世界最大級の飛行機が、ロシア軍の攻撃で無残に破壊された姿が明らかになった。旧ソ連時代に建造された貨物機「An-225 ムリーヤ」だ。製造元のアントノフ社は「伝説的な航空機の取り返しのつかない損失を防ぐ」として、復活のための国際基金をスタートさせた。
■ロシア軍の撤退で無残な姿が明らかに
首都キーウ(キエフ)郊外にあるアントノフ空港は2月下旬、ロシア軍の攻撃を受けた。ムリーヤはちょうどメンテナンス中で避難できなかった。同空港をロシア軍が占拠したことで安否不明になった。
ムリーヤの製造元であるアントノフ社は「AN-225が専門家によって検証されるまで、航空機の状態について報告できません」と2月27日にツイート。同機が破壊されたかどうかは断言を避けた。
一方、ロシア国営放送は3月4日、大破したムリーヤとみられる機体の映像を流したほか、「ウクライナ側が破壊した」と主張していた。アントノフ空港の占拠を続けていたロシア軍が3月末までに撤退したことで、ムリーヤの破壊がウクライナ側からも確認できるようになった。
CNNは3月31日に撮影された衛星写真を元に、ロシア軍がアントノフ空港から撤退していたことが確認できたと報じた。
4月2日には地元メディア「キーウ・ポスト」の記者が「これまで働いてくれて有り難う」という追悼メッセージと共に、アントノフ空港で撮影されたムリーヤの写真をTwitterに投稿した。
ムリーヤは大破して焼け焦げていた。下半分だけが残った機首が胴体から地面に崩れ落ちるなど激しく損傷していた。
■製造元のアントノフ社、復活のための国際基金の募集をスタート
アントノフ社は3月25日、ムリーヤが破壊されたことを認めた上で、機体を復活させるための国際基金をスタート。ロシア軍の撤退判明の前からFacebookで発表していた。
以下のようなメッセージともに、銀行の振込先を掲載。世界各国の政府・企業・航空ファンらあらゆる人々に資金援助を呼びかける内容だった。
「2022年2月、惨事が起きました。 ウクライナ侵攻でAN-225ムリーヤが破壊されました。 この損失は、アントノフ社のスタッフ、世界の航空業界だけでなく、世界最大の航空機輸送サービスを利用した多くの顧客を驚かせました」
「アントノフ社のチームは困難な状況の中でも、現代の象徴の一つである伝説的な航空機の取り返しのつかない損失を防ぎ、AN-225ムリーヤを復活させる必要があると考えています」
「残念ながら、ウクライナ政府とアントノフ社にとって困難な時期のため、この問題を解決する十分な資金がありません。私たちは、An-225ムリーヤ輸送機復活のための国際基金を設立することを提案します」
■ムリーヤとは?ソ連版スペースシャトルの輸送用に開発。東日本大震災の復興支援で来日したことも
ムリーヤは旧ソ連時代に、ウクライナに拠点を置くアントノフ設計局が開発した巨大輸送機「An-225」の愛称だ。ソ連版のスペースシャトルとして知られる「ブラン」を輸送するために2機が作られたが、完成したのは1機のみだ。1988年に初飛行した。
その巨大さを生かしてアントノフ航空が貨物機として運用しており、ウクライナ語で「夢・希望」を意味するムリーヤという愛称が付けられている。
アントノフ航空の公式サイトによるとムリーヤの全長は84メートル。「ジャンボジェット」として有名なボーイング747は70メートルなので大きく凌いでいる。