PRESENTED BY 朝日新聞社メディアビジネス局

なぜ働き盛りの30代より高齢者の方が「健康です」と答えるのか

3人のメンタルヘルスのプロが「ハラスメントが及ぼすメンタルの不調」について語った。
働く人のメンタルヘルスケアセミナー基調講演の様子
働く人のメンタルヘルスケアセミナー基調講演の様子
HuffPost Japan

12月は厚生労働省により「職場におけるハラスメント撲滅月間」に定められています。これにちなみ、11月29日に朝日新聞東京本社の読者ホールで開催された「働く人のメンタルヘルスケアセミナー」では、様々な立場からハラスメントについての講演が行われました。

「ハラスメントが及ぼすメンタル不調をなくすためには」

横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長で心療内科医の山本晴義先生
横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長で心療内科医の山本晴義先生

メンタルが弱ってしまった人の病気にはうつ病などがあり、その先には非常に厳しい問題ですが自殺ということもあります。その原因がパワハラ、セクハラなどであってはいけないと常に考えていますが、実際は職場でのハラスメントによるところが大きいのが現状です。

皆さんは健康でしょうか。高齢者を対象とした講演でこの質問をすると、多くの人が自信を持って「はい」と答えます。皆さん何かしらの持病があるのですが、心が健康だから元気よく「はい」といえるのです。

一方、30代の働き盛りの人に同じ質問をすると、数えるほどしか「はい」と答えません。30代でセミナーに参加している人たちが、大きな病気をしているとは思えませんよね。でも、ほとんどの人が自分は健康だと答えられない。彼らはメンタル不調を抱えているのです。
 
私は2000年から “勤労者こころのメール相談”(mental-tel@yokohamah.johas.go.jp)という窓口を開設しています。なかには「死ぬことにします」「過労の夫が心配です」など、深刻なメールも多く見られます。

過労、つまり過重労働もハラスメントの一つです。厚生労働省によるストレスチェック制度では、ストレス反応の症状がたくさんある「高ストレス者」に産業医との面接を勧めています。これはストレスの原因が職場にあるか、それ以外にあるかを診断し、適切なアドバイスをするためなのですが、厚生労働省の報告によると面接をしている人は1%にも満たないのが現状です。

ストレスによる体調不良を感じたら「こんな生活をしていてはダメだよ」という体からのサインですから、もっと積極的に産業医に相談してもらいたいですね。

また、上司・同僚・家族のサポートがあると症状にブレーキがかかることがわかっています。悩みを相談できるサポーターが身近にいて、心の不調から立ち直れる環境がきちんと整っている職場もあります。ぜひとも一人ひとりがサポーターになっていただきたいと思います。

「メンタルヘルスと労務管理の視点からみたパワハラ・セクハラのリスクマネジメント」

東京海上日動火災保険株式会社広域法人部部長でメンタルヘルス・マネジメント検定広報大使の横山昌彦氏
東京海上日動火災保険株式会社広域法人部部長でメンタルヘルス・マネジメント検定広報大使の横山昌彦氏

全国の労働局などにある総合労働相談コーナーには労働相談が毎年100万件ほど寄せられており、そのうち25万件強が民事労働紛争にまで進んでいます。精神障害の労災認定は500件前後で、その原因としてパワハラをはじめとしたハラスメントが多く認められるのが現状です。パワハラを類型化すると①身体的な攻撃②精神的な攻撃③人間関係からの切り離し④過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害の6種類になります。

②に顕著なのが暴言で、具体的にどんな言葉が裁判の判例に載っているか見てみると「存在が目障りだ」「お願いだから消えてくれ」「給料泥棒」「バカかお前は」「何をやらせてもだめだな」「いてもいなくても同じだ」、これらはすべて裁判でパワハラと認定されています。

もちろんここに、暴言が発せられた場面や口調、態度、継続性などが加味されますが、人格を否定する言葉を継続的に浴びせるケースは、パワハラの認定を受けると考えてよいでしょう。ちなみにパワハラが法的に定義されたのは2019年のことで、そこでは「優越的な関係に基づく業務上必要かつ相当な範囲を超えた場合であって、かつ労働者の就業環境を害すること」と定められています。
 
セクハラは事実の有無、合意の有無が争点になりがちですが、合意の有無については、上司・部下の関係ではほとんどが認められませんので、組織ぐるみで意識を高めましょう。近年セクハラを抜く勢いで急増しているマタハラについては、そもそも長時間勤務と育児・出産は相いれないことを念頭に置き、勤務時間ではなく仕事の成果で評価するなど、働き方や評価制度を変えることに力を入れてください。

ハラスメントは加害者だけでなく、企業にも法的責任等が生じる深刻な問題です。企業が労務管理責任を問われると、賠償金もかかります。年収が500万円ぐらいで被扶養者が2人いる社員が労災事故で死亡、あるいは後遺障害を負った場合でシミュレーションしてみると、死亡の場合は約1億円、後遺障害1〜4級の場合、最大で約1億3千万円賠償金を支払うケースも考えられます。政府労災保険には賠償という概念がないので、慰謝料や逸失利益の賠償は対象になりません。ですから、1億円前後の企業負担が生じることになります。

社員にとっても、企業にとっても不幸なハラスメントによる労災認定を起こさないために、事業主・人事担当者は①事業主の方針の明確化と周知・啓発②相談に対応する体制づくり③事後の適切な対応④管理職のマネジメント能力向上の4点に注力することで、ハラスメント防止に努めましょう。

「産業医が診て看(み)るハラスメント」

合同会社まつせ労働衛生コンサルタント事務所で産業医・臨床医の松瀬信二先生
合同会社まつせ労働衛生コンサルタント事務所で産業医・臨床医の松瀬信二先生

産業医が守るのはメンタルケアが必要な社員だけではありません。健康な社員も、会社の資産や価値も、雇用のルールも、産業医にとってはすべて大切です。ですから私たちは医学だけでなく、心理学や裁判の判例も知っていなければならないのです。

ただ、どれかに偏った判断をするのは問題です。判例上ハラスメントに当たらないケースであっても必要があればやめさせますし、叱咤(しった)激励をハラスメントだと思っている人にはきちんと説明する。このように個々を見ながら会社全体をケアするのが産業医の役割です。
 
私たちが人を診るときには二つのことを考えます。一つは会社に不法行為がないかということ。暴言や暴力などの明らかなハラスメントはないか、異常な長時間労働による致命的な病気はないか。このような点には面談でもとくに気をつけています。

もう一つは社員のタイプです。組織内には「他人に何をしてあげられるか」を考えるGiver、「何をしてもらえるか」を考えるTaker、「何かしてもらったから、してあげる」と考えるMatcherの3タイプがいて、通常その内訳はGiverが25%、Takerが19%、Matcherが56%程度といわれています。

ところがハラスメントが蔓延(まんえん)すると、Takerが増えてGiverが減るようになる。職場環境のバロメーターとして、3タイプのバランスはいつも注視しています。

私たちは公平中立で口が堅く、何かを聞かれたら確実に答えを出すことをモットーとしています。よい産業医が育てば会社の環境はよくなりますから、どんどん相談してください。

[主催]株式会社デラ(Sound Supple/心と身体にやさしい音楽)、スマートクリニック株式会社(MEDICAL PRIME)、株式会社メディカルクレア
[協力]朝日新聞社メディアビジネス局
[紙面協力]新興医学出版社、日本医事新報社 

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