親の離婚は、私のせいじゃなかった。まだ見ぬわが子に伝えたいこと

「ねぇ、心から離婚してくれてありがとう」

真夏の中国はギラギラと唸るように輝く太陽と、暑さに疲弊する多くの人たちで溢れていた。

「今年の暑さはたまったもんじゃないよ。こんなんじゃゴルフなんてできない」と汗を拭きながら実父は文句をいっている。

実父との再会は今回で2回目だ。

前回は昨年9月のこと、25年ぶりの親子水入らずだった。

あの再会から新しい人生が動き出した。

「実父は私を愛していた」「もうこれでいつでも会える」、今までの不安や悲しみを完全に拭い去ったからだ。

2回目の再会が決まったとき、喜びと共に照れ臭さがあった。

「8月の頭にこっちに来れる?」というメールに「んー仕事の都合による」なんて返事をする。まるで思春期を迎えたばかりの女の子のようだ。

えるあき

ドラマチックな1回目、現実的な2回目

今回は5日間の滞在。もともと2回ほどゴルフに行く予定だったが酷い暑さのため断念した。

完全フリーの5日間。初日で話すことが無くなった。前回は25年ぶりの再会、今回は11ヶ月ぶりの再会。合わない時間の厚みが違う。

でも、そのとき「あ、本当の親子って多分こうだ」と思った。

きっと母と実父が離婚せずに、25年間の空白がなかったら、話すことなんてないのだろう。

きっとこれが、現実的な、地に足がついた「親子水入らず」なんだ。

母に伝えた「離婚してくれてありがとう」

実父と親子水入らずの時間を過ごして3日目の夜。

私は母に電話をかけていた。

「ねぇ、心から離婚してくれてありがとう」

「え? なんかやなことあったの?」

リアルな親子の時間を過ごせば過ごすほど、実父と母がなぜ離婚に至ったかがわかった。

母は自由でとてもパワフルな人だ。「馬に乗りたい」と思いつけば軽井沢まで車を飛ばし、「今日の風は沖縄の匂いがするから行こう」と飛行機のチケットを取る。

それに対して父は完全な亭主関白。今の奥さんは彼の3歩後ろを歩き静かについていく。「今日はどこそこに行くから」と父が言えば、「わかりました。車の手配しますね」と笑顔を見せる。

「いや、お父さんみててさ、ママとの相性の悪さを痛感したの。23歳のママが3年間耐えたことに私は驚いているし、離婚せずに劣悪な夫婦関係を見せられなかったことをすごく感謝した」

「そうなの!そうなのよ!! いっぱい努力したんだけど、無理なものは無理なのよ。だからあなたのせいじゃないのよ」

あ、離婚の原因は私じゃないんだーー。

一気に気持ちが解き放たれた。心の奥底で小さく丸くなっていた2歳の私が笑顔を見せた。

私が欲しかったのは、実父からの「愛してる」よりも、両親の「あなたのせいじゃない」だったんだ。

えるあき

「諦めない」という挑戦

2年前、夫との結婚を決めたとき、いつでも離婚できるように離婚届も一緒に書いた。いつでも離婚できるほうが、気持ちが楽だったからだ。

夫は賛成も反対もせず、私の望みを優先し「結婚ってこういうものなのか」と言って離婚届に判を押した。

実父との2回目の再会を果たして、何を得たのか。

実父に感じた嫌悪感や、母との離婚に対する納得感。そして、二人の離婚に置いて私は全く関係がなかったということ。

成田空港から家に帰る。

夕飯の支度をしてぼーっとソファに座っていると夫が帰ってきた。

手にはハーゲンダッツのアイスを持っている。チョコチップとストロベリーだ。「疲れた顔しとんな、おかえり」と照れくさそうな顔をみせた。

新婚旅行はアイスランドへ
えるあき
新婚旅行はアイスランドへ

そのとき私は「諦めたくない」と思った。

彼との関係、夫婦生活を、最後まで全力でやり遂げようと思った。

実父と母が26年前に至った「離婚」。実父と過ごした時間、母と過ごした時間。それぞれをみて「この人たちはやりきったんだ」と思った。

やりきった結果、たどり着いたのが「離婚」なんだ。

そして、わたしは母になる

実父と会う一週間前に妊娠がわかった。1年以上続けた、不妊治療をやめて2カ月後のことだった。

日に日に変わっている自分の身体。胸は大きくなり、へそから下が少しずつ膨らんでくる。

妊娠がわかったとき、不安と絶望感でいっぱいだった。

男の子なのか女の子なのか。健康なのか、病気を抱えているか。私のように学習障害やADHDを持っているかもしれない。

そんなことはどうでもいい。不安と絶望はそこじゃない。

「この子も自分を責めて生きるのかも、私のように」

両親の離婚、母と継父の再婚、血のつながらない妹。いろんなことを自分のせいにして生きてきた。ずっと胸の中でうずくまっている小さな自分に暴力を振って生きてきた。

そんな風に、我が子も生きるのかもしれない。想像すると、怖くてたまらなくなる。

柴崎まどか

まだ見ぬ子へのわがままだと思って聞いてほしい。

私はあなたの祖母や祖父たちの行動に、言動に、深く傷ついた。大人になってようやく、彼らは意図的にそういった行動を起こしたわけじゃないことがわかった。

きっと、彼らと同じように私も無意識にあなたを傷つけることがあるはず。

でも、それはあなたのせいじゃない。

そんなときは、どんな手段を使ってもいい。自分を責めて傷つけた分だけ向き合って、強く自分を抱きしめて。

かつての私のように。