経て、自分のエイジングを少しずつ受け入れていくんだと思います。
そのためには、自分に敏感になることが大事。(お風呂上がりに)裸を鏡で見て、自分のサイズに合った着こなしを知っておく。そういうプロセスも必要ですよね。
40代は神様からの贈り物の季節
――多くの女性は「女の価値は若さにある」と女性誌や広告、社会から思い込まされてきた側面も大きいのでは?
これまでのメディアは「女は若いほうが価値がある」と発信することで、女性を追い詰めてきました。それって「商品を買わせるため」ですよね。でもそういう考え方ってやっぱり無理があるし、(受け手は)つらい。
そのつらさを何とかしてあげたいし、「誰かと比べなくてもいいんだよ」というメッセージを女性たちに伝えていきたいです。そのために本を書いたし、(webマガジン)「mi-mollet」を起ち上げましたから。
――ご自身も年齢を重ねるほどに人生は楽しくなっていますか?
もうすっごく楽しいですよ! 負け惜しみじゃなくて本当にそう。
30代っていっぱいいっぱいじゃないですか? 毎日が忙しすぎてこなしていくだけで、時間がひゅんって目の前を通り過ぎていく感じですよね。
でもね、30代をそうやって過ごした人は、40代が本当に楽しくなりますから。
40代になると、伸びしろを確認する作業ができるようになるんですよ。顔に影も増える。シミやシワだってできていく。だけど、逆に年を重ねることでできることがある。いくつになっても伸びしろは必ずあるし、それを確認できるのが楽しい。40代は神様からの贈り物だと思っています。
「人生100年時代」といわれる今の時代、40歳って100歳の半分以下ですよ。私は95歳くらいまで働きたいし、そのためには人生のピークをできるだけ後ろに延ばして持っていくほうがいいと思っています。
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"男女格差"は過去のもの? でも、世界のジェンダーギャップ指数で、日本は144カ国中114位です。
3月8日は国際女性デー。女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいはず。社会の仕組みも生き方も、そういう視点でアップデートしていきたい。#女性のホンネ2018 でみなさんの考えやアイデアを聞かせてください。ハフポストも一緒に考えます。
(取材・文:阿部花恵 編集・写真:笹川かおり)