末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)が、教会のLGBTQ信者を背教者とし、信者の子どもたちの洗礼を禁止していた方針を廃止した。
教会の最高管理機関である大管長会は4月4日、同性カップルの結婚は「重大な違反」とは認識し続けるものの、同性パートナーと結婚している性的少数者の信者は、自動的に教会の福音の原則に離反する「背教者」とはされないと発表した。
「異性カップル、もしくは同性カップルにおける不道徳な行為は、同様に扱う」と大管長会は声明文で発表した。
LGBTを自認するカップルの子どもたちも、教会の教義に従うことを親たちが理解した上で、洗礼を受けられるようになる。
方針の変更は、今週末開かれた教会の総大会を前に、ダリン・H・オークス管長が発表した。「長期間の議論」と神の御心(みこころ)を理解するための「熱烈で、団結した祈り」を続けた結果、以前の方針を廃止することになったという。即日施行され、教会の管理部が使う手引書にも反映される。
オークス管長は方針の変更を、「影響のある家族」にとって「とても良い施策」だと話した。
ネットに掲載された声明には「現代で普遍化している憎しみと論争を減らしたい」と書かれている。
しかし、教会のLGBTQ信者とアライ(理解者)たちは今回の方針変更に対し、複雑な反応を示している。多くの人が、教会の教義では同性結婚が罪であり続けていることを指摘した。レズビアンやゲイの信者が自身と教会の教えを両立させるには、生涯独身で過ごすか、異性のパートナーと結婚ーーつまり、性的指向が異なる人と婚姻関係になるしかない。
他にも、2015年11月に施行された以前の方針によってもたらされた、苦痛や傷が十分に認められていないという指摘もあった。大管長会は以前のLGBQに関する方針を「啓示」と呼び、モルモン教では神からの直接の教えとして教会では特別に重んじられていた。
2015年の方針では、同性カップルの子どもは18歳になってからのみ入信ができた。ただし、両親の家を出て、両親の関係を否認し、教会の指導者たちから承認を得ることが必要だった。2015年の方針は同性のパートナーと結婚している信者を背教者とし、評議会による罪の審議も強いられ、除名になりえた。
モルモン教のLGBTQの人たちは当時、この方針を強く批判した。LGBTQモルモン教徒の支援団体「アファメーション」は4日、この数年間で、方針によって教会の家族は大いに傷つけられたと話した。同団体によると、教会は同性カップルを常に探り、罪を評議にかけ、背教を理由に除名してきたという。教会の方針は、性的指向が異なるカップルが離婚した後、異性愛者の親が子どもを教会の一員にするために、「親権を巡る激しい争い」を引き起こしてきたともいう。同性カップルの子どもたちはスティグマ(偏見)を着せられ、LGBTQの愛する人と共にいるか教会に従うかの選択を迫り、家族を引き裂いてきたと団体は主張する。
「アファメーションでは、今回の方針変更を進歩だと認識していますが、教会や信者たちの家が、LGBTQの人にとって安全で受け入れられる場所になるまで、するべきことはまだたくさん残っています」と声明で話した。
自身のLGBTQの子どもたちを支援する母親たちの団体「ママ・ドラゴンズ」は、「排除の方針」によって傷つけられた人や家族たちと共に悲嘆しているという。
「方針の廃止が多くの人のためになり、あるゆる人たちが受け入れられる教会に近づくことを願っていますが、新しい方針の採用と施行によって、最も影響される人たちと共にあります」と声明文で話した。
ママ・ドラゴンズの創始者の一人、ダイアン・オビアットさんはハフポストの取材に対し、方針変更が「ガスライティング(記憶の否定などの情報操作による心理的な虐待)」のようだと話した。
「背教のラベルを剥がすことは良いことですが、同性婚を罪とされ続けているので、結局は嘘のように聞こえます」とオビアットさんは話す。
オビアットさんの息子は2007年にカミングアウトし、教会を脱会した。自身と夫も、2015年の方針が発表された後に脱会した。オビアットさんは、教会は結婚の平等を受け入れられない限り、LGBTQコミュニティにとって有害であるという。
