ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナに、旧ソ連製の戦闘機「ミグ29」を提供する件をめぐって混乱が続いている。ウクライナ空軍が使用しているミグ29戦闘機は、ポーランドなどNATOに加盟する東欧諸国でも現役。ウクライナ軍のパイロットも操縦に慣れている。そのため、ウクライナ政府は東欧諸国からの提供を呼びかけていた。
アメリカが検討していたのは、ポーランドがミグ29をウクライナに提供して、その代償としてアメリカがポーランドに別の戦闘機を提供するプランだった。一方、ポーランドは、ミグ29をアメリカに提供するプランを発表。アメリカを通してウクライナに提供することを示唆したが、アメリカ政府は拒否した。
ロシアと交戦中のウクライナに戦闘機を提供すれば、ロシアの報復攻撃を受ける可能性が指摘されている。ポーランドもアメリカも自国の手は汚さないように「どうぞどうぞ」と譲り合う状態になっている。
■ウクライナのゼレンスキー大統領が東欧の戦闘機の提供を求めていた
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月5日、アメリカの国会議員団とのオンライン会議で、東欧からの旧ソ連製の戦闘機の提供を求めていた。
オンライン会議に参加したブラッド・シャーマン議員はTwitterで「彼の主な要請は、ポーランドとルーマニアが旧ソ連時代の戦闘機をウクライナに提供することを可能にすることだった。アメリカがこの2国に、より高度な戦闘機を提供して補填することも求めていた」と投稿していた。
こうした動きを受けて、アメリカのブリンケン国務長官は6日、ポーランドを通じてウクライナへの戦闘機の供与を検討していると明らかにした。
ポーランドがウクライナ軍の兵士が操縦に慣れている旧ソビエト製の戦闘機を提供し、その代わりにアメリカがポーランドに新たな戦闘機を送る枠組みを検討しているとした。
■ポーランドはミグ29のウクライナへの提供を一度は「フェイクニュース」と否定
ガーディアンによるとポーランドは、現在も計28機のミグ29を配備しているとみられている。
「ポーランドがウクライナにミグ29を提供する」という報道も流れたが、ポーランド首相府は6日、「フェイクニュース」と公式Twitterで否定。「ウクライナには戦闘機を送らないし空港の使用も認めない」と投稿した。
ポーランド政府はロシアからの報復攻撃を恐れていた可能性がある。イギリスのウォレス国防相は「このアイデアを実行に移せばロシアがポーランドを攻撃する可能性がある」と指摘していた。
■ポーランドは一転して、ミグ29をアメリカに任せるプランを示すが、アメリカは「実現不可能」と拒否
しかしその後、ポーランド政府は姿勢を転じた。同国外務省は8日、米軍を通してミグ29をウクライナに引き渡す可能性を示唆する発表をした。自国で所有するミグ29をドイツに移動して「アメリカが自由に使えるようにする準備ができている」と声明を出した。
ポーランドのラウ外相による声明は、「大統領と政府の協議の結果、すべてのミグ29をラムスタイン空軍基地(ドイツ西部にある米軍基地)に即座に無料で配備し、アメリカ合衆国政府が自由に使えるようにする準備ができている」というものだった。
アメリカに対して代用となる戦闘機をポーランドに提供することのほか、ミグ29を配備する他のNATO同盟国(スロバキアとブルガリア)に対しても同じ行動を取るように要請していた。
しかし、アメリカはポーランドの提案を拒否する考えを示した。アメリカ国防総省のカービー報道官は同日、「ポーランドの提案が実現可能なものとは考えていない」と声明を発表した。
アメリカの立場については「ポーランド所有の航空機をウクライナに譲渡するかどうかは、最終的にはポーランド政府が決めること」と丸投げした。
その上で、ロシアと交戦状態にあるウクライナ上空に向けて、ドイツの米軍基地からアメリカ政府の手で戦闘機を飛ばすことは「NATO全体に深刻な懸念を生じさせる」として、ポーランドの提案を拒否している。
■ロシアはウクライナ周辺国に対して、ロシア攻撃のための空域使用は「参戦と見なす」と警告
一方、ロシアはこうした動きに神経を尖らせていた。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は6日、ウクライナの軍用機の着陸を認めているとして、NATO加盟国をはじめウクライナ周辺国に警告した。時事ドットコムでは次のように報じていた。
「ルーマニアなどにウクライナの軍用機が飛来しているのを知っている。軍用機を駐留させたり、ロシア攻撃のため空域を使用させたりすることは参戦と見なす」