ムスリムへの偏見は、福島が原発で味わった感情に似ているように感じましたーー。
福島から世界へ、ムスリム女性向けのファッションを届けようと奮闘する女性がいる。ムスリム女性向けのファッション事業を展開する合同会社WATASI JAPAN(福島県白河市)の代表・名和淳子さんだ。
WATASI JAPANは、「福島発の」ムスリム女性向けのファッションを世界に発信するため、クラウドファンディングで資金調達を始めた。主な商品は、着物を再利用して作った「アバヤ」や「ヒジャブ」。中東のドバイやアブダビなどで行われるファッションイベントで展示・販売を検討している。
再利用される着物は、結婚式で新郎新婦の母親などが着用する黒留袖。ヒジャブといえば色鮮やかなイメージもあるが、保守的な中東諸国では、黒いヒジャブやアバヤを着用することが多い。だからこそ、漆黒に映える上品で鮮やかな和柄が好評だ。文様に込められた「母親が子どもの幸せを願う想い」と共に、中東をはじめとした世界へ発信したいと思っている。
しかし、なぜ「福島からムスリムファッション」なのか。
そこには、「ファッションを通じて偏見のない社会を目指したい」という名和さんの思いがあった。
■ 震災後に感じた「福島への偏見」
名和さんは東日本大震災の発生時、福島に住んでいた。原発事故の影響で、実家のある横浜へ避難。横浜では、福島への偏見を感じることが多々あった。福島ナンバーの車を運転していると、明らかに気付くほど車間距離をあけられた。「福島=危ない」という風評被害にも苦しんだ。
■ 「ムスリム=テロリスト、危険」というイメージ
もともと、名和さんがムスリムファッションの事業を始めたきっかけは、その「市場規模の大きさ」に可能性を感じたから。イスラム教やムスリムのことはあまり詳しく知らなかった。
しかし事業を進める中で、多くの在日ムスリムと出会う。そのなかで、彼らが社会からの偏見で肩身の狭い思いをしていることを知った。ちょうど「イスラム国(IS)」が台頭し、日本人が人質として拘束・殺害される事件が起きた頃だった。「ムスリム=テロリスト、危険」という誤ったイメージに、ムスリム自身が一番傷付いていると感じた。
自宅にホームステイしていたムスリムの女の子が、買い物中に警察から職務質問を受けたこともあった。「彼女がヒジャブをつけていたからだろうか、日本人ならばそんなこと絶対にないのに」と悔しく思った。
■ 「知ってもらうこと」、それが偏見を無くす一歩
福島で震災に遭った者として味わった感情と、社会の勝手な偏見に苦しむ在日ムスリムの姿が重なった。今後、イスラム圏からの外国人労働者もますます増えてくるだろう。本来イスラム教は平和を説く宗教だ。偏見を持つ人は「よく知らないから怖い」と感じるだけだと思う。「自分たちの事業をきっかけに、少しでも彼らを知ってほしい」と考えている。
「福島から来ました」と話すと、「あー、あの福島ね…」とネガティブなリアクションが多い。それを「おー!あの頑張っている福島ね」に変えていきたい。同じように、ムスリムに対する反応も、「あー」から「おー!」へとポジティブなものへ変わってくれたら嬉しい。
「福島でヒジャブを作って販売することが、社会のムスリムへの偏見をなくし、在日ムスリムの光となっていけたら…」と名和さんはそう希望を語った。
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