「今回の方針変更で、モルモン教に戻ろうとは全く思いません」とオビアットさんはいう。「教会が平等と正義を信じる信者を失い続ける中での、広報的戦略であるように感じられます」
教会広報のエリック・ホーキンズ氏は新方針への批判に関するハフポストの取材に対し、批判に関する回答を拒否している。
オレゴン州・ポートランド在住のゲイで活動家のピーター・ハリソンさん(24)は、ハフポストの取材に対し、教会は以前の方針が苦痛をもたらしたことを正式に謝罪し、施行するのは誤りだったことを認めて欲しいと、メールで答えた。方針の変更された今も、多くの問題はうやむやのままだという。
多くの教会行事はジェンダー(社会・文化的な性差)によって分けられているが、方針変更によるトランスジェンダー信者への影響が不明のままだというハリソンさん。異性カップルや同性カップルによる「不道徳な行為」を同様に扱う指示を、管理機関の低い階層がどのように解釈するかも気になっているという。
「一体何が不道徳とみなされるのか?結婚している同性カップルは手を繋いでも良いのか?キスをしても良いのか?それも、結婚していないカップルと法的に結婚しているカップルとで扱いは変わるのか?」というハリソンさん。「様々な場面で、新しい方針が具体的にどのように影響するのか不明なままです」
アメリカで、モルモン教徒は平均より同性カップルの結婚を支持しない傾向がある。非営利団体「公共宗教研究所(PRRI)」の2017年の調査によると、61%のアメリカ人は同性カップルは法的に結婚できる選択肢をもつべきだと答え、30%が反対だったのに対し、モルモン教徒は40%が同性結婚を支持していて、53%が反対している。
しかし、モルモン教の姿勢は変化している。PRRIによると、2013年から2017年にかけて、結婚の平等に反対するモルモン教徒は15%低下した。
「次世代のモルモン教徒たち:ミレニアル世代のLDS教会改革」の著者であるジャナ・リースさんはハフポストの取材に対し、4世代にわたる現役と元信者を対象とした国勢調査「次世代モルモン調査2016」によると、今回の変更の背景にはミレニアル信者らがいることが考えられると話した。同調査では、ミレニアル世代回答者の40%が同性婚の合法化を支持すると答えた一方で、ベビーブーム世代回答者(1940年代後期から1960年代後期生まれ)とサイレント世代回答者(1920年代後期から1940年代前期生まれ)は20%が合法化を支持すると答えた。
調査では、2015年11月に施行されたLGBTに関する方針についても聞いた。ベビーブーム世代とサイレント世代の回答者のうち、約58%が結婚している同性カップルは背教者とされることに「強く同意する」と答えた。ミレニアル世代で「強く同意」答えたのは、40%だけだった。さらに、同性カップルの子どもに洗礼や祝福を禁止することに、ベビーブーム世代とサイレント世代の44%が「強く同意」と答え、ミレニアル世代の32%が「強く同意」と答えた。
「ミレニアル世代のモルモン教徒は、同世代でモルモン教徒でない人たちと比べLGBTに関して保守的であるものの、上の世代のモルモン教徒よりはかなり進歩的です」とリースさんはいう。
以前から反LGBT発言を批判されているオークス管長が、今回の変更を発表したのは目覚ましい、とハリソンさんはいう。
「彼は反LGBT思想で有名なLDSリーダーの一人で、総大会では反LGBT演説で憎しみと論争をもたらしてきました」と話すハリソンさん。「彼がこの発表をするのは、LDSのLGBT信者たちがガスライティングされていると感じます」
それでも、ハリソンさんは性的少数者のモルモン教徒もいつか教会に平等に扱われる日に希望を持っているという。
「この10年間で大きな前進も後退もありましたが、希望が私を安心させてくれます」とハリソンさんは話す。「神は今のままの私たちを愛している。LDS教会の管理機関の方針と教えが、それと一致する日を私たちは待っています」
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ハフポストUS版の記事を翻訳、編集しました。