インターネットを通じて、性の多様性についての情報にもアクセスしやすくなった現代。しかし、性別適合手術に関する情報を十分に得ることは難しい現状だという。
「手術やホルモン治療は体への負担はもちろん、不安や精神的な副作用なども伴うので、当事者の経験談や情報にアクセスできるコミュニティが不可欠です」
そう語るのは、トランスジェンダー女性ではじめて、ミス・ユニバース・ジャパンに挑戦中のminaさんだ。
「大勢の人の前で話すのが苦手」だというminaさんはなぜ、大会への出場を決めたのだろうか。その背景と現在の活動、そして目指す未来について聞いた。
ネットでは出回らない、性別適合手術の「リアル」
─── 今日はよろしくお願いします。早速ですが、minaさんの現在の活動内容について教えてください。
InstagramやTikTokなどのSNSを通じて、私と同じように性別適合手術を受けられた方々やこれから手術を受けたいと考えている方々に情報発信を行っています。
今はネットを通じて色々な情報にアクセスできる時代ですが、手術やホルモン治療などについてのセンシティブな情報は意外と世に出ていないんです。でも、今は私が知っている限りでも4種類も手術方式がありますし、それぞれにメリットとデメリットがあるので、自分にとってどれが一番いい方法かを考える上で情報収集は欠かせません。さらに、性別適合手術はバンコクをはじめとした海外で受ける人も多いので、その場合は数ある通訳会社の中から、アテンドする1社を選ぶ必要もあります。
情報収集は個人ベースのコミュニケーションを通じて行うことが多いのですが、一口にトランスジェンダーと言っても、当たり前に色々な性格の人がいます。そういった中で、例えば内向的な性格の人にとっては、積極的に色々な場所へ足を運んで話を聞いたりすることの精神的なハードルも高く、十分な情報を仕入れることはとても難しいことだと感じます。手術やホルモン治療は体への負担はもちろん、不安や精神的な副作用なども伴うので、当事者の経験談や情報にアクセスできるコミュニティが不可欠です。
治療中のトランスジェンダーの方が自ら命を立ってしまう事例も少なくないと言われていますし、安心できる情報源やセーフティネットがあれば、少しは力になれると思うんです。まだまだ発信力においては駆け出しですが、ミス・ユニバース日本大会へのチャレンジをはじめ、発信者としての力もつけていきたいと思っています。
─── 大きなマイノリティ性を持った人でも、以前よりは生きやすい社会になってきているように感じますが、依然として当事者が「頑張らなくてはいけない」現状がある。
そうですね。性別適合手術の他にも、トランスジェンダーの当事者が社会の中で抱える不安の対象や度合いも、個人単位で大きく異なってきます。
例えば、私は20代に入ってから女性として生活するようになったので、男性として生きていた時間が長いこともあって、未だに周囲の視線を気にしてしまう癖があります。もっと早い段階で女性(または男性)として生きはじめた当事者の中にもグラデーションがあるので、決して単純化はできませんが、私自身に関して言うならば「もっと早い段階から女性として生きはじめていたら、今よりも堂々とできていたのかもしれない」と思うこともありますね。
─── minaさんが、割り当てられた性別と性自認が異なると感じたのはいつ頃だったのでしょうか?
家族に打ち明けたのは20歳を過ぎてからでしたが、「周囲の男の子と違うな」という感覚はすごく小さい頃からありました。保育園では女の子の友達とおままごとをして遊んでいましたし、セーラームーンが好きでテレビを見ていたら「見ちゃダメ!」と母親にチャンネルを変えられていたのを覚えています。
女性的なファッションや表現を楽しむようになったのも、20歳くらいの頃です。当時はアニメが大好きだったので、同棲していた人と一緒にコミックマーケットに行ってコスプレや、いわゆる“女装”も楽しんでいました。私が女性ものの服や下着を持っているのを知ったとき、母は動揺していました。それから当時のパートナーと一緒に住み始めたタイミングで、彼が「もう話しちゃえば?」と背中を押してくれたんです。
母に関して「すごいな」と思うのが、実は私のことをずっと分かってはいたんですよね。心の奥底から受け入れて理解するのは時間もかかったと思いますが、母自身が葛藤している間にも、私が自ら打ち明ける準備ができるのを待っていたんだと思います。なので、打ち明けたときは「やっぱりそうだったのね」という感じでした。
「多目的トイレを使えばOK」とは言えない理由
─── トランスジェンダーの女性として生きる上で、minaさんご自身が苦労していることはありますか?
