「目元の暗みは眠たそうな目に見える原因です。コンシーラーを使って取り除いてあげるとキリッとした印象になりますね✨」
こんな言葉とともに【メイク前】【メイク後】の比較写真を投稿しているのはメイクアドバイザーの高橋弘樹さん。女性誌などではおなじみの"メイクレッスン"と"ビフォー・アフター写真"だが、高橋さんがメイクを施しているモデルは全員男性だ。
「#メンズメイク」というハッシュタグをTwitterで検索してみると、メイクで劇的に表情が変わった男性たちの顔が並び、メイクの仕方などがレクチャーされている。高橋さんのブログやYouTubeの投稿には、女性からも「参考になった」などのコメントが多数寄せられている。
男性の化粧って今流行っているの?一体なぜ?「僕が提案するメンズメイクは、あくまでも化粧品を使ってコンプレックスを緩和すること」と語る高橋さんに、ビデオチャットを使ってあれこれ聞いた。
——そもそも、なぜ男性にメイクをしようと思ったんですか。
僕自身のコンプレックスが原体験にあります。僕はかつて、肌荒れにすごく悩んでいました。スキンケアだけでは解決できなくて何か方法はないかと探していた時に、メイクでコンプレックスを軽減できると気づいたんです。
ただ、それは僕個人の解決方法であって、10年くらい前って「男性のメイクは"おネエ系"の人のもの」という固定観念がなんとなく社会にあって男性がメイクしづらい雰囲気だったので、他人にメイクをすることは躊躇していました。
その後、美容系の専門学校に通い、化粧品メーカーの美容部員として働き始めたのですが、接客の中で、男性にコンプレックスを克服するためのメイクをさせていただいたところ、僕が思っていた以上にすごく喜んでくださったという経験があって。
それで、これは結構ニーズがあるのかなと思うようになり、本格的にメンズメイクをSNSで提案するようになりました。
——メンズメイクって、女性のメイクとは違うものなんですか。
そうですね。そもそも考え方が違うかもしれません。
男性用・女性用という以前に、僕はメイクには2種類の意味があると思っています。1つは、コンプレックスを克服するためのメイク。マイナスを埋めるメイクですね。もう1つは、より見られたい自分を演出するためのメイク。これはプラスに盛るためのメイクです。
女性のメイクというのはその両方を組み合わせたものだと思うのですが、僕の考える男性のメイクの意味合いは前者だけなんですよ。
メンズメイクは、コンプレックスを克服し前向きに人とコミュニケーションできるようになるためのツールだと思っています。
そういった意味で実際のメイク内容も少し異なってくるかもしれないですね。
——メンズメイクの基本的な流れはどういう感じなのですか。
女性のようにマスカラやチークなどのポイントメイクはほとんどなくて、基本は顔の印象を変えるベースメークですね。ただし、ファンデーションは使いません。一気に化粧感が出ててしまうので。
基本の動作としては、まずコンシーラーを使って、シミや気になる部分をカバーします。次が眉。書き足したり整えたりします。次が鼻筋を目立たせるためのノーズシャドウを塗ります。
その次が一番ポイントとなるシェーディングパウダー。顔に影をつけるために、顔より少し暗い色のシェーディングパウダーを頬のあたりに入れます。影を作ることで、顔に何かを塗っている感がかなり軽減されるんです。シェーディングパウダーはより自然に爽やかに見せたいメンズメイクで必須アイテムですね。
それから更に顔に立体感を出すためにハイライトを入れて、最後にリップクリームを塗ります。これが基本にあって、目にコンプレックスがある方に関しては、アイプチやアイライン、涙袋をつくるためのアイブロウパウダーなどを使ったアイメイクをします。
それから人によってはチークをガンガン使います。青クマや青髭がひどい人にはオレンジチークを使ったりします。
——男性から相談される顔のコンプレックスってどういうものが多いのでしょうか。
圧倒的に多いのは「目」ですね。一重まぶたではれっぼたいのを何とかしたいという相談が多いです。次に多いのが「肌荒れ」。それから「全部」と言われることもよくあります。「全部」という方は、メイクが縁遠すぎて何ができるものなのかがそもそもわからず「全部」と言ってしまうんだと思います(笑)。
——一重まぶたを二重にする「アイプチ」をされているモデルさんが結構いらっしゃいますね。
一重まぶたは男性らしい顔立ちになりやすいのですが、そういった男性らしさをコンプレックスと捉える方が多いんです。
今の25歳ぐらいより下の世代の人たちって、男性の顔に求める魅力が、凛々しさや男らしさじゃなくて中性的なかっこよさなんですよね。
