「もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」三笘薫選手のボールを気象学者が地球に例えた理由とは?【ワールドカップ2022】

ほんのわずかゴールラインの内側に残ったボールについて、地球の大気と同じだと指摘。「言葉の意味は分からんがとにかく凄い自信だ」などと大きな反響を呼んでいます。
カタールW杯1次リーグのスペイン戦で、ゴールラインぎりぎりでクロスを上げる三笘薫選手(現地時間2022年12月1日撮影)
カタールW杯1次リーグのスペイン戦で、ゴールラインぎりぎりでクロスを上げる三笘薫選手(現地時間2022年12月1日撮影)
via Associated Press

サッカー・カタールW杯のハイライトの一つは、日本の三笘薫(みとま・かおる)選手が1次リーグのスペイン戦で見せたクロスボールだったことに疑いの余地はないだろう。

51分、ゴールラインを越えそうになったボールをぎりぎりで折り返して、田中碧選手の勝ち越しゴールにつなげた。一見、三苫選手が蹴った際にボールはゴールラインを割っているように見える。しかし、複数のアングルで映像を確認するビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)の結果、ボールの一部がライン内に残っていたことが分かり、田中選手のゴールが確定。まさに紙一重だった。真偽は確認できないが、ゴールラインに残った部分は1.88ミリだったという情報もSNS上で拡散されている。

この判定に関して、ある気象学者のツイートが話題になっている。お茶の水女子大学助教の神山翼(こうやま・つばさ)さんが、「お茶大気象学研究室(OchaMet)」のアカウントで12月4日に投稿した。

一連のツイートで「我々の住む地球大気(対流圏)の薄さ16キロ」は、地球の半径約6400キロの0.3%に当たると指摘。一方、三苫選手の蹴り返したボールは半径11cmのうち1.88ミリがゴールライン上に残ったと言われているため、事実ならボールの半径の1.7%に当たる。神山さんは「もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」と訴えている。

三苫選手のボールも地球の大気と同様に「球の表面の薄い部分」が無視できない重要な結果をもたらしていることを踏まえたものだった。

三苫選手の蹴り返したボール(半径11 cm)が1.88 mm(半径の1.7%)だけライン上にギリギリ残っていたことでゴールが認められ、スペイン戦に勝利したそうですね🙌
我々の住む地球大気(対流圏)の薄さ16 kmは、地球半径6371 kmの0.3%です。もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません。 pic.twitter.com/YyEPV3dt2X

— お茶大気象学研究室(OchaMet) (@ochamet_tklab) December 4, 2022

図解: これよりも薄い地球大気に我々は住んでいます。気象学は、このような薄い膜の中の現象を明らかにする学問です。 pic.twitter.com/ZC3w7CDWpJ

— お茶大気象学研究室(OchaMet) (@ochamet_tklab) December 4, 2022

地球半径(固体地球と地球大気を合わせた部分の半径)が約6400 kmなのに対し、大気の薄さが16 kmで0.3%と言った方が、たとえとしてはより正確だったかもしれません。「地球」に地球大気を含めないという定義だと、ノーゴールになってしまいますので。笑

— お茶大気象学研究室(OchaMet) (@ochamet_tklab) December 4, 2022

冒頭のツイートは12月8日までに約1万2000回もリツイートされ、大きな反響を呼んだ。「例えが壮大過ぎてワロタ」「ボールのたった1.7%と侮るなかれ、ってことですね」「言葉の意味は分からんがとにかく凄い自信だ」など、さまざまな声が出ている。

■「気象は、地球のまわりの非常に薄い部分で生じる現象」という知識が広まってうれしい。投稿した神山翼さんとの一問一答

 ハフポスト日本版では、このツイートをしたお茶の水女子大学理学部情報科学科・助教の神山翼(こうやま・つばさ)さんに取材した。

実はちょうど「地球大気のように0.3%の薄さを説明する日常的な例を1つ考えてみよう」というレポート課題を出して、学生たちに考えてもらっていたところだった。そんな中、三苫選手のクロスボールをめぐるVAR判定を知って「とても良い例」と思い、専門外の人にも伝えるためにTwitterで投稿したのだという。

SNS上での多くの反響については、「気象のことを日常的には考えないような方にも『気象は、地球のまわりの非常に薄い部分で生じる現象である』という知識が届いたことを、とても嬉しく思っています」とコメントしている。

一問一答は以下の通り。

―― 神山研究室では普段、どんなことを研究していますか?

気象学に関することを広く研究しています。たとえば、異常気象をもたらす地球規模の現象の研究、台風や竜巻など災害をもたらす現象の研究、大気に生じる波のデータを分析する研究、雲の観測手法の研究など、多岐に渡ります。また、必ずしもすぐに役に立ちそうな研究ばかりでなく、古気候や渦のシミュレーションなど純粋な科学的興味による研究も多いです。

―― 「もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」というツイートですが、たとえ1.7%という微妙な差違でも、地球の大気など科学的には極めて重大な差異だ……という趣旨かなと思ったのですが、それで合っているでしょうか?

そのような理解で大丈夫ですが、特に今回、三笘選手が折り返したボールのように「球の表面の薄い部分」が無視できない重要な結果をもたらす例として、地球の大気を挙げました。 

―― 「気象学研究室」のアカウントで、今回のツイートをしたのはどんな経緯だったのでしょうか?

大気・海洋科学概論という担当講義において、ちょうど「地球大気のように0.3%の薄さ(長さ)を説明する日常的な例を1つ考えてみよう」というレポート課題を出して、学生さんたちに考えてもらっていたところでした。そこで、本試合のVAR判定がとても良い例であることをぜひ専門外の方にもアウトリーチしたいと考え、今回のツイートをするに至りました。

 ―― この投稿は8万件以上の「いいね」がつき多くの反響が集まりましたが、どのように感じていますか?

 気象のことを日常的には考えないような方にも「気象は、地球のまわりの非常に薄い部分で生じる現象である」という知識が届いたことを、とても嬉しく思っています。

 ―― 中には「難しすぎてたとえが分からない」と混乱する声もありましたが、こうした意見をどう感じていますか?

Twitterは140字で全てを伝えなければいけないので、ある程度は仕方ないと思います。

―― 日本代表はその後、決勝トーナメントのクロアチア戦で惜しくも敗れました。今回のワールドカップでの戦いを振り返ってどう感じましたか?

一昔前と比べて日本代表が随分強くなっていて、夢をもらいました。私も人類の気象学を少しでも前に進め、皆様に夢を与えられるよう頑張りたいと思います。

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