ルーブル美術館の専門家たちはここ数カ月、16世紀に描かれたある1枚の木炭画について調べてきた。
それは「モナ・ヴァンナ」と呼ばれる、女性のヌード画。レオナルド・ダ・ヴィンチのアトリエで長く保存されてきた。
専門家たちはこの絵が、かの有名な「モナ・リザ」と関係があるのではないかと考え調査を進めてきた。
モナ・ヴァンナは1862年以来、パリ北部にあるコンデ博物館で保存されてきた。
コンデ博物館が絵を購入した時、モナ・ヴァンナはレオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれたものではないかと考えられていた。
しかしその後、サインの仕方からモナ・ヴァンナはダ・ヴィンチではなく彼の生徒かアシスタントによる絵ではないかと考えられるようになった。ただ、それが誰かはわかっていなかった。
現在世界中で、モナ・リザに似た20枚のヌード画が世界に存在している。つまり「モナ・リザ」に似ている絵は珍しくないのだが、これだけの数のモナ・リザに似たヌード画が存在するのであれば、そのうち少なくとも一枚はダ・ヴィンチが関わったのではないかと研究者たちは考えてきた。
コンデ博物館の副キュレーター、マシュー・デルディック氏はニューヨークタイムズ紙に「レオナルドの生徒たちの多くが、裸のモナ・リザを描いています。私たちは、一枚はレオナルドが描いたと信じています」と語っている。
「モナ・ヴァンナ」がその一枚なのだろうか?
ダ・ヴィンチ没後500年を記念して、ルーブル美術館は2019年に大規模なダ・ヴィンチ展を予定している。ルーブル美術館の専門家たちは、この展覧会に出品するため、モナ・ヴァンナを分析した。
そして12人の専門家たちは、下絵の少なくとも一部が、アシスタントではなくダ・ヴィンチ自身によるものだという結論に至った。
AFP通信によると、彼らはモナ・ヴァンナはモナ・リザを描くための準備作品であり、モデルは同じ人物で、モナ・リザと同じ位置に衣服をまとわずに座っていると考えている。
もしそれが正しければ、モナ・ヴァンナのモデルは、モナ・リザのモデルと考えられているリサ・ゲラルディーニである可能性が高い。
モナ・リザは、ゲラルディーニの夫でシルク商人だったルファンチェスコ・デル・ジョコンドの依頼によって描かれた。そして500年間、モナ・リザはその謎めいた表情で人々を魅了し、世界中で知られる絵になった。
「モナ・ヴァンナの顔と手の描かれ方はとても素晴らしい。これは単なるコピーではありません。モナ・リザ同様、レオナルドが生涯の終わりの方で取り組んだ作品です」「油彩画を描くための準備作品として描かれたことはほぼ間違いありません」とデルディック氏はAFP通信に述べる。
その証拠の一つとして挙げられるのがサイズだ。モナ・ヴァンナとモナ・リザは同じサイズ77×53センチメートルだ。また手と体が同じ場所、同じ角度で描かれている。
さらに、モナ・ヴァンナの周りには小さな穴があいている。専門家たちは、これはダ・ヴィンチがキャンバス上で絵のアウトラインをトレースした時にできたと推測している。このアウトラインから絵が描かれ始めた可能性もある。
ちなみに、モナ・ヴァンナが描かれたのは1514年〜1516年、モナリザは1503年〜1519年と考えられている。時期も一致する。
この説に反対する証拠もある。ニューヨークタイムズ紙によると、モナ・ヴァンナの上部の影部分は右利きの人が描いているように見えるが、ダ・ヴィンチは左利きだった。
ただ、下部の影部分は右利き・左利きの判別が難しい。ダ・ヴィンチが下部を描いて右利きの生徒の一人が上部を担当したということも考えられるという。
デルディック氏はニューヨークタイムズ紙に「はっきりとわかっていることは何もありません、レオナルドの手による部分があったとしても、全部ではなく一部でしょう」と述べている。
一方、ルーブル美術館の保護専門家ブルーノ・モティン氏は、結論を急ぐべきではないと考えている。「これはとても繊細な絵で、分析するのが難しい作品です。注意深く調べるべきです」とAFP通信に述べる。
結局のところ「モナ・リザ」の謎は深まるばかりだ。500年たった今でも、彼女は神秘さを失わない。