た〜っくさんあります!でも強いて言うなら、やっぱり日常生活で欠かせないトイレですね。今は基本的に女性用のトイレを使用していますが、多目的トイレを使っている時期もありました。
よく非当事者の方から「多目的トイレを使えばいいじゃん」と言われるのですが、多目的トイレはその名の通り、色々なニーズに応えるためのトイレなんです。私が多目的トイレを使用した後に扉を開けたら、外で車椅子利用者の方が待っていたこともあり、なんだか申し訳ない気持ちになったのを覚えています。
─── トイレや温浴施設に関しては、これからも議論が長期化していきそうですね。
私個人としては、現時点では「仕方ないよね」と割り切っている部分もあります。世界中に多くのトランスジェンダーの方々がいる中で、戸籍の変更ができなかったり、性別適合手術に保健が適用されなかったり、私が日本で叶えてきたことを叶えられない国もあることも忘れないようにしています。もちろん、まだまだ日本社会が改善すべき課題は残っていますし、周縁化されている方々もたくさんいるので「十分」とは到底言えませんが、LGBTQ後進国と言われている日本でも、少しずつトランスジェンダーの法整備に関しては進んでいるようにも感じています。
LGBTQ全体に関して言えば、私が特に早く実現してほしいと思っているのは、ゲイやバイセクシュアル、レズビアンの方々のための同性婚のための法整備ですね。自治体が同性カップルの関係を認めるパートナーシップ制度は少しずつ導入されていますが、やはり法的効力のある結婚とは大きく異なります。
繋がないと途絶えてしまう。ミスユニバース・ジャパン出場の背景
─── ミス・ユニバース・ジャパンへの挑戦を決めた背景について、詳しく教えてください。
ミス・ユニバース・ジャパンが求める“美しい女性”の定義は「豊かな人間性・知性・自信に溢れ、社会に前向きな変化をもたらす女性リーダー」とされており、今年から出場年齢制限がなくなったことが大きなきっかけでした。
ミス・ユニバースの世界大会にトランスジェンダーの方が出場して活躍しているのを知っていたので、自分も日本から挑戦してみたいなと思ったんです。冒頭でお話ししたように、多くのトランスジェンダーの方々のセーフスペースや情報源になるようなコミュニティを作っていきたいので、発信力を育てていきたい思いが最も大きいですね。書類審査ではSNSのフォロワーの方々をはじめ、本当に多くの方々が協力してくださったので、皆さんの思いを背負っているつもりで応募しました。
実はその後の面接で、代表の方から「世界大会にトランス女性が出場することはできるけど、そこでグランプリを取った人は一人もいません。それでも挑戦しますか?」と聞かれました。普段の私なら気負けしてしまいそうな質問ですが、その時は勢いで「私が覆してやる!」みたいなことを言っちゃったんです(笑)。
私の回答を聞いて、面接をしてくださった方がニコッと笑ってくださったのをよく覚えています。今は体作りやウォーキング練習などに取り組んでいるのですが、実は私、人前で話すことが苦手でリズム感も全然ないんです(笑)。ショーパブで働いていた時期もあるのですが、その頃から振り覚えは悪くていまだに克服していないので必死で練習に臨んでいます。「やってやる!」と言ってしまったからには頑張らなくてはいけませんね。
─── ミス・ユニバース・ジャパンへの挑戦を通して、どのようなメッセージを発信したいですか?
大会では、今までのSNS中心の発信とは異なり、私のことを全く知らない人たちの前に立つことになります。それは怖いことでもありますが、だからこそ、そういった場で堂々とした自分の姿を見せることで、トランスジェンダーの方々に「自分にもこういうことができるんじゃないか」と希望や勇気を与えられたらいいなと思っています。
そしていずれは、その人たちの中の誰かが未来の発信者になって、より多くのトランスジェンダーの当事者が生きやすい社会を作っていってくれるかもしれない。
現在の社会に至るまでの背景には、GENKINGさんやはるな愛さんなどの先駆者がいます。特に私は私を育ててくれた京都のショーパブのママに憧れているんです。トランスジェンダーでも他の人と同じように輝ける社会は、誰かが旗振り役になって繋いでいかないと途絶えてしまうものなので、今度は私がそれを担う番なのだと思います。