例えば、の話。あなたのもとに突然一人の見知らぬ子どもが現れ、「間違いなくあなたの子だ」と告げられたらどんな感情が湧き起こるだろうか。しかも、「その子の命はまもなく絶えてしまうので、救いたければあなたの命をかけるしかない」と。何とかしてあげようと思える? そんなの無理だと見捨てる――?
2019年7月16日から放送されるドラマ『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系、毎週火曜夜9時)では、主人公の男がそんな“極限状態”に置かれるところから物語が始まる。だが考えてみれば、「親」とはある日突然なるものともいえる。
親子の絆って、いつから、どのようにして特別になるのだろうか。主演する三浦春馬さんにインタビューした。
■父親って何? 優しさって何?
演じる主人公の結城大地は、人生に希望を持たず、毎日を投げやりな気持ちで過ごしている。しかしある日、過去に「ある出来事」により一方的に別れを告げた元恋人(青柳すみれ=比嘉愛未さん)が現れ、自身との娘・はな(稲垣来泉さん)を産んでいたこと、既に8歳で、白血病を患っていることを明かす。結城は、はなの骨髄移植手術のドナーに適合したことで再び生きる意味を見出すが、身に覚えのない殺人事件に巻き込まれ、容疑者として追われる身に。検察や警察、政治家などさまざまな人物の思惑や陰謀が絡み合う中、手術までの2週間、「逃亡」に命をかけることではなを救おうとする――。これがドラマのあらすじだ。
三浦さんは脚本を読んだときの印象を「シンプルだけど、強い思いが込められた作品。父親というアイデンティティーを前面に押し出した役どころは新しい挑戦なので、自分がこのキャラクターをどう『生きる』のかというのがとても楽しみです」と語る。
「娘を救うために命をかける」と聞けば、立派で強い父親を想起しがち。でも結城は、はなの存在が発覚するまでの8年間、自堕落な毎日を送り続けていたという設定だ。
インタビューした日、ちょうど結城が初めてはなに出会うシーンを撮影したばかりと聞き、三浦さんに“父”になった感想を尋ねると、慎重に言葉を選びながら答えてくれた。
「これは本当に父親としての感情なのか、どうなのか。まだ言い切ることはできないと思います。もちろん、『愛らしい』とか『守ってあげたいな』とかいう感情は湧き上がってきたんですけど」
スケールの大きな逃亡劇に説得力を与える核となるのが、主人公の「父親としての愛情」ということだが?
質問を重ねると、「役として自分の娘だという確信を得るまでに至っていなくて……」と前置きしながら、「でも、もっと大きな感情が生まれていく、予感みたいなものは感じました」。
そして、その未だ言語化できない「感情」が大きく膨らんでいく過程をリアルに描くことこそが、逃亡劇の推進力になると語った。
「結城は過去に色々なことがあったせいで自分に希望を持てません。一方で、他者のことも信じられない男です。そんな彼が再び『生きよう』と思えたのは、自分を100%信じてくれるはなという存在に出会ったから」
子どもも、一人の“他者”だ。
「自分を受け入れてくれる他の誰かのためなら、強くなれるのではないか。そこが結城の変化の始まりなんだと思います」
8年前、「ある出来事」によって、大切な人を傷つけて姿を消す選択をした男、結城。
三浦さんは「心根は優しい」と理解を見せつつも、傷つけられる側は得てして、そんな「優しさ」は求めていないのではないかと疑問を投げかける。
「相手のことを考え過ぎた結果、思ったことを言わない。そういう部分は自分の中にもあります。でもその『優しさ』は、相手が期待していたことなんだろうか。本当の優しさとは何なのかということも、結城を通して学べたらと思います」
■「一人」では挫折は乗り越えられない
三浦さんに「父親」というテーマで話を聞きたかったのには、今回のドラマで主演すること以外にも理由があった。一見、全く違うように見えるミュージカル作品と、通じるものがあったからだ。
三浦さんはこのドラマの撮影に入る直前の2019年4~5月、ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』日本版で主演。男性でありながら女性の装いをすることに誇りを持つドラァグクイーン・ローラ役で、「男らしさ」や「女らしさ」の枠を揺さぶる美しさを体現して喝采を浴びた。
体いっぱいのエネルギーを振りまくドラァグクイーンと、人生に挫折して“父”になり損ねている結城。真逆の役どころのようだが、新しい「男らしさ」を探しに行くという意味では通底している。
結城は強大な組織による追撃や陰謀に、ひたすら逃げることで抗う。彼をエンパワメントするのは娘のはなという小さな「他者」であって、力を誇示する硬い鎧ではない。
「父親らしさ」はともすれば旧来の「男らしさ」と容易に結び付けて語られがちで、『キンキーブーツ』のローラも、あるがままの自分でいることを受け入れてくれない父親と、関係が疎遠になった過去を背負っていた。
そんなローラを演じた三浦さんは今回、「父親らしさ」と、どのように向き合おうとしているのだろう。聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「『父親なんだから』とか『母親なんだから』とか、言われた途端にそれらしくなれるわけじゃないと思うんですね。まず他者を受け入れ、自分自身と向き合う。負い目から逃げずに、少しずつ変わっていく。葛藤も含めて、丁寧に感じながら演じたいです」
他者を受け入れれば、自分が変わる――。これは『キンキーブーツ』で繰り返されたキーワードでもある。舞台経験を通してそんな視点を豊かにした三浦さんは、父親像をどうリアルに演じるのだろうか。
■アクションの「一瞬」まで繊細に
三浦さんは、今回のドラマを「舞台で培った表現手法を、映像の世界でどこまで使えるか、トライする機会でもある」と位置付けている。逃亡劇のスリリングな展開はもちろん純粋なエンターテイメントとして楽しめるが、走り回ったり、時には追っ手と組み合ったりする激しいアクションをこなしながら、結城の「変化」を繊細に表現することを求められる。
「例えば、垂れた髪の毛の間から一瞬抜けて見える眼差しの強さが大事だったりすると思うんです。身体の動きとして目を見張るような瞬間や、観ている皆さんに『今の演技にはどういう意図が込められているんだろう?』と考えてもらえるような瞬間。カメラマンともしっかり息を合わせて、大切な一瞬を互いに感じて、アングルにもこだわりたい。アングルなんて、本来俳優が気にすることではないのかもしれないけれど……。監督の指示も仰ぎながら、観ている人に『どう届くのか』というところまで丁寧に意識して作りたいんです」
子役としてキャリアをスタートした三浦さん。過去の複数のインタビューには「俳優を辞めたい」と思ったこともあったと明かしている。でも29歳になった今、「演じること」についてまっすぐに語る目の奥には、静かで熱い、確かな光があった。
大切な娘のために覚悟を決めた結城のように、「俳優として生きていく覚悟」を決めた?――そう尋ねると、「いや、そんな大したことじゃないです」と笑った。
「覚悟っていうと、死ぬ気でやってるか、とかよく言いますよね。そうでもないし、だって死にたくないし(笑)。でも、『ぶれない自分自身をつくる』という意味でいえば、以前よりうまく取り組めていると思います」
今回は、ドラマの主題歌を自身が歌うことでも話題を集める。
「今は、仕事が純粋に楽しくて、新しい自分に会いたい、面白いことやりたいって気持ちがすごくあるんです。そういうさまを外側から見てもらったときに、『三浦春馬、面白いね』って感じてもらえる自分でもあれたら嬉しいですね」
(取材・文:加藤藍子@aikowork521 写真:渋谷純一)