池松壮亮さん主演の映画『宮本から君へ』の製作会社などが12月20日、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(以下、芸文振)が一度は決めていた同作への助成金の交付内定を取り消したのは「表現方法への介入」だとして、不交付処分の取り消しを求めて同法人を提訴した。同日、作品のエグゼクティブプロデューサーや弁護団が司法記者クラブで会見を開いた。
芸文振は、同作に出演していたピエール瀧さんが麻薬取締法違反で有罪判決を受けたことで、「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねない」と判断し、「公益性の観点」から交付内定を7月に取り消していた。
プロデューサーの河村光庸さんは、その判断が「キャスティングという表現方法への介入」であり、憲法で保障されている表現の自由への侵害にあたると主張した。
何が起きたのか?
映画『宮本から君へ』は、新井英樹さんの同名マンガが原作。真利子哲也さんが監督を務め、池松壮亮さん、蒼井優さんら出演で2019年9月に公開された。
作品には、麻薬取締法違反で執行猶予付きの有罪判決を受けたピエール瀧さんも出演していたが、配給会社は出演シーンをカットすることなく公開に踏み切った。
同作への助成金交付を決めた芸文振は、舞台や映像、音楽などの芸術文化活動を援助する文化庁の所管の独立行政法人だ。政府からの出資(541億円)と民間からの寄付金(146億円)を原資とした運用益を使い、さまざまな活動に助成金を充てている。
芸文振は3月、本年度の助成対象を決定。その中には映画『宮本から君へ』が含まれており、助成金1000万円の支援が決まっていた。
しかし、瀧さんへの有罪判決を受けて7月10日に交付内定を取り消したという。
取り消しの理由は何なのか。
ハフポスト日本版の10月の取材に対し、芸文振の担当者は、瀧さんが出演していることで「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねず、公益性の観点から交付内定を不適当と判断した」と答えている。
さらに、内定取り消しからおよそ2カ月後の9月27日に、芸文振は助成金の「交付要綱」を改正。
第8条の「交付の決定及び通知並びに不正等による交付内定の取消し」の項目に、「公益性の観点から助成金の交付内定が不適当と認められる場合」という条件が追加された。
また、助成を受けたい人に向けた「募集案内」の内容も変更された。「不正行為等に係る処分」という項目に、以下の説明書きが加えられている。
また、助成対象団体が団体として重大な違法行為を行った場合や、助成対象活動に出演するキャスト又は制作に関わるスタッフ等が犯罪などの重大な違法行為を行った場合には、「公益性の観点」から 助成金の交付内定や交付決定の取消しを行うことがあります。
「表現方法への介入である」プロデューサー抗議
原告となるエグゼクティブプロデューサーの河村さんと弁護団は会見で、「公益性の観点」という取り消し理由が「曖昧かつ漠然」としており、憲法違反だと主張。
「今後の文化芸術活動、その他の表現行為に大きな萎縮効果を与える」として、提訴に踏み切った理由を語った。
出演者のシーンの削除や撮り直しをしなかったため助成金が交付されなかったことについては、「表現方法としてキャスティングはコアな部分。その表現方法への介入である」と訴えている。
すでに司法判断が下っているピエール瀧さんへの思いについては、「客層に愛され、スタッフやキャストに対して人格的に素晴らしい人」と語り、「犯罪(罪を犯した)ということだけを理由に文化芸術に手を出してくることに対して芸文振に怒りを感じる」と語った。
芸文振の担当者は、ハフポスト日本版の取材に対し、「訴状が届いていないためコメントは差し控えたい」としている。
経緯
2019年3月12日 映画『宮本から君へ』が完成
同日 ピエール瀧さんが麻薬取締法違反で逮捕
3月29日 助成金交付の内定通知
4月24日 初号試写。スターサンズによると、芸文振側から、作品を再編集する意図があるか、また助成金の内定辞退の可能性があるか問われたという。
6月18日 ピエール瀧さんに執行猶予付きの有罪判決
6月28日 芸文振から助成金不交付決定をすると口頭で告知を受ける
7月10日 「公益性の観点」を理由に助成金不交付決定
9月27日 文化芸術活動への助成金交付要綱が改訂され、内定交付の取り消し事由として、「公益性の観点から不適当と認められた場合」という文言が追加される