ギフトや海外などの新たな市場を開拓。老舗メーカーが体現するBtoCの可能性

個人的に商品を手に取った人がきっかけとなって、海外企業とのBtoBビジネスに派生するかもしれません。

ハンガーの市場は業務用(BtoB)と小売用(BtoC)で大きく異なります。アパレルショップや百貨店は洋服をより際立たせるために、ハンガーの素材や色味にこだわります。片や、一般の消費者はホームセンターなどでまとめ買いすることが多く、同じハンガーでも求められる要素が違うため、BtoB向けメーカーとBtoC向けメーカーは役割が明確に区分けされていました。

兵庫県豊岡市を拠点とする『中田工芸』は、1946年の創業からBtoBビジネスを展開してきた木製ハンガーの専門メーカー。長年蓄積している技術と知識は唯一無二であり、職人の手作業から生まれる滑らかな質感は思わず頬ずりしたくなるほどです。しかし、アパレル業界の縮小とネット通販の台頭に伴い、売上は減少の一途を辿ります。同業他社は販売商社に転換するか、もしくは次第に姿を消していき、木製ハンガーの国内専門メーカーはいつしか中田工芸のみになりました。

■現在は売上の4割がBtoC

この状況を打破すべく、ネット経由での売上を増やすために、2000年に自社通販サイトを立ち上げました。すると、法人だけでなく、一般の個人顧客からも多くの問い合わせが寄せられるようになります。家庭用ハンガーというマーケットは、実はポテンシャルを秘めているかもしれない。そう考えた中田工芸は2007年に自社ブランド『NAKATA HANGER』を立ち上げ、東京・青山にショールームを開設しました。

とは言え、待ちの姿勢では個人顧客のニーズを駆り立てることはできません。多くの人たちは「自宅のハンガーにこだわる」という考えを持っていないからです。ハンガーは普遍的なファッションアイテムであること、そして生活に価値をもたらす存在であることを伝えるために、中田工芸は攻めの姿勢で活動を展開していきます。

2008年には漆塗りのハンガーを製作して「Hanger meets Japan展」を、2009年にはハンガー収集家である天野豊久氏のコレクションを集めた「カンブリアンハンガー展」を開催。2010年からは、伊勢丹メンズ館での取り扱いをきっかけに、百貨店を中心に販路を拡大していきました。近年では、ギフトや記念品としての利用促進にも力を入れており、結婚式や卒業式で贈呈されることも増えています。

こういった展開に伴い、楽天やAmazonでも販売を行うことで個人顧客とのタッチポイントを増やし、現在は売上の4割をBtoCが占めるまでになりました。20年にわたって続いていた売上の下落も止まり、業績は上向きはじめています。

創業から続く伝統を重んじながらも、中田工芸には自分たちのものづくりを後世に残したいという強い思いがあります。その思いがあるからこそ、自社ブランドへのチャレンジに踏み切れたのでしょう。

洋服にこだわる人たちは世界中にたくさんいます。個人的に商品を手に取った人がきっかけとなって、海外企業とのBtoBビジネスに派生するかもしれません。BtoCビジネスがメーカーの可能性を広げることを、中田工芸は今まさに体現しています。

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