ハフポスト日本版とRethink PROJECTは、今年から地域の課題解決を目指すワークショップを実施する。第1弾となる「三宅町で地域通貨の可能性を考える」ワークショップが、2022年6月11日・12日に開催された。
奈良県磯城郡に位置する三宅町は、日本で2番目に小さい町で、ゆっくり歩いても3時間ほどで町を一周できてしまう。人口は約6,700人。過疎地域に指定され、少子高齢化や人口流出という課題を抱えている。
そんな三宅町は、本ワークショップ以前にも奈良県立大学と連携し、Rethink PROJECTの取り組みに参加。そこで生まれたアイデアの1つが「地域通貨」だ。三宅町の特産品である野球グローブの「端材」の活用方法を模索する中で、丸い端材がコインに見えるという学生のアイデアからスタートした。
今回のワークショップには、奈良県の大学生、東京都の大学生、JT社員、三宅町住民と、町役場の職員が数名ずつ参加。メンバーは、2日間で新しい地域通貨の構想を作り上げ、最後に森田浩司町長にプレゼンをする。
様々なバックグラウンドをもつメンバーから、どんなアイデアが生まれたのか?
プロ野球選手も愛用する三宅町産グローブ。そして産業廃棄物の課題
1日目は、三宅町を知ることから始まった。
まず、特産品であるグローブやミットなどの野球用品をつくる工場を見学。三宅町の野球用品は、プロ野球選手だけでなく、メジャーリーガーも愛用しているという。工場では、職人技を駆使して製品がつくられる過程を知り、品質の高さを実感した。
工場の職人からは「端材は産業廃棄物になるので捨てるにもコストがかかる」「後継者不足や、海外製品との価格競争で、三宅町の工場もだいぶ減ってしまった」など、直面している課題を直接聞くことができた。
工場見学のあとは、三宅町を歩いて回った。1時間ほどで三宅町を半周し、町の小ささを実感。
「商店やレストランがあまりない」「空き家が多そうだ」
三宅町在住の参加者に町を案内してもらいながら、自分たちの目で地域の課題を確かめた。
カヤックCEO柳澤さんに聞く「地域通貨とお金の違い」
三宅町を巡ったあとは、面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤大輔さんの講演を聞いた。カヤックは、拠点である鎌倉を皮切りに、全国17地域でコミュニティ通貨(地域通貨)である「まちのコイン」を展開している。
まちのコインは、使用することで人とのつながりが生まれたり、誰かの役に立ったりする「お金で買えないうれしい体験」ができるのが特徴だ。
例えば、コインを払うとまちの住職に話を聞いてもらえる、まちのパトロールに参加することでコインがもらえるなど、その地域の様々な人に出会うことができる。
地域通貨は、法定通貨の代替、もしくはお得な通貨というだけではない。人と人の繋がりや自然や文化の価値を可視化するツールとしての可能性を学んだ。
講演を聞いた参加者からは「三宅町には資源が少ないと思っていたけれど、人や自然が価値になるのであれば何かできるかもしれない」という声があがった。
地域通貨で「想いを発信する」「夢が行き交う」
1日目の学びを生かし、2日目は2グループ(グループA、グループB)に分かれて地域通貨の構想をつくりあげる。
年齢も出身も、大学も職場もバラバラの5名が1グループになってアイデアをぶつけあった。
「これで本当に課題が解決されるのか」「地域通貨を貯めるメリットが弱い」「お金との違いは?」など、お互いに意見を出し合い資料をまとめた。
そしてグループAで生まれたアイデアは「想いが生まれ、発信できる地域通貨」。
地域通貨によって人の交流が生まれることで三宅町の活性化を自分ごと化させるとともに、三宅町への想いを声にできるような仕組みを考えた。
さらに、グローブの端材を地域通貨として一定期間使用した後は、アートとして展示するなど、端材を継続的に有効活用する方法も提案した。
プレゼンを聞いたRethink PROJECTの推進責任者・藤内省吾さんは、「通貨的に使うよりも、繋がりや新しい価値を生むための仕組みという発想は素晴らしいと思いました。通貨的な価値をなくすほど、地域通貨が本来持つ価値が薄まるという課題はあると思いますが、短時間でここまでのアイデアが生まれたことに感動しました」とコメントした。
グループBは「夢が行き交うプラットフォーム」としての地域通貨を提案した。
町内でやりたい夢がある人は、地域通貨を一定量貯めることで町長にプレゼンする権利を獲得するというアイデアだ。夢に共感する人は、地域通貨を渡すことで応援することができる。さらに、夢を持つ人は、地域通貨を支払うことで、手伝ってもらうこともできる。
森田浩司町長からは、アイデアをさらにふくらませるフィードバックがあった。
「みんなが求めることを可視化し、透明性のある仕組みで実現していくというのは面白い。地域通貨が貯まって、私に夢をプレゼンするときに、企業も入れば新たなビジネスが生まれるかもしれない。ここからイノベーションが生まれ、街自体の活気、面白さにつながると想像していました」
三宅町で地域通貨って、どう使うねんと思っていた
ワークショップ終了後、参加者からはこれまでの考えが変わったという感想が多く聞かれた。
「自分は三宅町でグローブの生産に携わっていますが、革製品は自分で長く使うものだと思っていました。革の端材が人と交換するコミュニケーションツールになったり、人に見せるアートになったりする可能性に気づいた 」
「三宅町で地域通貨って、どう使うねんと思っていた。みなさんのアイデアを聞いてそういう使い方もあるんやなと思いました」
多様な背景をもつメンバーが話し合うことで、地域通貨だけでなく、参加者自身の価値観や地域の課題についてRethinkする機会になった。
ワークショップの最後は、森田町長の挨拶で幕を閉じた。
「実は、ワークショップが始まる前、職員から『なんで今、地域通貨なんですか。やるべきことじゃないんじゃないですか』という意見もあったんです。でも、ワークショップを通じて、職員も『この話し合いは無駄じゃない、必要ですよ』という意見に180度変わった。皆さんからエネルギーをいただきました。」
今後も、ハフポスト日本版とRethink PROJECTはZ世代とともに地域の課題を考えていく。
■ Rethink PROJECT概要
「Rethink PROJECT(リシンク・プロジェクト)」は、JTがパートナーシップを基盤に取り組む地域社会への貢献活動の総称。「Rethink=視点を変えて、物事を考える」をキーワードにこれまでにない視点や考え方を活かして、パートナーと「新しい明日」をともに創りあげていくために、社会課題と向き合う。
プロジェクトの詳細は、公式オンラインページから。
■ 三宅町 公式note
https://miyake-town.note.jp/