2011年に小学校でストリートダンスが必修化されてから、中学、高校でも順次導入されて早10年。ストリートダンスをはじめ、スケートボード、BMX(自転車競技)など、いわゆる「ストリートスポーツ」は、若者層を中心に身近な存在になっている。
そんなストリートスポーツにおいて、世界トップアスリートが集結する大会が日本に存在する。一般社団法人CHIMERA Union(キメラ・ユニオン 以下、キメラ)が展開する「A-SIDE」だ。
スケートボードのナイジャ・ヒューストンや堀米雄斗らが世界トップレベルの技を披露し、一躍注目イベントとなったが、プロデューサーの文平龍太さんは「大会がゴールではなく、本当のゴールはその先にある」と語る。
キメラが描く、スポーツの先にある未来とは?
必修化から10年。まだまだマイナースポーツ
ストリートスポーツは、一般的に次のように定義づけられている。
・大掛かりな施設を必要とせず、都会の街中でも始められる
・一人からでも始められ、勝手に辞められる自由度の高さがある
・他のスポーツとのかけもちがしやすく、生涯スポーツとして続けやすい
競技の始めやすさや、ライフスタイルに馴染みやすい点が注目され競技人口は増えているものの、野球やサッカーと比べてまだまだ「マイナースポーツ」と言えるだろう。
キメラはこれまで、スポーツを実際に見て、体験することができるさまざまなイベントを展開してきた。ストリートスポーツと音楽が絡み合うフェス「CHIMERA GAMES」や、世界最高峰のアスリートが集結する日本最大規模のストリートスポーツリーグ戦「CHIMERA A-SIDE」、そして選手とともにストリートスポーツ体験の機会を全国各地の子どもたちに提供する「スクールキャラバン」など。
まだ理解が浅く、ややもすると「やんちゃな人が多い競技」などと偏見を持たれることもあるストリートスポーツ。そのカルチャーを通じて、スポーツの価値観を変えようと取り組むのが、キメラ代表の文平龍太さんだ。
「気軽に始められる上、年齢、性別、身体的な特徴や運動能力、リズム感... 自己表現ができて、“個性”を大いに生かせる。ストリートスポーツに対する注目が高まってきたからこそ、誰もが楽しめる選択肢にしたい」
そう語る文平さん、もともとはラグビー選手として活躍し、高校時代は日本代表に選出された経歴をもつ。元ラガーマンが、ストリートスポーツに感じた可能性とは?
元ラグビー高校日本代表が、なぜストリートスポーツに?
── 文平さんは、もともとラガーマンとして日本代表にも選出されたそうですね。
文平さん(以下、文平) 天理高校、明治大学、クボタ(現クボタスピアーズ)でラグビーをプレーしてきました。今でこそ、ラグビーの認知度や人気は高まりましたが、およそ20年前はマイナーもマイナー。その経験が、今の活動の原点なのかもしれません。
家業を継ぐために現役は引退しましたが、ある日、FMX(フリースタイルモトクロス)ライダーから相談を受けたんです。「選手は命懸けで競技をしているのに、全然お客さんが集まらない」と。
まず思ったのは、“社会に必要とされる存在になる”ということ。技術さえ磨けば良いと、考えるアスリートが多いのですが、それでは人もスポンサーも集まりません。自分たちから社会との接点を持ち、どうやったら興味を持ってもらい、応援してもらえるのか、一緒に考えていかなければなりません。
FMXだけで集客できないなら、スケートボードやBMXなど、複数競技を集めて「ファンをシェアしよう」と。この構想をもとに2015年6月、横浜の赤レンガで開催したイベントには、およそ6万人の来場。想像以上の反響でしたね。
そこから発展したのが「CHIMERA GAMES」です。若者向けというイメージが強いストリートスポーツのイベントを、家族みんなで来てもらえるイベントにしました。
例えば、健康チェックのできるブースがあれば、おじいちゃんおばあちゃんも一緒に来ることができる。ヨガやフラメンコの体験ができると女性も来やすくなるかもしれない。そこで、世界トップレベルのスケボーやBMXを“偶然”目にすることで、新たなファンの獲得につながれば...。そんなイメージで、それぞれの「楽しい」を持つことができる空間を目指しました。
CHIMERA GAMESは誰もが色んなスポーツを体験するきっかけだとしたら、A-SIDEは参加費無料で誰もが世界を目指せる場所として立ち上げました。今年からA-SIDEの競技にダンスが追加されますが、これまでのダンス大会は参加費がかかったりチケットノルマがあったりと、参加ハードルが高いという現状があったんです。
スポーツは、「競技」じゃなくて「エンタメ」でもいい
── そうしたイベントの開催を通して、目指していることは。
文平 僕たちが目指すのは、誰もがスポーツを楽しみ、挑戦できる場所を作ること。「スポーツ」と聞くと「競技」をイメージする人が多いですが、本当は誰もが参加できて、みんなで楽しめるものだと思うんです。もっと言うと、楽しむ場所があれば、勝手に社会課題を解決する存在になるのではないでしょうか。
これは、「スクールキャラバン」でも目指していること。ストリートスポーツを知る、スポーツを楽しむ機会を提供し、子どもたちが趣味や夢の新たな選択肢を見つけられる場になればと思っています。
さまざまな競技に触れて自分の強みを知り、新たな選択肢を持つことで可能性は大きく広がりますから。「今の部活が嫌だから、辞めたい」ではなくて「違うものに挑戦できるんだ」という考えに繋がればうれしいです。
地域貢献という点も重視しています。イベントに、その地域と関わりのある選手が参加したり、地域の特性を生かした競技を取り入れたり。自治体は、ハード面は整備することができますが、それを活かすソフト面を必要としていることが多いので、その役割分担がうまくいってると思います。キメラの活動は地域活性化や多世代の健康増進、SDGs教育としての側面も持っていますから、自治体と連携しながらインフラのひとつとして機能できたら嬉しいですね。
── この先見据える、ストリートスポーツの可能性とは。
文平 ストリートスポーツは気軽に始められて、気軽に辞めることもできる。多様な競技があるので、年齢、性別、身体的な特徴や運動能力、リズム感... 自己表現ができて、“個性”を大いに生かせる。そんな魅力的なスポーツを、次世代では社会から必要とされる存在にしたいです。
多世代との接点を作る「CHIMERA GAMES」、次世代を育てる「スクールキャラバン」、世界と繋ぐ「A-SIDE」。これらのイベントを開催し、競技を知ってもらうことがゴールではありません。ストリートスポーツをきっかけに、体を動かす楽しみを知る、人とつながる、新しい選択肢を知る。そんな社会的意義のある活動を、これからも続けていきます。
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ストリートスポーツを「誰もが参加できる、誰もが楽しめる」ものに。この考え方には、社会に数多く存在する課題解決のヒントがあるのかもしれない。