人気のある男性芸能人やモデルさんを見てもそうですが、中性的な顔立ちの方って多いですよね。若い女性が中性的な男性を好きになってきているので、それに応じるようにして男性も中性的な顔立ちを望む人がすごく多いです。
アイプチを使って二重にするのは、目を大きく見せたいというよりも、中性的な顔立ちを作り出すのに効果的だからという理由が大きい。カウンセリングの中で、一重まぶたにコンプレックスがあって、自然な雰囲気で二重にしてあげられそうな方にはアイプチをしています。
——メイクをしてみた男性の反応っていかがですか。
みなさん驚きます、「別人みたい」って。あと、自分の顔が変わりすぎたことに対して「恥ずかしい」という感情もあるみたいです。
それから、普段女性ってこんなに大変なんだなぁというのは皆さん口を揃えておっしゃいますね。色々なアイテムを使っているのを実際に体験することで、時間や手間だけでなくお金もかかっているということを感じるんだと思います。
だから僕はいつも「女性は、化粧代も手間もかかっているんだから、男性はエスコートもしてあげないとね」って話しています。
——高橋さんのメンズメイクのテクニックは女性からも「参考になった」と言われていますね。どう受け止めていますか。
純粋にすごく嬉しいですね。なぜならメンズメイクって、女性に認められないと市民権が広がっていかないと思っているので。
女性が「男性がメイクなんて気持ち悪い」と思っている限り、やってみようかなと思う男性の数って増えないですよね。
女性が「いいじゃん」って言ってくれることがメンズメイクの広がりの起爆剤になると思っているので、女性からどんどん褒められたいです(笑)。
——実際には、メイクはマナーともいわれるように、メイクを要請されているような社会的なプレッシャーを感じる女性もいます。この先、メンズメイクがどんどん広がっていくと、今度はメイクのプレッシャーを感じる男性が出てくるでしょうか。
最初にお話したように、僕はメイクには2種類あると思っています。マイナスを埋めるメイクと、プラスに盛るメイク。
女性がプレッシャーを感じるのは、演出のためのメイクに対してだと思うんです。例えば、キャビンアテンダントの方だったら「機内で疲れている様子が伝わらないように健康的な肌に見えるメイクをしなければならない」とか、就職活動中の人だったら「きちんと見えるようにメイクしなければならない」とか。自分の見え方を演出することを求められる時、それを面倒に感じてしまったりするのではないでしょうか。
自分が「可愛く見られたい」、「モテ顔に見られたい」と思うのも演出です。
ただ、繰り返しになりますが、男性のメイクはそういった演出のためにプラスするメイクというよりもマイナスを埋めるためのメイクなので、メイクをしない男性が「俺もメイクをしなければいけない」という社会的なプレッシャーを感じる日は、なかなか訪れないような気がしますね。
——逆に、今メイクにストレスを感じている女性が少しでもプレッシャーから解放されるにはどうするのがいいと思いますか。
できれば、友人でも同僚でも誰でもいいので周囲にいっぱい褒めてもらうことだと思います。プレッシャーに感じるのは、結局「やらねばならない」という面倒くささが、「してよかった」という満足感を超越しないから。
「今日、リップ新しくしてみたんだ」、「顔色が良く見えるようにファンデーション変えてみたんだ」、と積極的に周囲に打ち明けて、「素敵だね」「かわいいね」「いい変化だね」と他人からの評価を得られれば、気持ちはもっと楽になるんじゃないかと思います。もちろん、たまにはメイクしない日があってもいい。
メンズメイクも女性のメイクも、「絶対やれ」ではないと思うんです。
それを通じて気持ちがより前向きになって、今まで苦手だった異性と会話が楽しくなったり、職場や学校で前向きに過ごす時間が増えたりすること、それが肝なんだと思っています。
▼高橋弘樹さんプロフィール
メイクアップアドバイザー。メイクサロンやヘアメイク事務所でアーティストとして活動し、化粧品開発部の実務を経た後、大手国産化粧品メーカーに所属。その後、"男性の肌ケア"に新しい時代をもたらすために独立し男性専門のメイク、コスメ開発に励む。
・YouTube:https://youtu.be/199I8B0rNzE
・Instagram:https://www.instagram.com/mensbeautyplan/
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